第四話 こっそり出ていくのはやめたまえ
──窓から朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。
なんとも気持ちの良い朝だ。
「うーん!」
ヒルデは大きく背伸びをした。
「さぁて、今日も素材集めに行きますかぁ……」
ヒルデは壁にかかった『魔剣ヴェルサレス』にチラッと目を向ける。
「……ヴェルちゃん」
「……ヴェルちゃーん」
小さく声を掛けたが、反応はない。
「よし……寝てる!」
ヒルデはそーっとタンスから服を取り出して静かに着替える。
そして、忍び足で玄関を出た。
「へっへっへっ……寝坊する方が悪いもんね」
そう呟くと、ヒルデは小屋から行商車を引っ張り出した。
「行ってきまーす、お寝坊さん!」
【誰がお寝坊さんだ】
「ぎゃあ!」
ヒルデはひっくり返った。
魔剣はいつの間にか行商車の荷台に乗っかっていた。
「何でそこに居るのよ!」
【小癪な。我を置いていこうなど、百年早いわ……】
「んもう! ヴェルちゃんが居たら素材集め出来ないでしょ! うちで待ってて!」
【それは出来ぬ……】
「何でっ!?」
【我は剣としての使命がある。それは、いかなる時も主から離れずに見守る事である……】
「見守ってないじゃん! 邪魔してるじゃん!」
【否、それは貴様がザコモンスターばかりを相手にするからであろう。もっと我の力を使うに値する相手と戦いに行けば良いのだ……】
「……例えば?」
【そうだな……例えば、灼熱の鉱山にいる火龍や……】
「行くかぁー!」
──ヒルデは、ため息を吐いた。
「はぁーあ、もうわかったよ……じゃあ一緒に素材集めに行こう」
【分かれば良いのだ……】
「ちょっと靴紐を結ぶから待ってね」
そう言うと、ヒルデはしゃがみ込む。
「………………」
【………………】
ヒルデは両手をそっと地面に付いて、腰を浮かせた。
【ヒルデよ、何だ? その今にも走り出しそうな体勢は? 】
「………よーい」
【よーい? 】
「どん!」
ヒルデは綺麗なクラウチングスタートを決めた。
そのまま振り返る事なく走り続ける。
「えっへっへー! ごめんねヴェルちゃん! ばいばーい!」
──ヒルデは広場の噴水まで走った。
噴水の石段に手をついて呼吸を整える。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば……」
【……何の真似だ】
「ぎゃああああ!」
再びヒルデはひっくり返った。
いつの間にか噴水の石段に『魔剣ヴェルサレス』がもたれ掛かっている。
「呪いの人形か!」
【……何だそれは? 】
「もういいよ! ヴェルちゃん、あなたどうやって移動してるの?」
【気合いだ】
「なにそれ!」
【くっくっくっ……諦めるんだな……我を撒こうなど、愚の骨頂である……】
「グミ校長?」
【愚の骨頂だ……さぁ、早く我を装備するのだ】
仕方なくヒルデは魔剣を背中に装備した。
【さてヒルデよ。本日は何を狩るのだ? 】
「何って、決まってるじゃん。スライムだよ……」
【何だと……またスライムだと? 貴様、スライムに何の恨みがあるというのだ……】
「誰のせいだよ! ヴェルちゃんのせいで『スライムゼリー』が集まらないんでしょ!」
そう言うと、ヒルデは、とぼとぼと森に向かって歩き始める。
【……ヒルデよ】
「なによ」
【いつもの荷車は持っていかんのか? 】
「……………………」
ヒルデは立ち止まり、踵を返す。
「……忘れてた」
【忘れるとは情けない……】
「もう、腹立つなぁー!」
──その時、ヒルデはある事を閃いた。
「あっ! 良いこと思い付いた!」
【……どうした? 】
「へっへっへっ! ヴェルちゃん、もしかしたら今日はスライムたくさん狩れるかもっ!」
【ふんっ……所詮、無知な発想であろう……】
「どうでしょねー! それはお楽しみー!」
ヒルデは楽しそうに家へと走った。




