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行商人ヒルデと魔剣ヴェルサレス  作者: 鳥部 本太郎


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第二十七話 裸の王子とはこのことか

 

 ──アルデリタ城の正門前。


 色鮮やかな旗が風にはためき、兵士たちがずらりと並び立っていた。槍を掲げて作る壮麗なアーチ。その下を、一台の馬車がゆっくりと進んでいく。


 御者台に座るのは、なぜかガダン大臣。しかめっ面のまま、手綱を握っている。


 そして荷台には、これでもかと金銀に飾り立てられた王座。

 その上にふんぞり返っているのは──アッシュ王子。


「皆のもの! 留守を頼んだぞ! 行ってまいる!」

胸を張るアッシュの声に、兵士たちは一斉に叫ぶ。


「アッシュ王子! いってらっしゃいませ!」


「どうか、ご無事で!」


 高台の城の展望では、ローエン王がアルデリタ王国の紋章が描かれた大きな旗を振っていた。


「フレー! フレー! アッシュ!」


「父上! おお、なんと立派な声援! アッシュ、行ってまいります!」


 紙吹雪が舞い散り、華やかな音楽まで鳴り響く。


「わぁぁ……! まるでパレードだね!」

ヒルデは目を輝かせて声を上げる。


【何だこれは。こんな出陣があるか……】


ヴェルサレスがため息混じりにぼやいた。


◇◇◇


 ヒルデの目の前で、馬車が止まった。

 王座に腰かけたアッシュ王子が、満面の笑みで手を差し伸べる。


「さぁ、ヒルデ! 乗りたまえ! いざ、冒険の旅へ!」


「うん!」

嬉しそうに手を取って荷台に乗り込むヒルデ。


 振り返ると、城門前にはずらりと兵士たちが並び、見事な敬礼を揃えていた。


「わぁー! かっこいい! みんな、行ってきまーす!」

ヒルデは両手を大きく振ってはしゃぐ。


「よし! では迎えに行こう……我が最愛なるレイナ殿を!」


 馬車は街の石畳を響かせながらレイナの泊まる宿屋へと向かった。



◇◇◇



 城を出ると、街中の空気は城内の熱狂とは打って変わっていた。

 人々の視線は冷ややかで、どこか嘲笑を含んでいる。


「あっ、アッシュ王子だ! またなんか変なことしてる!」

子供たちがざわつく。


「ははは! 子供たちよ! 僕のいない間、街の平和を頼んだぞ!」


「ねぇ、それなに?」

一人の子供が指さしたのは、王子が胸にかけた赤いタスキ。


『いざ、魔王城へ!』と大きく書かれている。


「これは僕の決意の証だ! 格好良いだろう!」

王子は胸を張る。


「変なのぉ!」


「な、なにぃ!」

子供の笑いに王子が慌てる。


「こらこら、アッシュ王子に失礼でしょ!」

母親に手を引かれ、子供は去っていった。


◇◇◇


 次に王子の視線が止まったのは、路地に腰を下ろした写真屋の老人だった。

 肩に大きな写真機を担いでいる。


「おお、写真屋! 立派な写真機を持っているな!」


「あ、ああ……アッシュ王子」


「どうだ! この勇ましい姿を写真に納めたくはないか!」

胸を張り、タスキをばーんと突き出すアッシュ。


「いやぁ……大丈夫です」


「ん? 遠慮は要らぬぞ!」


「あ、遠慮じゃなくて、本当にいいです」


「むぅ……そうか! では達者でな!」



【こやつ……まさしく絵に描いた“裸の王様”ではないか】

魔剣は低く吐き捨てた。


「ねぇ、アッシュ王子」


「ん? どうしたヒルデ?」



「アッシュ王子ってあんまり尊敬されてないの? 」

澄んだ瞳でど直球な質問を投げかけるヒルデ。

決して悪気はない。

 


しかし、アッシュは高笑い。

「ははは! なかなか面白い冗談を!」

まるでノーダメージの様だ。


【ヒルデよ。こやつはどうやら、真実に気付いていない様だ。触れてやるな……】


「え? う、うん。分かった」


◇◇◇


  宿屋の前。

 扉の前で腕を組み、待っていたのはレイナだった。


「やあ! レイナ殿!」

白い歯をキラリと光らせて笑うアッシュ。


「はぁ……どうも」

レイナはそっけなく返す。


 アッシュは荷台から軽やかに飛び降り、レイナの前で片膝をついた。


「お待たせしたな、レイナ殿。迎えに参ったぞ。さぁ、この手を取ってくれ」


 差し出された手を無視し、レイナは自分でひょいと荷台へ乗り込んだ。


「おはよう、ヒルデ」


「レイナさん! おはよー!」

ヒルデが満面の笑顔で手を振る。


 立ち上がったアッシュは、レイナの荷物を抱えて慌てて荷台に戻る。


「どうしたレイナ殿! 少し元気がないな。悩み事か?」


「いや……あなたが暑苦しいのよ。朝なんて皆こんなもんよ」


「なるほど! 一理あるな!」

王子は大きく頷いた。


「はぁ……この人、ずっとこの調子なわけ? 何よあのふざけたタスキは」

レイナが額に手を当てる。


「えへへ! そうだよ! アッシュ王子、面白いよね!」

なぜか嬉しそうなヒルデ。


「そうだろう、僕は王国の顔だからな! 常に明るく元気に振る舞うのが王子の秘訣さ!」


【人望はないがな……】

魔剣ヴェルサレスがぼそっと呟いた。


「魔剣よ! 何を言う! 人々はこの輝く姿を見て、僕を“七光り”と称えているのだぞ!」


「……それ、褒め言葉じゃないんだけど」

レイナは心底呆れた顔で肩をすくめた。


「なに? 虹の様に美しいという意味だろう?」


「うん、虹みたいに光ってるよ!」

ヒルデが笑う。


「そうだろう! ははは!」


「はぁ……違うけど……まぁいいか」

レイナも頬杖をついて、くすっと笑った。


 こうして、一行は冒険者ギルドのあるモルトレンの街を目指し出発した。



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