第拾捌話 Unexpected
浩二はその場に崩れ落ちた。
「離れろ!乗り移られるぞ!!」
翔太が叫ぶ。
全員がそれに従って浩二から離れる。ボスを除いて。
「理恵っ!!」
翔太がボス(理恵)の背後から駆け寄る。
バグン!!
ボスのバックブローが翔太の横っ面を捉え、広場の端まで吹っ飛ばす。翔太はピクリとも動かない。
さっきまでと明らかにボスの様子が違う。涎を垂らしながらニタニタ笑っているようにも見える。
キャアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー!!!
大きな雄たけびを上げながら陣に突進する。すぐに小杖が陣を突き飛ばすと、陣の存在感が消える。小杖の能力で「ずらした」のだ。
ボスのターゲットはすぐさま小杖に移る。小杖はボスの間合いギリギリで攻撃を誘い、回避しては移動を繰り返している。時間を稼いでいるようだ。恐らく、俺になんとかしろと言外に言っているのだろう。
とはいえ、先ほどの陰の気の衝撃波で、俺も小杖も結界はほとんど失った状態だ。直接戦闘でボスに敵うとは思えない。
俺は倒れた浩二を確認するが、すでに白骨化しているのが見えた。骨の上に衣服が掛かっている状態だ。
どういうことだろう?もしかして、浩二もまた、すでに殺害され、体を乗っ取られていたのではないだろうか。では、今ボスの体を乗っ取っているのは誰の意識なんだ?
浩二の骨の傍に注射器が落ちている。何を注射したんだ?『乗り移り』の能力の正体は?
しかし、今そんな事を考えている余裕はない。広場の周囲を多数の陰の気を持つ者が取り囲んでいる。恐らくは群れのサル達だろう。ボスの雄たけびは、この為だったようだ。このままでは、ボスに嬲り殺されるだろう。
浩二がしゃべった事から考えると、ボスに乗り移っている意識は、陰の気がなくなれば消滅するだろう。浩二の意識を消し去ることも可能だろうが、理恵さん諸共ということになるが、今はそこに賭けるしかなさそうだ。
まずは、囮の役を小杖と交代する為、間に割って入る。
「翔太の様子を見てくれ!」
小杖がボスと一旦距離を取り、倒れている翔太へと向かう。ボスのターゲットがすんなり俺に移る。浩二が乗っ取ったにしては、芸の無い動きだ。
「発芽!」
俺はボスの足元にひっついているであろうイチイの実を発芽してみる。今の俺の力で届くかどうか怪しかったが、運よく一粒をかろうじて発芽することに成功した。
ボスの左足に強い陽の気が発生する。すると、ボスの足元に何かがバラバラと落ちてきた。ひっついていた他の種だ。左足周辺の陰の気が打ち消されたためだ。
「息はあるよ!だけど・・・」
小杖の声だ。
「どうした!!」
「首の骨が折れてる!なのに、生きてるの!!」
翔太も蘇らされた死体だったのか!?しかし、意識は失っていると言う。
「翔太の傍に注射器は落ちてないか!?」
ボスはまだ動けない。しかし、種一個の力ではそろそろ限界だ、
「あったよ!太ももに刺さってる」
浩二は首だった。翔太は腿。脳からは離れている。効き目を加減して意識の一部を浩二に紛れてボスに送ったのかもしれない。それで、体は致命傷を負ったが仮死状態になってギリギリ生きているのだろう。ボスの動きにあまり知性がないのも、翔太が妨害しているためではないだろうか。
「ボスを俺が引き付ける。左足の下に落ちているタネを拾ってくれ!」
と言って、ボスに対峙したまま、わざと後ずさってから背を向ける。普通のサルなら必ず追いかけてくるが、タネから離れない。さっきの会話を理解したのだろう。
小杖もボスの攻撃の間合いより近付けない。
膠着するかと思った瞬間、タネが不自然に動いて小杖に渡る。
『これでいいのか?」』
と陣が言ったような気がした。
「いいぞ。それを俺に渡してくれ!」
と言うが、小杖はじっとタネを見つめると、
「私に使わせて。」
というなり、飲み込んでしまった。




