第二十六話 ぶっちゃけるのはやめたまえ
唐突すぎる"好きなタイプ"の質問。
「な、何言ってんの? ふざけてる?」
レイナは困惑し、少し頬を赤く染める。
「ふざけてなどいない! 僕は至って真剣だ!」
アッシュは堂々と答える。
「知らないわよ、タイプなんて! 私は生涯、剣一筋なんだから!」
「よろしい! ならば今日から僕は貴方の剣となり、貴方を守ろうではないか!」
「アッシュ王子、何を言い出すんですか」
ガダンが狼狽える。
「ヒルデ、この人はやめましょ! おかしいわよ、この男!」
レイナは耳まで真っ赤にしてそっぽを向く。
「ねぇねぇ、アッシュさん。レイナさんのことが好きになっちゃった?」
ヒルデが無邪気に首を傾げる。
「うむ! 好きになっちゃった!」
即答。
どうやら彼には“羞恥心”という概念が存在しないらしい。
「正直、国の為に命を張れと言われたらそこまでやる気は出ないが、好きな女性の為なら僕は命を張れる!」
「アッシュ王子!」
「実際、王子と言っても王である父から自動的に受け継がれただけのこと。国民もそんなに僕を認めていない!」
「アッシュ王子!」
「ならば、好きな女性に認めて貰う方が百倍の価値がある!」
「アッシュ王子! 発言が真っ直ぐ過ぎますぞ!」
ガダンの制止に熱が入る。
しかし、アッシュの決意は固い様だ。
「レイナ殿……」
アッシュが唐突に席を立ちレイナへ歩み寄る。
「君はまるで〜僕の運命の人〜♪」
胸に手を当て、突如として歌い出す王子。
「は!? ちょ、急にミュージカル調!?」
レイナが仰天する間もなく、アッシュはステップを踏みながらさらに近づいてくる。
「さぁ〜♪ 我が手を取ってくれるかぁ〜い〜♪」
きらめく笑顔で、すっとレイナへ手を差し伸べた。
パァンッ!!
レイナは即座にその手を弾いた。
だがアッシュは怯まない。
むしろ両手を広げ、さらに熱唱を続ける。
「そうだぁ〜! 心の〜ゆくままぁ〜にぃ〜〜♪」
そしてスポットライトを浴びたかのようにその場でピタッと停止してレイナを見つめる。
「……次はレイナ殿のパートだ」
「知るかぁぁーーーー!!」
レイナが絶叫。
しかしアッシュは満足げに頷いた。
「よし、決まったな」
「なにが決まったのよっ!!」
「アッシュ王子凄い! 役者さんみたい!」
ヒルデが目を輝かせて拍手する。
「そこ、拍手いらない!」
レイナがすかさずつっこむ。
「ガダンよ、明日までに馬車を手配しろ! 明朝に出発する。まずは冒険者ギルドへ!」
アッシュがビシッとガダン大臣を指差した。
「はぁ……もうどうにでもなればいい」
ガダンは頭を抱え、項垂れた。
魔剣ヴェルサレスがぼそっと呟く。
【ククク、この単細胞男め……なかなか清々しいではないか……】
◇◇◇
──翌朝。
まだ陽も高く昇りきらぬ時間、骨董品屋の店内にはヒルデの声が響いていた。
カウンターの奥にはマスター、その隣にはコッペが立っている。
「……ああ、ヒルデちゃん。本当に行っちゃうの?」
コッペが心配そうに眉を寄せる。
「えへへー、大袈裟だなぁ! 少ししたら帰ってくるから!」
ヒルデは両手を広げて笑顔を見せる。
「ヒルデ、くれぐれも用心せい。危なくなったら逃げるんじゃぞ」
マスターが低い声で告げる。
「大丈夫! ヴェルちゃんもいるし!」
「……そこが一番心配なのよ」
コッペは頭を抱え、深い溜め息を漏らした。
「えへへ! それにコッペさんに教わった爆弾も作ってあるし!」
ヒルデは手提げ袋をポンと叩いた。
手提げ袋には何やら大量の道具が入っている様で、大きく膨らんでいた。
「うん、役に立つと良いわね」
コッペは優しく微笑んだ。
◇◇◇
ヒルデはカウンターに両肘をつき、マスターを見上げる。
「ねぇマスター。ママに何かあったら……お願いね」
「うむ。定期的に様子を見に行く。ワシに任せて行っておいで」
マスターは力強く答えた。
「ありがとう!」
「ヒルデちゃん、腕を出して」
「え? なに?」
ヒルデは小首を傾げつつ、左腕を差し出す。
コッペは懐から銀色に輝く腕輪を取り出し、そっとその手首にはめた。
「これはお守り。ずっと付けててね」
「わぁ……! きれいな腕輪!」
ヒルデは目を輝かせて喜ぶ。
「ふふ……」
コッペは優しく頷いた。
「あっ、そろそろ行かなきゃ! マスター、コッペさん。ありがとう!」
ヒルデはイスから軽やかに飛び降りた。
コッペは、椅子に置かれた魔剣を両手で持ち上げてそっと囁く。
「……魔剣さん。ヒルデちゃんをお願い。どうか、助けてあげてね」
【ふん。我を誰だと思って──】
「お願いね!」
コッペの真剣な眼差しが、魔剣の言葉を遮る。
しばし沈黙が走り、ヴェルサレスが低く答えた。
【……言われるまでも無いわ】
コッペは小さく微笑み、魔剣をヒルデの背中に装着してやった。
「えへへー! じゃあ行くね、ばいばーい!」
ヒルデは元気いっぱいに手を振り、勢いよく店を飛び出した。
コッペはその背を見送ると、カウンター席に腰掛け、祈る様に静かに目を閉じた。
「大丈夫じゃ……あの子は、周囲を味方に付ける天性の才能を持っておる」
コーヒーを淹れていたマスターがそっとコッペに語りかけた。
「でもね、マスター……」
コッペは小さく震える声を漏らす。
「さっき、ヒルデちゃんの手……震えてたのよ。本当は怖いのよ。でも私たちに見せないようにして……ああ、私って、なんて無力なの……」
ぽろりと一粒、涙がこぼれ落ちる。
マスターは、そっとカウンター越しに湯気立つカップを差し出した。
「そう悲観するでない。怖さを知っておるからあの子は強いんじゃ」




