第拾弐話 Luck
『シューッ、シューッ』
『もう、やだ。あっち行ってよね』
近くに生えているイワタバコの葉から、妙な音と女の子の声が聞こえてくる。声の主は福子だ。万が一に備えて、あいつの声もフィトンチッドの能力で探っていたのだ。
福子には俺の気配が復活したらゆっくり近づいてくる事と、森の中を通り、敵に遭遇したら声を出すことを伝えてあるのだ。
それにしても、運がいいのか悪いのか分からない奴だ。俺は、一緒に聞こえていた音を、俺の周囲の葉へとコピーし再生する。すぐに、シューシューという音が俺を取り巻くように『コ』の字型の範囲から聞こえ始めた。
犬の嗅覚や聴覚が人間の何万倍も優れているように、動物は人間より優れた感覚を何か一つは持っていると思われがちだが、サルは人間に近いだけあって、視覚、聴覚、嗅覚共に、人間と大差はない。
なので、人間が誤認するようなものは、サルも誤認する。『シューシュー』という音を出す主が、あたかもそこにいると誤認させているのだ。
サルは何よりもヘビを嫌う。毒蛇ともなればなおさらだ。福子はどうやらマムシに遭遇したらしい。威嚇されていたのだ。ヘビのおもちゃですらサルは嫌がる。音がしている場所には、絶対に近づかないだろう。
福子と一緒にいると、偶然にしては出来過ぎな事が頻繁に起こる。良い事も悪い事もだ。結界の暴走もそうだ。福子の存在そのものが特異点であるかのように。
さて、翔太がいつまで拘束できるのかも分からないし、浩二の動向も気になる。
マムシのフェイクで後方に回られるのを防げたので、ここにいれば袋叩きにされることはないのだが、のんびりしている時間は無い。なので、マムシの音を出していない方へ歩み出た。
すぐに総攻撃が来ると予想していたのだが、明らかに他のサルより体の大きい奴が1匹で出てきた。右肩に散弾で撃たれた傷がある。最初に威嚇してきた奴だろう。恐らく、群れのボスだ。
右肩の所々がキラキラと光っている。浩二達の言う『念礫』の銃弾を打ち込まれたのかもしれない。
集団で襲い掛かれば、俺が安全地帯に逃げ込むことまで理解しているのだろう。サルの理解力を超越している。さらに能力者だ。遍路で言えば、守護数30に近いくらいの結界を感じる。身体能力は俺よりはるかに高い。かなりの強敵なのは一目で分かった。




