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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第拾参話 Yew

 他のサルたちは『キーキー』と声を上げているが、1匹たりとも近づいてはこない。ボスと俺の勝負が付くのを待っているようだ。


 遍路たちのような『陽の気』同士の戦いでは、どちらかの結界が壊れるまで力が反発しあうので、肉体が傷付くことは稀だが、『陽と陰の戦い』の場合、結界同士が接触しても、一瞬で打ち消されるわけではないため、結界密度を上げて攻撃すれば、力が打ち消される前に相手の肉体に届くのだ。攻撃の威力は削がれるとは言え、超常の力を肉体で受ける事になり、重傷を負ったり死亡したりするリスクが非常に高い。


 単純に結界の強度で言えば、俺の方が上回っているので、俺の結界を限界まで広げて、ボスザルの結界に接触させ続ければ、残るのは俺の方だ。余力で他のサルと戦えるかは心配だが、ボスを失えば組織的な動きは出来ないだろうし、なにより、翔太の銃弾で群れ全体が操られているのなら、撃たれたボスを正気に戻すことで、他のサルも元に戻るかも知れない。

 しかし、結界を広げると言うことは、結界密度を下げるという事だ。素早く懐に入られたら、一撃で殺されるかもしれない。

 できれば距離を取り、木属性を使った遠距離攻撃で、少しずつボスザルの結界を削いでいきたいのだが、いつまで1対1で戦えるのか、戦況がいつ変化するとも知れない状況なので、あまりモタモタもできない。


 初手をどうするか悩んでいる間もなく、ボスが間合いを詰めてきた。サル相手に下がるのが悪手なのは先ほどと変わらないが、今回は敢えて下がる。だが、先ほどのタネを足元に撒きながらだ。

 ボスはその上を飛び越えるように加速し、爪の間合いのギリギリ外で一瞬止まると、そこから一っ飛びに突っ込んで来た。


 俺は相打ちになるのを覚悟で、さっき全部撒かずに半分残しておいたタネをサルに投げつける。さすがのサルも空中で方向転換は出来ず、タネをまともに浴びることになった。また、運よく1粒が目に命中したため、攻撃の精度を欠き、爪での引っかき攻撃はギリギリで空を切った。


 普通のタネならなんのダメージもないが、俺が持っていたのはイチイの種だ。イチイは神聖な木として古来より知られており、実際、立ち木は『陽の気』を常に放出しており、遍路が触ると戦いで弱った結界が急回復する。しかし、『陰の気』を持つものが触れば、みるみるうちに力は失われてしまう。


 俺が投げたタネは、そのままでは僅かな力しか持たないので、今のところ、ボスに変化は見られない。ただ、体に引っ付いて離れないタネを怪しんでいるようだ。タネ自体に粘着性はないが、陽と陰の気は引き合うためだ。

 力は弱くとも生命の元が詰まっているタネは、延々と陽の気を放出し続けるため、くっつく個数が増えれば、馬鹿にならないスリップダメージを与える。


 しかし、今はそんな微々たるダメージの蓄積を待っている暇は無い。俺はボスの側方に飛び退いて爪の届かないだけの距離を取ると、すかさず結界を広げてボスに接触させた。正確に言うと、ボスにくっついたタネに接触させたのだ。

 そして、木属性の法力を発動する。


「発芽!」


 ボスの体中にくっついたタネの周囲に、電流のスパークのような光が走る。


「ギャーーーーーーーー!!」


 ボスが恐ろしげな声を上げ苦しんでいる。


 タネが発芽する瞬間、『陽の気』が大量に放出される。それがボスの陰の気を激しく消耗させているのだ。あのタネの量なら、ボスの結界は全て消滅するはずだ。

 しかし、気が弱まったからと言って、苦しむと言うのはおかしい。

 

「パーーーーーーーーーーーン!」


 猟銃の音が響く。ボスにまた念礫の銃弾が打ち込まれたのだ。音のした方に目を向けると、顔中が腫れ上がり、一瞬、誰だか分からないほどボロボロの翔太がいた。


「しょうたーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 叫び声が上がり、翔太は横っ面を殴られて吹っ飛ぶ。陣が突然現れたのだ。実際はずっと近くにいたのだろう。小杖が『元』に戻したのだ。

 翔太は恐らく、素手でツタウルシを掻い潜ったのだろう。肌の見えている部分は、どこも酷く腫れ上がり、結界もほとんど残っていない。ツタウルシとの接触は、陰の気だけでなく、陽の気を持つものにとっても消耗が激しいのだ。


 陣は躊躇なく、翔太の腕を後ろ手に極めて、跪かせて拘束する。


 俺は再びボスに注視する。

 タネの発芽による陽の気の放出はすでに終わっていたが、ボスの結界は健在だった。むしろ、さっきまでより強くなっている。なんなら、健在な時の陣の結界よりも強いんじゃないだろうか。


 こいつはまずいな。

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