第二十一話 レイナを訪ねて
ヒルデは行商車を押しながら、隣町の『リューベン』へとやって来ていた。
目的はひとつ──「魔封剣ネメシス」の情報を求め、女盗賊で剣コレクターのレイナに会うためだ。
「よーし、着いた! リューベン! まずはレイナさんの家を探さないとだね!」
背中で魔剣ヴェルサレスがぼそりと忠告する。
【しらみ潰しに探しても埒があかんぞ】
「だよね〜。分かってるってば。……というわけで、まずは商売から!」
ヒルデは町の広場に行商車を止めると、さっそく商売を始めた。
久しぶりの行商に、やたらと商人魂を燃やしているようだ。
「いらっしゃいませ〜! いい素材が揃ってますよー!」
しばらくすると、ヒルデの周りに人が集まり始める。
「君が商人なのかい? まだ小さいのに、偉いじゃないか」
「自分で素材集めてるの? 立派だねぇ」
ヒルデはどうやら、人を惹きつける天性のものを持っているらしい。
素材は次々に飛ぶように売れていった。
ついでに、ヒルデは客からレイナの情報を聞き出していく。
──すると。
「レイナ? ああ、知ってる知ってる。あの剣マニアでしょ?」
「うん、レイナはこの町じゃ有名人だよ。“あの人に剣のこと聞いたら間違いなし”って言われてるくらいさ」
【なるほどな……商売ついでに聞き込みか。なかなか効率的ではないか】
魔剣は珍しく、ヒルデに感心した様子だった。
◇◇◇
ヒルデは聞き込みを重ね、町の人々から得た情報を頼りに、住宅街の外れへと向かう。
──そして見つけた。
石造りで、なかなか立派な建物。門の前には、やけに目立つ金属製の看板が掲げられている。
『剣コレクター レイナ』
【……盗賊の癖に、なんだこの自己主張の強すぎる家は】
ヴェルサレスがボソリと呟き、ヒルデがクスリと笑った。
「ほんとだね。なんか看板がやたらキラキラしてるし」
門を開けて中へ入ると、庭には大小さまざまな剣のオブジェが立ち並び、まるで小さな剣の美術館のようだった。
「わぁ……思ってたより、ちゃんとしてる……」
【ふん。どこからかき集めたのか……おそらく碌でもない手段であろう】
ヒルデがドアベルを鳴らそうとした、そのとき──
ガチャッ
扉が突然開き、中から現れたのは──
「……騒がしいと思ったら、あんたらか」
腕を組んだレイナが、相変わらず気だるげな目でヒルデを見下ろしていた。
「レイナさんっ!」
ヒルデは目を輝かせながら駆け寄り、勢いよくレイナに抱きついた。
「ちょっと! 馴れ馴れしいわね! 何なのよ、いきなり!」
思わず後ずさるレイナ。顔を赤くしながら腕をバタつかせる。
「えへへ、会えたから嬉しくて!」
「……ったく、あんたは距離感ってものがないわけ?」
軽くため息をついたレイナだったが、ヒルデの無邪気な笑顔に少しだけ口元がほころんでいた。
「あのね、今日は“魔封剣”? のことを聞きたくて来たの」
その言葉を聞いた瞬間──
レイナの表情がすっと引き締まった。
「なるほど、例の件ね。……わかったわ、こっちへおいで」
レイナは、ヒルデと魔剣を家の中へと招き入れた。




