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行商人ヒルデと魔剣ヴェルサレス  作者: 鳥部 本太郎


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第八話 我を鞘から抜きたまえ

『洞窟の主(ぬし)』はニタニタと笑いながらアッシュとヒルデを眺めてヨダレを垂らしている。


「あぁ、食べる気だ……この怪物、アタシ達を食べる気なんだ、もうだめだぁ……」


 ヒルデの目から涙がポロポロと落ちた。


【泣いてしまうとは情けない……】


「あなたのせいでしょ! 何とかしてよー! ヴェルちゃーん」」


【くっくっく……こいつでは少々役不足ではあるが、仕方あるまい……】


 『魔剣ヴェルサレス』はへたり込むヒルデの正面にフワリと浮き上がった。


「え? ベルちゃんどうしたの? ……なんか、浮いてない?」


【さぁヒルデよ……我を鞘から抜きたまえ】


「え? は、はい!」


 ヒルデは『魔剣ヴェルサレス』を鞘から引き抜いた。


 銀色の刃がキラリと光り輝く。


「えええええー!?」

アッシュは驚きの声を上げる。


【ヒルデ、構えろ。斬るぞ】


「うん!」


 ヒルデは立ち上がり魔剣を構える。


 次の瞬間、『魔剣ヴェルサレス』は、眩しいほどの白い光を放出した。

ヒルデの髪が激しく乱舞する。


「何これ……? すごい光……」


「な、何が起こっているのだ?」

アッシュは困惑している。



【ヒルデよ、あの怪物目掛けて我を振れ】


「わかった! やってみる! えーい!」


 ヒルデは魔剣を横にブンっと振った。


 お粗末なヒルデの一振りではあったが、それとは対照的に物凄い斬撃が宙を駆ける。


 ズバァッ!


 斬撃は『洞窟の主(ぬし)』の胸元を深く切り裂き、後方の岩肌にまで大きな亀裂を走らせた。


 『洞窟の主』はゆっくりと後方へ倒れていく。

ドッスーン! っと大きな地響きが起きた。


 『洞窟の主』は光の霧となって消え去り、空中に『トロルの魂珠(こんじゅ)』と呼ばれる宝玉が現れ、地面をコロコロと転がった。


「す、すっごーい! ヴェルちゃんやるじゃない!」

ヒルデは嬉しそうに飛び跳ねた。


【ふんっ……見掛け倒しめ……】

魔剣は何故か不服な様子だ。


「少女よ……今のは一体、何事だ?」

アッシュはまだ目が点になっている。


「あ、王子様、大丈夫!?」

魔剣を鞘に戻すと、ヒルデはアッシュに駆け寄った。


「ああ、私は問題ない。それより、驚いたぞ。君は魔剣を扱えているではないか」


「あ、いや……なんかヴェルちゃんが……」


「素晴らしい! 君は『選ばれし者』という事だ!」


 アッシュはやはり人の話を聞かないタイプの様だ。


「少女よ、名を聞かせてくれ!」


「ヒルデです」


「ヒルデか! その名を覚えておこう、それでは!」


 そう言うとアッシュは出口の方向へ歩き始めた。


「あ、王子様。ありがとうございました!」

ヒルデはペコリと頭を下げる。


「礼には及ばん! それよりも、この事は多言しないでくれ! 少女に救われたと人に聞かれたら堪らんからな!」


 アッシュは去って行った。


「さぁてと……」

ヒルデはニタリと笑う。


「お宝だぁー!」


 ヒルデは『トロルの魂珠(こんじゅ)』を拾い上げて頬擦りした。


「きれーい! あんな怖い怪物からこんなに綺麗な素材が出るなんて、ふしぎだねー」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ………


 突然、洞窟の中に地鳴りが響いた。


「え? なに、なに?」


 洞窟内の岩壁(がんぺき)が次々に崩れ落ちる。


「わー! ちょっと、これまずいんじゃない?」


【くっくっくっ……洞窟内で宝を手にすると崩壊する。これは古(いにしえ)から伝わる決まり事であるな……】


 ゴロゴロゴロゴロ……


 なんと、洞窟の奥から丸い岩の塊が転がり落ちてきた!


【流石に、それはお約束過ぎないか?】


「わー! に、逃げるよヴェルちゃん!」


 ヒルデは『魔剣ヴェルサレス』を抱えて走り出した。


洞窟を走るヒルデに岩の塊が迫る。


少し先には、まだアッシュが歩いている。


「お、王子様ー! 逃げてー!」


「ん? 何事だびゃあーー!」


 アッシュとヒルデは慌てて出口へ向けて走る。


「ヴェルちゃん! あの玉っころも斬ってよぉ!」


【貴様、我に無機物を斬れと言うのか?……断る】


「ええぇーーーーー! けちんぼ!」


 ──洞窟の外で、ガダン大臣は花を摘んでいる。


「ふんふ、ふんふふーん。うむ、結構沢山摘めたのぉ」


 その時、なにやら洞窟の方から騒がしい声が聞こえた。


 ガダンは洞窟の入り口に目を向ける。


 アッシュ王子と少女が慌てて走っている。

その後ろには丸い岩の塊が迫っていた。


「な、なんと!」


 ガダンは腰を抜かし、尻餅を付いた。

集めた花がヒラヒラと宙を舞う。


 ドゴォ!


 丸い岩は洞窟の入り口に挟まれて停止した。


「はぁー……助かったぁ……」

 間一髪で外に飛び出したヒルデは草原に仰向けに倒れる。


 アッシュはガダン大臣に怒鳴りつける。

「ガダン! この非常時に駆けつけぬとは、何をしていたのだ!」


「え……お花を、摘んでおりました……」


「馬鹿者! 本当に摘む奴がいるか!」


「いや、でも……アッシュ王子が摘んでろって……ぐすん」


 周囲に花が撒かれた中で涙目になるガダン大臣。その光景はまるで乙女の様だ。


 ──【洞窟への入り口が塞がれてしまった様だな……宝は取り損ねたか。残念だが、仕方があるまい……】


「えっへっへー!」

ヒルデはニヤニヤしながら腰袋に手を突っ込む。


「じゃーん!」

 ヒルデは腰袋から『トロルの魂珠(こんじゅ)』を取り出した!


【ほぅ。あの状況で宝を仕舞っていたのか。なかなかにしたたかな奴だ……】


「なななーな、したたた?」


【なかなかに、したたかだ……】


 ヒルデはレアアイテム、『トロルの魂珠(こんじゅ)』を手に入れた!


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