第十八話 対決!溶岩魔神
──ズシーン! ズシーン!
『溶岩魔神』が歩くたび、その足跡がマグマの様に煮えたぎる。
真っ黒な岩の鎧をまとったような体のあちこちから赤く光る溶岩が滲み出る。
まるで歩く火山の様だ。
「こっちにくるよ! どうしようミカ!?」
「わ、わかんねぇけど──とりあえず水かけてみて!」
ヒルデが素早く竹ポンを構え、水を勢いよく発射する!
──ピシュッ!
水は溶岩魔神の胸元に命中!
しかし──
「ジュッ……」
軽く湯気を上げただけで、溶岩魔神は「ポリポリ……」とその場所を掻いただけだった。
「ええっ!? 蚊に刺されたみたいに!」
ヒルデが叫ぶと、溶岩魔神が呟いた。
「アー、カユイカユイ……」
「え、喋った!?」
「オマエタチ……シンニュウシャ……アタクシ、ユルサナァーイ!」
「あたくし!? 意外とお上品キャラ!?」
「溶岩魔神ってメスだったのか!?」
【おい、ヒルデよ。呑気な事を言っている場合ではないぞ……】
魔剣が警告した、その瞬間──
ドォォォン!!
地面に巨大な拳が叩きつけられ、溶岩が跳ねて周囲の空気が一気に熱を帯びた!
「うわーっ! 危ねぇ!!」
ミカは後ろに飛び退きながら叫ぶ。
「ねぇミカ! 竹ポンも効かないし、どうしよ!?」
「どうするったって! 他に何か──うおわっ!!」
溶岩魔神の拳が、ミカの足元すれすれの地面に激突!
土煙が舞い上がる。
「ミカ! 大丈夫!?」
「ああ、動きが遅いからなんとか避けれるけど、一発でも当たったらヤバいな」
「だよね! あーどうしよ、どうしよっ!」
ヒルデは意味もなく右往左往する。
「こいつ、拳を振り落としたあとに少しだけ動きが止まって隙が出来る。その時に攻撃できれば……」
「ソウナノヨ……肩コリガヒドクテ、シンドイノ」
「あっさり認めた!」
溶岩魔神の弱点が少しだけわかったものの、その高熱の身体にダメージを与える方法は浮かばなかった。
「ねっ、ヴェルちゃん! あの魔神、やっつけてくれない!?」
ヒルデの背中で『魔剣ヴェルサレス』は少々悩んでから答える。
【我に無機物を斬れと言うのか……? 】
「えっ!? あれも無機物扱いなの!? 違うよ! さっきしっかり喋ってたじゃん!」
【喋ろうが喋るまいが、無機物は無機物だ……】
「んもう! やっぱ頭固いなぁ! 自分だって喋る無機物のくせに!」
【ほう、なかなか上手いことを言うではないか……褒めてやろう】
「いらないよ!」
ヒルデが魔剣とお喋りしているなか、ミカは徐々に岩場の隅に追い詰められていた。
「お、おいヒルデ! ちょっとやばいかも!」
「うぇぇ……逃げて、ミカ! なんとかするから!」
そう叫んだ瞬間、ヒルデの頭に閃きが走る。
「あっ、そうだ! コッペさんからもらったアイテム!」
ヒルデは行商車の奥から何かを取り出すと高く掲げた。
「巨大化水風船〜!」
「きょ、巨大化……何だって?」
拳をなんとか避けながらミカが尋ねた。
「これにちょっとだけ水を入れて投げるとね──空中で、ぶわーって膨らんですっごい大きくなるの!」
ヒルデは慌てて準備をしながら説明する。
ミカの目が輝く。「なんだそれ! こいつに打ってつけじゃねぇか!」
「うん、コッペさんもこれがあれば楽に倒せるって言ってた!」
「じゃあもっと早く使ってくれよ!」
「ごめんね! 忘れてた!」
ヒルデは素早く竹ポンを構え、『巨大化水風船』に向けてシュッと一発水を注ぐ。
ぷくっと卵くらいの大きさに膨れる水風船。
「あとは。これを溶岩魔神に向かって投げれば……」
「ヒルデ、次に拳を振り下ろした瞬間を狙え!」
「わかった!」
「チョコマカ逃ゲルンジャ、アリマセーン!」
教育ママの様なセリフと共に、溶岩魔神は再び拳を振り下ろした。
ミカはサッと拳をかわして溶岩魔神の股下をスライディングですり抜ける。
「今だ! ヒルデ!」
「よーし、いっけー!」
ヒルデが『巨大化水風船』を高々と空へ向けて投げる。
空へ放られた水風船は空中でみるみると何十倍もの大きさに膨れ上がっていく!
とてつもなく巨大な水の塊が溶岩魔神に迫る。
──しかし、溶岩魔神は身を屈めてそれを回避。
「え、ええええ!?」
水風船は溶岩魔神の後方で破裂し、岩場に大きな水溜りを作った。
【外してしまうとは情けない……】
「だってぇ、避けるなんて聞いてない!」
ヒルデの元にミカが駆け寄る。
「ヒルデ、さっきのアイテムまだあるのか!?」
「ちょ、ちょっと待って!」
ヒルデは行商車の荷台を漁る。
しかし、『巨大化水風船』は見当たらない。
ズシーン! ズシーン!
溶岩魔神が徐々に近づいてくる。
「おーい! ヒルデ、まだか!?」
「だめ、無いかも! この前、遊びで何個か使っちゃったから!」
「何してんだよ! 遊びで使うな!」
やがて、大きな影がミカとヒルデに覆い被さる。
──息を呑むミカ。
【仕方ない、我を──】
魔剣が言いかけた時、ヒルデが叫んだ。
「ねぇ溶岩魔神さん! あれ、お風呂だよ!」
──意味がわからず呆然とするミカ。
ヒルデは先ほどの水風船で出来た大きな水溜りを指さしている。
「な、何言ってんだよヒルデ」
しかし、溶岩魔神の動きが止まる。
「オ、オフロ……?」
溶岩魔神は振り返り、水溜りを見つめる。
「そう、お風呂! 入りたいでしょ?」
「オ、オフロ……ハイリタイ……」
──なんと、溶岩魔神は踵を返して水溜りへと向かい歩き始めた。
「はぁ? な、何がどうなってるんだ……?」
驚くミカをよそに、ヒルデは得意気に語る。
「えへへー、あの魔神さん女の子でしょ! 絶対お風呂好きって思ったんだ! 肩こりもひどいって言ってたし、温泉に入ったら治るもんね」
「な、何だそりゃぁ……」
ミカはへなへなと尻餅をついた。
◇◇◇
──「アー、ゴクラク、ゴクラク」
溶岩魔神は気持ち良さそうに湯に浸かっている。
魔神の体熱で、水溜りは良い湯加減の温泉になっていた。
「あー気持ちいい! 疲れが吹き飛ぶね!」
足を湯に浸けながら、ヒルデはニコニコ笑っている。
「まったく、やっぱりただ者じゃないよお前……」
ミカは呆れ返った。
【小僧、同感だ……】
魔剣も同じ気持ちのようだ。
とにかく、ヒルデは爆弾の素材を集めることに成功した。
──このエンカー火山帯が『屈指の秘湯スポット』として名を馳せるのは、また別のお話である。




