第拾肆話 Make or Break
急激にボスの結界が膨れ上がる。さっきまでとは状況が変わった。あれに俺の結界を触れさせてはいけない。と言う事は、サルを相手に距離をとり続けなければいけないという事だ。
ボスもそれを瞬時に悟ったらしい。つくづく、サルとは思えない知能を持っている。すぐさま接近戦を仕掛けてくる。
俺はギリギリで引っ掻き攻撃をかわしているが、ボスの巨大化した結界まで避けるのは不可能だ。ボスの一撃毎に、少しずつ結界を削られている。
残っているイチイのタネは僅かだ。この量でボスの今の結界を消滅させることは不可能だ。それに、陣戦でも結界を消耗しているので、すでに、俺の結界強度は全力時の3分の1程度しか残っていない。
陣が俺の9倍程度の結界強度だったので、今の消耗した俺とボスの結界強度の差は27倍ほどになる。
なにより厳しいのは、ボスは小細工抜きで、肉弾戦を仕掛けてくることだ。陣もそうだったが、結界強度で上回る側が力任せに単純な攻撃をしてくると、技術で逆転することが難しい。
陣と違って、このサルはそれを理解しているように感じるのだ。
ボスの攻撃は容赦なく続く。本来のサルは瞬発力に優れる反面、持久力には欠けるのだが、ボスの連続攻撃は留まることを知らない。恐らく、陰の気で身体機能を効果的に強化しているのだ。こんな芸当は陣にはできないだろう。
さらに時折、落ちている大きな枝や石を拾って投げてくる。俺を仕留めると言うより休ませないためだ。フィトンチッドで俺の心肺機能はマラソン選手の数倍にまで強化しているのに、息が上がってきている。
一見すると力任せにみえるのだが、非常に合理的に追い詰められているのだ。
しかし、決定打を許さない俺に対し、ボスも勝負に出てきた。直系2mはゆうに超える大岩を頭上に持ち上げたのだ。そのまま、ジリジリと距離を詰めてくる。あの怪力で、至近距離から投げつけられたら、恐らく回避できない。距離をとらねばならないが、バック走で森の中は走れない。視線を逸らせば、その隙を見逃したりはしないだろう。必然的に俺の動きは横方向に制限される。そう、俺はサルに誘導されているのだ。その先に何があるのか、当然、この辺りを縄張りにしているボスザルに、地の利で俺が敵うはずも無い。
開けているのは左手の方向だ。右手には杉の大木がある。木の影を利用するのも一つの手だが、開けた方に全力で走って、大岩を持ったままのサルに追いつかれるだろうか?
いちかばちかだ!




