第二十九話 こじつけるのはやめたまえ
「わぁー見て見て! 火山まんじゅう、おいしそうだよ!」
ヒルデは屋台のカウンターまで背伸びして、目をキラキラさせていた。
【これがおいしそうだと? 貴様、どんな目をしているのだ】
それは、まんじゅうというより、見た目は真っ黒い中華まん。
ひび割れた分厚い皮は、まるで火山岩のような質感をしていた。
「あ! あれ見てよ! “溶岩プリン”だって!」
隣の屋台には、どす黒い液体をたっぷりとかけられ、赤く膨張した泡がプクプク浮かぶ──
一見、食べ物とは思えないほど不穏なプリンが並んでいた。
【無理に名物にこじつけているな……完全に商業に魂を売っている様だ】
魔剣ヴェルサレスが呆れたように呟いた。
「おじさん! 火山まんじゅう一つちょうだい!」
「あいよっ! 毎度ありぃ!」
ヒルデは包みを受け取ると、ワクワクした顔で紙を破る。
まんじゅうをパカッと割ると、中から真っ赤なソースがどろりと垂れた。
「わぁ~! なんだろうこれ?」
立ちのぼる湯気は、なんとも言えぬ刺激臭を放っている。
【なんの味かも知らずに買うとは、愚かな……】
そのとき、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「おい、ヒルデ!? ヒルデじゃねぇか!」
振り向くと、自称・勇者のミカが立っていた。
「あっ! ミカだー! わーい! また会ったね!」
ヒルデは右手をぶんぶん振って満面の笑み。
【ああ、誰かと思えば“子供勇者”ではないか】
「何してんだヒルデ!」
ミカが駆け寄り、息を弾ませながら問う。
「火山まんじゅう買ってたの! ミカも食べる?」
ヒルデは半分を差し出す。
「い、いや……オレはいらねぇけど……」
「なんで? おいしそうなのに」
首を傾げながら、ヒルデは火山まんじゅうをパクッと大きな一口で頬張った。
「お、おい! 大丈夫か? そんなに一気に──」
「ん? あにが? (なにが?)──ん? ううう、ゴホォッ!」
次の瞬間、ヒルデの口から火山まんじゅうが散弾銃のように飛び散った。
ミカの顔面に真っ赤なソースがピシピシと張り付く。
「うわっ! な、何すんだよ! きったねぇなぁ!」
「ごめ……なにこれ、ゴホッ! ゴホッ!」
「味も知らずに食ったのかよ! 火山まんじゅうは“激辛唐辛子ソース”がたっぷり入ってて、
食ったら火を吹くって言われてるまんじゅうなんだぞ!」
「な、なにそれぇーーー! 騙されたぁぁぁ!!」
涙目でうずくまるヒルデ。
しかし、半分残ったまんじゅうを神妙な顔で紙に包み、そっと鞄にしまった。
「……あとでアッシュ王子に食べてもらお」
【ふむ、それは名案だ! 】
◇◇◇
街の一角。湯気の立つ茶屋の腰掛けに、ヒルデは小さく座っていた。
手には串団子。湯呑みのお茶をちびちびと啜る。
「あー……まだ舌がピリピリする~」
ヒルデが舌を出して呻く。
向かいでは、ミカが頬杖をついて苦笑していた。
「ったく、相変わらずそそっかしいやつだなぁ」
「ねぇミカ、この街さ。いつの間にこんなに観光地みたいになっちゃったの?」
ヒルデが団子をもぐもぐしながら首を傾げると、ミカは「はぁー」と深いため息を吐いて語り始めた。
「……ヒルデ。お前、前にここで“溶岩魔神”を風呂に入れただろ?」
「うん! それで助かったんだよね!」
「……あれからさ。あの魔神、すっかり温泉にハマっちまったんだよ」
「えっ、魔神が?」
「ああ。自分であちこちに穴を掘ってさ、そこから温泉がどんどん湧き出して……
気づいたら、火山中に“七つの秘湯”が出来ちまったんだ」
「七つの秘湯……あははっ! 本当に温泉が好きなんだね、あの魔神!」
ヒルデは腹を抱えて笑った。
「おかげで、この街はもう冒険者より観光客の方が多いんだぜ。噂が噂を呼んで、大繁盛だよ」
「すごい、良かったじゃん! 溶岩魔神にお礼言わないとだね!」
ヒルデが無邪気に喜ぶ。
だが、ミカの表情はどこか沈んでいた。
「それが……良くないんだよ」
「え?」
「オレはずっと“冒険者の街・モルトレン“の出身って自慢してたんだ。
でも今じゃ、“温泉街育ちの勇者”だぜ。笑えねぇよな……」
ミカは、団子の串を咥えながら遠い目をしている。
【ふははっ! "湯けむりに立つ勇者"もなかなか滑稽なではないか! 】
魔剣が嫌味混じりに吹き出した。
「なんだとぉ! この剣!」
ミカは腕まくりしながら身を乗り出す。
「ちょ、ちょっと、やめなよヴェルちゃん」
ヒルデは止めながらも笑いを堪えている。
「はぁ……、で? また何しに来たんだよ。この街にさ」
「ああ、それはね……」
ヒルデの表情が少し曇る。
『魔王城へ行く』なんて言ったらミカは何て言うだろう……。




