第五話 兵器を使うのはやめたまえ
──ヒルデは行商車を停車させた。
舞台は再び、『ミルデンの森』である。
「はい、到着ー!」
ヒルデはすぐに荷台を漁る。
【何度試みようと同じことだ……我の前では全ての武器が砂と消え去るのだ……】
『魔剣ヴェルサレス』は草はらに寝転びながら余裕で見守っている。
「えへへー! 武器はでしょ? これならどうかなー?」
「じゃーん!」
ヒルデは、木の棒の先にローラーが付いた、見たこともない道具を掲げた。
「お掃除ロ〜ラ〜!」
【…………何だそれは? 】
「これね、この先っちょのローラーにのりが塗られてて、転がすだけで勝手にゴミがくっ付くんだよ」
※現代でいうコロコロである。しかし、ローラーの部分はそれよりもかなり大きい。
【ほう……確かに便利そうではある……】
「でしょ! 骨董品屋さんで見つけて衝動買いしちゃったんだ!」
【しかしヒルデよ……そんな殺傷能力の無い道具で何が出来ると言うのだ? 】
「ふふふ……まぁ見ててよ!」
ヒルデはローラー部分を地面に密着させると、そのまま草はらの上を走り始めた。
棒に押され、ローラーが高速で回転しながらグングンと突き進む。
プチッ! プチッ! プチッ! プチッ!
スライムの潰れる音が鳴り響く。
ヒルデの通り過ぎた場所から、次々と光の粒が舞っては消えた。
そして、草原には大量の『スライムゼリー』の袋や、小瓶が落ちる。
「え、待って! これ凄くない? 武器使うより楽なんだけど!」
ヒルデは感動している。
【ヒルデよ……武器を使うよりも遥かに酷い光景に見えるのだが……】
「だってーしょうがないじゃん! ヴェルちゃんが普通の武器使わせてくれないんだからさ!」
【そんな兵器がまかり通るとでも思ったか……? 今の光景を見れば、誰がどう見ても『武器破壊』の対象であろう…… 】
「えっへっへ〜、違うよ! これは、掃除道具だよ! 武器じゃないもん!」
ヒルデは嬉しそうに棒をブンブン振り回している。
【そんな屁理屈が通用すると思ったか! 】
魔剣ヴェルサレスから、紫色の光を放出された。
【ジャッジメント・ウェポン! 】
「え、消えちゃうかな……? 武器じゃないよ! 掃除道具だよ!」
【………………】
「………………」
【………………】
「き……消えて……ない……」
ヒルデの『お掃除ローラー』は砂と消える事なく、しっかりとその形を維持していた。
【何だと……? 】
「やったーーーーー!!」
ヒルデは大喜びしながらぴょんぴょん跳ね回る。
「これではっきりしたね! ヴェルちゃんの魔法でも武器と言えない物には効果ないってことだ!」
【まさか……我が究極魔法のジャッジメント・ウェポンにこんな欠陥が存在したとは……】
「えへへー! これでスライムは攻略完了だね! ていうか、今までより効率が上がっちゃったよ!」
ヒルデは嫌味っぽくニヤリと笑いながら言う。
「ありがとね〜、ヴェルちゃん」
【こ……小癪! 小癪! 小癪! 小癪! 】
「あはは! ヴェルちゃん、クシャミしてるみたい!」
その瞬間、何かがヒルデの尻に体当たりした。
「ぎゃっ!」
すっ転んだヒルデは、尻を摩りながら後方を振り返る。
そこに居たのはなんと赤スライムだった!
「あー! あの時の赤スライム!」
赤スライムは小刻みにジャンプしながら次の攻撃を仕掛けようとしている。
「残念でしたー! 今日は逃げないよ! これがあるからね!」
ヒルデは『お掃除ローラー』を地面にセットすると、赤スライム目掛けて突き進んだ。
ローラーが赤スライムに接触する!
──ばいーん
なんと、赤スライムはローラーを跳ね返した。
「ええー! 効かないの!?」
【はっはっは! 残念だったなヒルデよ! 所詮は子供騙し。ザコ中のザコにしか効かない様だな! 】
「くっそー! これならどうだ! やぁ!」
ヒルデはローラーを縦にして赤スライムに振り下ろした。
赤スライムは、ローラーの先端部分に潰されてプチーンと弾け飛んだ。
「やったー!」
【卑怯だぞヒルデ! その使い方はもう完全に武器だろう! 】
空中に舞う光の粒から、密閉式ビニール袋に詰まった『スライムゼリー』がポンと現れ、どさりと地面に落ちた。
「わー! すっごい沢山!」
【もはや業務用ではないか……】
──「ルンルンッ! ルンタッ! ルンタ!」
陽気な鼻歌を歌いながらヒルデは行商車を押している。
「あー、今日はいっぱい採れたぁ!」
ヒルデはとてもご満悦の様だ。
「これで『スライムゼリー』はもう沢山採れたから、次はコウモリの攻略だね!」
【どうやら、我は『武器』という概念から見直さねばならん様だ……】
『魔剣ヴェルサレス』は項垂れた。




