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行商人ヒルデと魔剣ヴェルサレス  作者: 鳥部 本太郎


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第七話 虚勢を張るのはやめたまえ

「王子様ー! お待たせ!」


「よし! いざ参るか……ん?」


 アッシュはヒルデの背中に装着された魔剣を見つめる。


「少女よ……その剣は……?」


「あっこれ! ヴェルちゃん!」

ヒルデはくるっと回転して背中を見せた。


「ヴェルちゃん? まさか魔剣ヴェルサレス……いや、有り得ぬことだ」


「それ、それだよ! 魔剣、べろされす!」


「な、なにぃ!? なぜ君がその剣を持っている!?」


「骨董品屋さんで買いました! 10ゴールドで!」


 アッシュは呆然とする。


「じゅ……10ゴールドだと!? そんな馬鹿な! 私が一度手にした時……五年ほど前は相当価値が高かったはずだが……」


「え? そうなの? ヴェルちゃん?」


 ヒルデは魔剣に語りかけたが、魔剣は沈黙する。


「あれぁ? 喋んないや……でもね、この子、全然鞘(さや)から抜けないんです」


「抜けない……? ふふっ、そうか。そう言うことか……未だに誰も抜けぬのか!」


「はい、そうなんです。ひねくれ者で……」


「なるほど、使用出来ぬ剣など飾りと同様。価値が下落しても不思議ではない。ははは! それは傑作だ!」


 アッシュは高笑いした。


【こやつ……我を愚弄しておるな……覚えておれ……】

魔剣はヒルデにだけ届く声で呟いた。


「げ……なんか怖いこと言ってる……」


 その時、遠くから老人が走ってきた。


「アッシュ王子ー、お待ちくだされー」

それは、アッシュの直近を務めるガダン大臣だった。


「ぜぇ……ぜぇ……アッシュ王子、勝手な行動はお控えくださいませ……この老体では付いていけませぬ……」


「はっはっは! 悪いなガダン! この少女がピンチだったものでな!」


「は、はぁ……そうでしたか」


「そしてガダンよ、私は今からこの少女と、洞窟へ行って参る」


「えぇ!?」

ガダンは狼狽(うろた)える。


「お前はここで花でも摘んで待っているがいい! では!」


 そう告げると、アッシュはズケズケと洞窟内に侵入した。


 ヒルデも後を追いかける。


 ──「うわぁ、不気味……」


 洞窟の中でヒルデはビクビクしながら周囲を見回している。


「案ずるな少女よ。近寄る者は私が全て切り捨ててやろうではないか」


 アッシュは道中のコウモリを次々に斬りながら進んでいく。


 ふと、ヒルデは右方向にモゾモゾと動く影を見つけた。


「え? 何だろう……?」


 ヒルデは影をじっと見つめる。


「ギャーーー! クモだぁーー!」


 それは『洞窟グモ』だった。

そのクモは外で見る普通のクモより遥に大きく、30cmはある大蜘蛛だった。


 ヒルデは『魔剣ヴェルサレス』をソードベルトから引っ張り出して鞘ごとブンブンと振り回す。


 しかし一向に当たらず、『洞窟グモ』は優雅にピョンピョンと跳ね回っている。


「いやぁー! クモ、クモ、クモー! あっち行けー!」


「落ち着くのだ少女よ! クモはもう逃げたぞ!」


「えっ?」


 アッシュに言われて目を開ける。


『洞窟グモ』は跳ねながら洞窟の奥へと消え去っていた。


「はぁー、怖かったぁ……」


 ヒルデはその場にペタンとへたり込む。


 ──その直後、洞窟の中にドスーン! と大きな音が響いた。


 地面が激しく振動する。


「え、なに!? なに!?」


ドスーン! ドスーン! ドスーン!


 その音は、徐々に大きくなった。


 洞窟の岩場の影から、何かがヌッと顔を出した。

それはなんと『洞窟の主(ぬし)』だった。


「でででで、出たー!」

ヒルデは大声を上げる。


 『洞窟の主』は醜い顔でニタニタと笑いながらこちらを見ている。

その体はとても大きく、身長は3メートルを超えていた。


「おおお、王子様ぁ、でましたぁ! ぬ、ぬしぬし! でたぁ!」

 

 ヒルデはしどろもどろになっている。

 

「ほぅ、これはなんと巨大なトロルであるな……だが案ずるな少女よ。私の相手では無い!」


 アッシュは腰を落とし、剣を構えた。


【くっくっくっ……威勢が良い様だが、果たしてその剣が無くても同じ事が言えるかな……】


 『魔剣ヴェルサレス』がなにやら不吉な事を言い出した。


 ヒルデの顔色が真っ青になる。


「え? ま、待ってヴェルちゃん……あなたまさか……」


 次の瞬間、魔剣から紫色の光が放出する!


「……嘘でしょ? ねぇ! ヴェルちゃん!?」


 ヒルデは急いで魔剣に覆い被さり、光の放出を防ぐ。


 しかし、時すでに遅かった。


【ジャッジメント・ウェポン! 】


 アッシュの構えていた剣が砂となり消え去った。


「………………」


「………………」


「ほげぇーっ!!」


 アッシュの叫び声が洞窟中に反響する。


「んもうっ! 何してんのヴェルちゃん! 王子様が『ほげぇー』って言っちゃったじゃん!」


【はーはっは! なんと情けない! 武器に頼りきっているからそうなるのだ! 】


「あなた、性格どうなってんのよ!」


ドスーン! ドスーン! と轟音を響かせながら『洞窟の主』がアッシュへと歩み寄る。


 アッシュは何が起きたか理解出来ていない様で、焦りながらも強がりを言う。


「ま……ま、まぁ良い! 剣など無くても、どうとでもなる!」


 しかし、アッシュは『洞窟の主』に思い切りビンタされて吹っ飛んでしまった。


「わー! 王子様が吹っ飛んじゃった!」


 アッシュはフラフラとよろけながらも立ち上がったが、かなりのダメージを受けたようで鼻からは血が垂れている。


 ヒルデが心配そうに声を掛ける。


「王子様、鼻血が出ています!」


「あ、案ずるな少女よ! 鼻血など、出てはいない!」


「いや、出てます! しかも両穴から!」


「くっ、問題ない! なんとかなる! なると思われる……なってほしいな」


「自信なくなってる!」


「あーもうだめだぁ……アタシ達、ここで死んじゃうんだぁ……」


 ヒルデはガックリと頭を下げた。


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