第佰肆話 Autocide
しかし、ふと気付くと、周囲は濃霧に包まれていた。
「なんだ?これは。また、小賢しい事をしやがって!」
という『あいつ』の顔がニヤつく。
「まだ、生きてるんだな!?もうちょっと遊んでやるよ。」
川の方へ戻ろうとするが、霧がさらに濃くなり、一歩先さえ見えない、一面真っ白な状態になっていた。
「これで姿を隠したつもりかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
と大声で叫ぶと、足元の岩を拾って投げつける。
ガスッ!!
鈍い音がして、木の幹にぶつかった。
「視えなくても、どこにいるかはわかるぞーーーーーーーーーーーー!!」
また、大声で叫ぶ。さっきよりも大きな岩を両手で持ち上げて投げつける。
ドガッ!!!
バキバキバキバキ!!!!!
ズドーーーーーーン!!!!
別の木に当たり、幹がへし折れたのだった。
「どうしたーーーーーーーーー!!
霧に紛れて逃げ出したのかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
しかし、物音一つ返ってこない。
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!」
「ヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
方向を変え、何度も大声を上げる。
そして、ニヤりと笑うと、音を殺して歩き始めた。
背後に何かが動く気配を感じる。ニヤニヤが止まらない。
急に方向転換し右に走り出す。後方の気配もついて来る。罠に獲物がかかったのだ。
周囲の障害物は、さっきの大声の反射で、位置を全て把握している。この先は声の反射が全く無かった。つまり崖があると言う事だ。崖の方へ誘導し、回り込んで逃げ道を塞ぐ。その後はお楽しみだ。
の、はずだったのだが、
ゴンッ!!!
こんなところにあるはずのない木にぶつかってしまう。
「なんでこんなところに!?」
足元がふらつく事に気付き、さらに驚く。
「ぶつかったダメージか?そんな馬鹿な!!」
しかし、足取りが定まらない。
「ようやく、効いて来たのか。」
昭二の声がする。
「お前、何をした?毒か?
そんなものを仕込む隙などなかったはずだ!!」
頭痛がし始める。それも、急激に酷く。
「『毒』?まあ、そう言えなくも無いな。
お前は2つのミスを犯した。」
「『ミス』などあるわけがないだろう。足手まといのお前の嫁を消し、最強のイグジストを注入したんだ。
俺の力は圧倒的だっただろうが!!」
明らかにイライラしつつ、周囲をキョロキョロと警戒している。しかし、霧は全く薄まってはいない。いくら目を凝らしても、視界はゼロだ。そんな冷静さも失っているのだ。
「だから『自惚れ』だと言うんだ。そして自分の過ちを認めない奴の事を『負け犬』と言う。」
というと、水の斬撃が飛んでくる。
簡単に避けるつもりだが、体が動かない。しかし、斬撃にも威力はなかった。距離がありすぎたのだろう。
「負け犬はお前だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?」
昭二の位置を音で割り出すために、斬撃の来た方向に大声を出すが、様子がおかしい。
「それが、命取りなんだよ。」
昭二の声がすぐ後ろから聞こえた。
すぐにバックブローを放とうとするが、膝から崩れ落ち、意識が遠のいていく。
「どうだ?水中毒になった気分は。」
昭二の最後の言葉は聞き取れなかった。




