第一七話 噴射するのはやめたまえ
──エンカー火山帯。
ゴウゴウと吹き上がる熱風、真っ赤に焼けた地表、火口から立ち上る硫黄の匂いが鼻を刺す。
「ふぅー、あっついねぇ……」
ヒルデは汗をぬぐいながら、行商車を押して山道を登っていた。
通行許可証を手に入れたヒルデの目的は、爆弾の材料『発火オイル』を集めること。その素材はこの『エンカー火山帯』に棲む『岩石小僧』から採れるという。
「コッペさんが言ってた通りなら……この辺にいるはずなんだけどな〜」
「おい、待てってば!」
「え? ミカ?」
後方から息を切らして走ってきたのは、勇者ミカだった。
「まったく……お前、本当に一人で火山に来るとか正気かよ!」
「えー? だって許可証もあるし、平気だもん」
「バカか! 女の子一人で火山に行かせるとか無茶だろ!」
ミカはぶっきらぼうに言いながらも、心配だった様だ。
「わぁ、ありがと! 頼りにしてるよミカ!」
──二人は火山帯の奥へと進み、『岩石小僧』の姿を探していた。
ヒルデは、ぐねぐねとした岩肌の坂を登りながら辺りを見渡す。
「うーん、普通の岩ばっかりで見つからないや」
「いたぞ! アイツだ!」
ミカの指差す先に、小さな丸い岩のようなモンスターが跳ねていた。
真っ赤に焼けた石の身体に、ギョロリと睨みつける様な目が光る。
「ほぇー……あれが『岩石小僧』かぁ……可愛いねぇ……」
「可愛いって……その感想どっから出てくんだよ……」
ミカは苦笑しながら、岩陰にしゃがみこむ。
「あのモンスターは体がめちゃくちゃ熱いから触ったら火傷するぞ? どうする?」
「えへへー!」
不敵に笑うヒルデ
岩場をひょいと降りると、行商車に駆け寄り
荷台から竹筒のような物を取り出した。
「これ、骨董品屋で見つけたんだ! 名付けて……『竹ポン〜』!」
それは、竹の節をくり抜いたシンプルな作りの水鉄砲で、先端からは細い水の流れがピュッと噴き出す仕組みになっている。
【また訳の分からぬ道具を……】
「そんなおもちゃでどうすんだ?」
ミカが尋ねる。
「ふふふ……試してみる?」
ヒルデはニヤリと笑うと、竹ポンをミカに向けて引き金を引いた!
プシャーッ!
「うわっ冷たっ! このぉー、やめろっての!」
ヒルデは逃げまわるミカを竹ポンで撃ちながら追い回す。
「やめろっておい! こら!」
「きゃははは! 待て待てー!」
【おい貴様ら……遊びに来たのか? 】
背中で魔剣ヴェルサレスがため息混じりに呟いた。
──全身びしょ濡れになったミカ。
「お前、限度ってもんを知らないのか? 」
「ごめん、面白くてつい……」
「はぁ……まぁいいや。さっさと岩石小僧を倒そうぜ」
「はーい!」
ヒルデは荷台に積まれた水樽から竹ポンに水を注入すると、先ほど見つけた岩石小僧に狙いを定める。
「ふふふ、見せてやる! 竹ポンの威力!」
──ピシュッ!
勢いよく水を噴射した。
水が命中すると、岩石小僧の身体が「ジュウゥッ……!」と白く蒸気を上げた。
明らかに動きが鈍り、鋭かった目つきもしょんぼりと弱々しくなる。
【ほう、水が弱点の様だな……】
魔剣は少し感心した。
「よーし! 今だよ、ミカ!」
「任せとけーっ!」
ミカが跳び上がり、拳に力を込めて岩石小僧の頭上から一撃。
──ガシャン!
岩石小僧は粉々に砕け、赤黒い液体が詰まった小瓶──『発火オイル』が地面をコロコロと転がる。
「おおー! 出た出た!」
「ヒルデ、もう一匹来るぞ!」
「了解ー! 竹ポン装填!」
ヒルデが水を撃つたびに、「ジュウー!」と岩石小僧が弱体化し、ミカの拳がそれを粉砕していく。
「順調! 順調!」
ミカとの巧みなコンビネーションに、ヒルデは上機嫌の様子。
「ところで、ミカってさ、勇者って言うわりに武器持ってないの?」
「フッ……俺はな、武道派の勇者なんだ。拳ひとつで十分さ!」
【ほう……小僧。なかなか潔いな、少しは気が合いそうだ】
魔剣が珍しく満足げに呟く。
──その時。
「ゴォオオオオ……!」
空気を揺らす重低音が地の底から響いた。
足元がぐらりと揺れ、地面の裂け目から巨大な腕がせり上がる。
「な、なに!?」
「何か来るぞ……!」
裂け目から現れたのは、真っ赤に燃える全身を岩で包んだ巨人の様なモンスターだった。
「あー! これ、コッペさんが言ってた『溶岩魔神』だ!」
「うおー初めて見た! でっけぇ!」
ミカが驚愕する。
【くっくっく……どうやら、こいつは遊び相手では済まぬ様だな】
魔剣は楽しそうに笑った。




