第十五話 火山の麓の町 モルトレン
「つうこう……きょかしょ?」
『エンカー火山帯』へ向かう道中の小さな町でヒルデは足止めを食らっている。
「そうだよ、お嬢ちゃん。この先は火山活動が活発な地域だからね。通行許可証が無いと通れない決まりなんだ」
体格の良い門番がヒルデに説明する。
「それ、どこに行けばもらえますか?」
「うん、この町にはね。『冒険者ギルド』という施設があるんだ。そこに行って申請してみたらどうかな?」
「ギルド……そこで申請すればアタシも貰えますか? その、通報教科書っていうやつ……」
【何だその防犯入門用アイテムは。『通行許可証』だ】
ヒルデの背中で『魔剣ヴェルサレス』がつっこみを入れた。
「貰えるか……か。うーん……」
門番はヒルデをまじまじと見つめる。
表情から(この子が申請通るわけ無いだろうな)という思いがひしひしと伝わってくる。
「まぁ……とにかく行って見たらどうだい?」
「うん、ありがとう! 行ってみる! ばいばーい!」
「はは、さようなら……」
門番は苦笑いを浮かべながら手を振った。
火山帯の麓に位置するこの町の名は『モルトレン』
遥か昔、賢者がこの町を魔王の侵略から守ったと伝えられており、町の中央には大きな賢者の銅像が建てられていた。
「うわー、大きな銅像……」
ヒルデは銅像の土台に書かれた説明文を読んでみる。
「大賢者ゼス・アークライト……かつて、この地を大魔王ノクタリウスのせ、そ、えー……」
ヒルデは難しい字が読めない様だ。
「ま、いっか」
ヒルデが銅像から離れたその瞬間、『魔剣ヴェルサレス』が急に自身の質量を変化させて物凄い重さになった。
「う、うわぁ!」
ヒルデは真後ろに倒れ、起き上がれずに亀の様にもがく。
「ちょ、何してんのヴェルちゃん! 急に重くならないで!」
【ヒルデよ、あの銅像の説明をもう一度読み上げろ……】
なにやら、魔剣は賢者の銅像が気になっている様だ。
「難しい字があって読めないんだよ! いいから早く軽くなりなさいよ!」
道行く人が不思議そうな目でヒルデを見ている。
「んもう! 恥ずかしいからやめてっ! ヴェルちゃんってば!」
一人の少年がヒルデに近寄る。
「お前……何やってんだ?」
「あ、あのね! この剣が重くて起き上がれないの!」
少年はポカーンとする。
「そんなもん、何で持ってんだよ……」
──銅像の近くのベンチに座り、ヒルデは少年から賢者の銅像について説明を受ける。
「つまりだな……このモルトレンの町は、大賢者ゼス様が魔王ノクタリウスの侵略から守ったから今も残ってるってことだ」
「へー、凄いんだね! そのゼス様って人。会ってみたいなぁ」
「いや、アホか! 何百年も前の話だぞ。生きてるわけないだろ」
「あ、そうなの?」
「そうなのって、知らなかったのかよ……」
少年は呆れる。
「ヴェルちゃん知ってた?」
ヒルデは魔剣に語りかける。
【いや、知らぬ、知らぬが……何か引っ掛かるのだ】
「へぇー、変なの」
「お前、何ぶつぶつ言ってんだ?」
少年が不思議そうにヒルデを見つめる。
魔剣の声は少年には届いていない様だ。
「いや、なんでもないよ。教えてくれてありがとう! えーと、名前は……?」
「よくぞ聞いてくれた!」
少年はベンチからスッと立ち上がる。
「俺は勇者ミカ! いつか魔王軍を滅ぼす者だ!」
「………………」
場の空気がシーンと静まり返った。
ミカと名乗るその少年は、年齢はヒルデより2から3つほど上に見えるが、背丈は低く、とても勇者には見えなかった。
「……お前今、俺のこと『勇者には見えないな』と思っただろ?」
「うん、なんか名前も女の子みたいで可愛いし」
ヒルデは容赦無く思ったことを口にした。
ミカはがっくりと肩を落とす。
【真っ直ぐすぎるぞ、ヒルデ】
見兼ねた魔剣が注意した。
「あ、ごめんね。ミカ、いい名前だと思う!」
「……もういいよ、お前の名前は?」
「アタシ? アタシはヒルデ。行商人だよ」
「行商人? 行商人が何でそんなゴツい剣持ってんだ?」
「あ、この子は、えーと……友達なの」
「友達? 剣が? ふーん、よくわかんねぇけどまぁいいや」
ミカは何か思い付いたかの様に顔を上げた。
「そうだ、ヒルデ、付いて来な! こっち」
そう言ってミカは走り出した。
「え? えっ?」
ヒルデも慌てて後を付いていく。
──二人は『冒険者ギルド』の前に立っている。
「見ろ! あの絵!」
冒険者ギルドの大きな扉の上には一枚の絵が飾られていた。
「あれはな、大賢者ゼス様が魔王に勝利した瞬間を描いた物なんだ」
「ほぇー……」
絵の中では、いかにも強そうな賢者が膝を付いた魔王に剣先を突きつけている。
「へぇー、かっこいいね。ゼス様」
ヒルデは感心しながら絵を見つめる。
「だろ! そうだろ! この町の住人はみんなゼス様に憧れてるんだ。だからこうやって冒険者ギルドの正面に飾ってるって言う訳だな」
「へぇー、……え? ここって冒険者ギルド?」
「ん? そうだ。ここは冒険者ギルドだ」
「わー! ありがとうミカ! アタシここに来たかったの!」
ヒルデは嬉しそうにミカの左手を両手で握って飛び跳ねる。
「え、ええ? 何でお前ギルドに用事なんか……」
「通行許可証を貰いに行くの、ミカも行こ!」
そう言いながらヒルデはギルドの扉に向かって駆け出した。
「ま、待て!」
慌ててミカはヒルデを止める。
しかし、ヒルデは扉を開けてそそくさと中に入ってしまった。
「おいおい……お前みたいな女の子が通行許可証なんて申請したら、笑い者にされるぞ」
ミカは仕方なくヒルデの後を追った。




