第二十三話 レイナさんと作戦会議
気を取り直し、話題は本題──「魔封剣ネメシス」へと戻った。
「前にも言ったけど……やっぱり魔封剣があるとすれば“魔王城”ね。一切所在の情報が出回っていない。逆に言えば、そこにしか存在しないだろうと踏んでる」
レイナは腕を組み、真剣な面持ちで言い切った。
【なにぃ……”踏んでる”だと? 貴様、ただの勘で言っているのか? 】
ヴェルサレスが不満げに唸る。
「ふん、私の勘は今まで外れたことないの」
レイナは負けじと息巻いた。
「あのぅ……じゃあ、本当に魔王城に行くしかないの?」
ヒルデがしゅんと肩を落とす。
「……ええ。他に道はないと思うわ」
レイナはため息混じりに答え、続けて言った。
「ただし当然だけど、魔王城に行くのは簡単じゃない。難関が山ほどあるのよ」
【こっそり忍び込めば良いではないか】
「無理無理! そんな簡単な話じゃないの!」
レイナは魔剣の提案を即断する。
「私も前はムキになって“忍び込めばいいじゃない”なんて言ったけど……そんな生易しい話じゃないの。まず──魔王城周辺に近づくには、サンダーホロウ渓谷を越えなきゃならないし」
「サンダーホッホー帝国?」
「サンダーホロウ“渓谷!」
「えへへ、難しい名前」
ヒルデは舌を出して笑った。
「雷鳴が絶えず轟く、死の谷よ。稲妻が岩を砕き、谷底には焦げた残骸が積もってる……生半可な覚悟じゃ、一歩も踏み込めないわ」
「ひ、ひえー……」
ヒルデは説明を聞いただけで身震いした。
レイナは椅子にもたれ、真剣な目でヒルデを見据えた。
「──それでも行きたいの? 命懸けになるのよ、魔王城は」
問われたヒルデは口を開きかけて、すぐに言葉に詰まった。
唇を噛み、視線をテーブルに落とす。
【……ヒルデよ、そろそろ話した方がいいだろう】
魔剣ヴェルサレスが静かに促す。
「……話すって、なにを?」
怪訝そうに眉をひそめるレイナ。
ヒルデは小さく息を吸い込み、そして震える声で口を開いた。
「……ママがね、呪いにかかってるの。五年前……私の村が襲われたときに。その呪いのせいで、ずっと病気みたいに苦しんでるんだ」
堪えきれず、ヒルデの目に涙がにじむ。
「だから……魔封剣が、本当に呪いを消せるなら……どうしても……」
絞り出すような声が、静まり返った客間に落ちた。
──沈黙のあと、レイナはふっと視線を逸らした。
けれど、すぐに深いため息をつき、頬を指先でかいた。
「……ちょっと。反則よそれ。……そんなこと聞かされたら協力するしかないじゃない」
気だるげな声音の裏に、わずかな優しさが混じる。
「レイナさん……!」
ヒルデの胸に熱いものが込み上げる。
思わず抱きつきたくなるほど嬉しかったが、今はただ、涙をこらえて笑顔を返すだけだった。
ヒルデの決意を受け止めたレイナは、腕を組み直し、改めて真剣な声で告げた。
「じゃあ──より具体的に話すわね。
まず、サンダーホロウ渓谷に近づくだけでも“冒険者ギルド”での正式な申請が必要になるの」
「し、申請……またぁ?」
ヒルデが項垂れる。
火山の麓の町、モルトレンで通行許可証を取得したときの苦労が過ぎった。
「そう。けどね、正直に言うわ。このメンバーで行っても……絶対に許可は降りない」
【なにぃ? 我がいて尚無理だと? なんと弱気な】
ヴェルサレスが鼻で笑う。
「そんなに甘くないのよ。
許可が下りるとしたら──“名のある勇者”か、“一国の王クラス”の仲間でも連れていない限り、絶望的ね」
「ゆ、勇者か……王さま!?」
「そうよ。それほどに危険な場所ってことなのよ」
レイナの声音は淡々としていたが、その現実は重くのしかかった。
──そこで、おもむろにヒルデがパッと顔を上げる。
「あっ! アッシュ王子はどうかな!?」
「……誰よ、それ?」
レイナが目を細める。
「アルデリタ王国の王子さま! アッシュ王子! 前にね、イルトロール洞窟に一緒に来てくれたことあるんだよ!」
【……誰だそれは。そんな奴、居たか? 】
魔剣ヴェルサレスが唸る。
「ヴェルちゃんが武器破壊しちゃったあの王子だよ! 洞窟でさ!」
【……む? ああ……ほげぇー! と情けない声を上げておったあの王子か】
「ぷっ……覚え方ひどい!」
ヒルデは思わず吹き出した。
「王族の後ろ盾……確かに、それなら無視できないでしょうね」
レイナも僅かに期待を抱いた様だ。
「ね! ね! 決まりー! じゃあみんなでアッシュ王子のところに行こうよ!」
椅子の上でぴょんぴょんと跳ねるヒルデ。
「ま、とりあえず今日はもう遅いし……アッシュ王子の件は明日ね」
レイナが椅子から立ち上がり、肩をすくめた。
「今夜はもう遅いし、うちに泊まっていきなさい。部屋くらいなら余ってるから」
「えっ、いいの!? やったー!」
ヒルデは顔を輝かせ、ぱあっと喜びを隠しきれなかった。
【ふむ……泊まりとは都合がいい。ここに飾られた剣どもを、“ジャッジメントウェポン”で粉砕できる絶好の機会──】
「ヴェルちゃんっ!」
ヒルデが即座に振り返り、真剣な目で釘を刺す。
「レイナさんの武器には近づかないでね! 絶対だからね!」
【……ふん。読まれておったか。小癪な】
「当たり前でしょ!」
──こうして今夜は、思いがけずレイナの家で過ごすことになった。




