第十六話 冒険者ギルドにて
──ギルドの受付に、ヒルデがちょこんと立っている。
「えっと、あの……通行許可証、くださいっ!」
その一言に、ギルド内がざわついた。
「今、なんて言った?」
「通行許可証だってよ……」
「はっはっは! どこ行く気だよ、お使いかぁ?」
冒険者たちの笑い声が、ギルド内に響き渡る。
誰もがヒルデを、子供のおつかい程度にしか見ていない。
だが、当の本人は、笑われていることすら気付いていない。
「えーと……お姉さん、どうすればいいの? この紙に名前書けばいい?」
「ふふ、そうね。その『通行許可証申請用紙』に記入してね。申請者の名前と、『エンカー火山帯』に行く目的、それからパーティの人数と役割を」
受付嬢は優しく答えるが、内心では(誰かの代理で来たのね)と思っていた。
ヒルデは嬉しそうにペンを取る。
カウンターが高いため、少し背伸びして記入する羽目になる。
「えーっと、名前はヒルデでしょ。目的は……素材集め。パーティは……え? パーティ? アタシ、開かないけど……」
その一言に、また笑いが起きた。
「ぷはっ! パーティの意味も知らねぇのかよ!」
「まぁ、あの歳なら無理もないな。仲間なんていなさそうだしな」
「それにしても、あのごっつい剣は何なんだ。拾って喜んでんじゃねぇの?」
「ははは、使えなきゃ飾りだっての!」
──バンッ!
ギルドの片隅で、ミカが机を叩いて立ち上がった。
「お前ら! 何がおかしいんだよ!」
一斉に注がれる視線。
「冒険に、見た目や年齢が関係あるかよ! 仲間がいなきゃダメ? お前らみたいな三流の寄せ集めより、よっぽどマシだろ!」
騒然とするギルド。
「チビが何言ってやがる」
「勇者気取りか?」
ミカはなおも怯まず、吐き捨てるように言った。
「三流ほど他人を見下すんだ。自分より低ランクばっかり目を付けてな」
──ガタッ、ガタガタッ……
数人の冒険者が椅子を引き、無言でミカとヒルデににじり寄る。
「おっと……ちょい言いすぎたかも」
「ねぇミカ。『開催の予定はありません』って、どう書くの?」
ヒルデはまったく状況に気づいていない。
──その時、ヒルデの背中で声が響いた。
【我を抜け、ヒルデ】
「え?」
【抜け。我が力で、この雑魚共を黙らせる】
「う、うん!」
ヒルデは背中から『魔剣ヴェルサレス』を引き抜いた。
銀の刃がギルドの照明を跳ね返し、煌めきを放つ。
冒険者たちの動きが止まる。
【良いかヒルデ。我の言葉を復唱しろ。いいな? 】
「ふくしょうって何?」
【……とにかく、言った通りに繰り返せ】
「くりかえす……わかった!」
ヒルデは剣を掲げ、魔剣の言葉をまねる。
【我は、魔剣を操りし者──】
「アタシは、魔剣をあやつるもの!」
【貴様らの命を刈り取るなど容易いこと】
「貴様らの命を刈り取るなど……刈り取るなど……ん?」
【……容易いこと】
「……あら、安いこと!」
【違う! 『容易い』だ! 値引き商品見付けたおばさんか! 】
「ご、ごめん……容易いこと!」
【命が惜しくなければ、かかって来るがいい】
「命が惜しくなければ……かかってこい!」
魔剣が一層強く光り、空気が震えた。
「な、なんだこれ……やばくねぇか?」
ギルド内の冒険者たちが、次第に顔を強張らせる。
【……くくく……仕上げといこうか】
魔剣が紫色に発光し、空間を満たす。
【──ジャッジメント・ウェポン! 】
風が吹いたような感覚。
次の瞬間──冒険者たちの武器が、ひとつ、またひとつ……砂粒となり崩れた。
「な、なんだ!? 俺の斧がぁ!」
「剣が……剣が消えたぁぁ!」
パニックになった冒険者たちは、我先にとギルドを飛び出していった。
──静まり返るギルド。
「えへへー、みんな帰っちゃった! ヴェルちゃん、すごーい!」
ミカは青ざめながら尋ねる。
「ヒルデ、お、お前……何者だよ!」
「え? ただの行商人だよ」
「いや、“ただの”では無いだろ……」
受付嬢が震えながら口を開いた。
「通行許可証の申請……け、検討いたしますので、少々お待ちくださいませ!」
「うん! ありがとう!」
ヒルデはにっこり笑い、魔剣を背中に戻した。
【情けない……口ほどにも無い奴らめ】
魔剣は、ぽつりと呟いた。




