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行商人ヒルデと魔剣ヴェルサレス  作者: 鳥部 本太郎


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第十四話 決闘!ヒルデvsレイナ

 

 じりじりと距離を詰めるレイナ。


ヒルデは『魔剣ヴェルサレス』を両手でギュッと握って構えている。


「ヴェ、ヴェ、ヴェルちゃん、アタシどうすればいい?」


【貴様は黙って我を握っていればそれで良い】


「え、それで良いの? 大丈夫?」


「お喋りしてる暇があるのかしらっ!」

レイナはヒルデに飛び掛かった。

真上から振り下ろされた剣を魔剣が受け止める。


「キィン!」という高い音が空気を裂いた。


「うわ、ちょ! ちょっ!」


 ヒルデは恐怖のあまり腰が引けている。


【こらヒルデ、しっかりと立つのだ】


「ご、ごめんね」


 レイナは一度バックステップして距離を置くと、またすぐに呪剣を構える。


 どうやら魔剣は、ヒルデが操らなくても半自動的に動いてくれる様だ。

しかし、対人戦など経験の無いヒルデはどうしても恐怖心に囚われてしまう。


 ヒルデの足が小刻みに震えだした。


 レイナはクスッと笑う。


「ほら、やっぱり宝の持ち腐れね。だから言ったでしょ、あなたにその魔剣は勿体無いって」


【ヒルデ、しっかり構えろ。次の攻撃が来るぞ】


「うん、わかった」


 ヒルデはそう返したが、足に続いて魔剣を持つ手までもブルブルと震え出した。


瞳が潤み、微かに嗚咽が漏れ始める。

「うぇ……ひっく……ひっく」


【貴様、泣いている場合ではないぞ……】


「だって、だって……うえぇぇ……」


 ヒルデの目から大粒の涙がボロボロと流れ落ちた。


 レイナは呆れた様に溜め息を漏らす。


「まったくもう……これじゃ、決闘にならないどころか私が虐めてるみたいじゃない」


 レイナは『呪剣ソウルイーター』を鞘にそっと戻した。


「もう分かったでしょ? あなたではその剣は扱えないって」


 レイナは無防備に両手を前に出しながらヒルデに滲みよる。


「ほら、大人しく渡しなさい」


 ヒルデは魔剣をギュッと胸に抱える。


「だめ、やだもん!」


「はぁ?」


「ヴェルちゃんは渡さない!」


「……何を言ってるの? もう勝負はついた様なもんでしょ」


「ついてない!」


「つきました! 今さっきボロボロ泣いてたじゃない、あなた!」


「違う! これは『思い出し泣き』しただけ!」


「なにそれ! この状況で何を思い出す事があるのよ!」


「えーとね、この前お店で食べたカレーが辛かった!」


「カレーはだいたい辛いわよ!」


「甘口だって言ってたの! お店の人が!」


「お店によって辛さの基準は変わるの! 甘口って言ってもそれがどれくらいの辛さなのか事前に確認しないと!」


【貴様ら、一体なんの話をしているのだ】


 激しく脱線する二人の口論に対し、魔剣がボヤいたその時、何かがレイナの身体にぐるぐると巻きついた。


「え? 何これ? ベロ?」


 それは『バクレツヒキガエル』の舌だった。


 次の瞬間、絡まった舌に強く引き寄せられて一瞬のうちにレイナはその場から消え去った。


「えー!?」


 ヒルデは驚きの声を上げる。


 ズン、ズン……


 木の影からバクレツヒキガエルが姿を現した!


カエルの口から生えたレイナの2本の足がバタバタともがいている。


「どうしよう! レイナさん食べられちゃったよ!」


【あの女さっきから不幸が過ぎるな、あれは呪剣の力なのか……】


「ねぇ、なんとかしてよヴェルちゃん!」


【うむ……仕方ない、あの女から魔封剣の事も聞き出さなくてはいかんからな。斬るぞヒルデ】


「うん! わかった!」


 ヒルデは駆け足でカエルへ近寄ると、カエルの膨らんだ喉元に向けて魔剣を薙ぎ払う。


 斬撃がカエルに直撃した。


 喉元を斬られたバクレツヒキガエルは『グェー!』と鳴き声を上げた直後、全身がバァン! と弾け飛んだ。


 その勢いでぐるぐると回転しながら真上に投げ出されたレイナは、そのまま空中を漂う『閃光虫』の群れの中に突っ込んだ。


 パーン! パーン! パンパーン!

と大量の閃光虫が眩い光と共に破裂する。


「わぁー凄い! レイナさん、打ち上げ花火みたい!」

ヒルデは何故か感動している様だ。


 やがて空中から落下したレイナの上半身がズボッ! と地面に突き刺さった。

再び、レイナの2本の足がジタバタともがく。


 ──ヒルデによって地面から引っ張り出されたレイナは、しばらく宙を見つめた後にそっと呟いた。


「私の負けよ」


「え……そうなの?」


「残念だけど、もう剣を振る体力も残ってないわ。私の事はいいから、早く素材を回収しておいで。それが目的なんでしょ?」


 周りを見渡すと、『引火粘液(いんかねんえき)』と『閃光の胞子』が地面にパラパラと落ちていた。


「うん。あの……ありがとう、レイナさん」


「礼を言われる筋合いは無いわ」


【うむ、確かに全く無いな……】

魔剣が余計な事を言った。


 ──「ルンッ! ルンッ! ルンタッ! ルンタッ!」


 ヒルデの軽快な鼻歌と共に、行商車(ぎょうしょうぐるま)が帰路を辿る。


 荷台に寝転ぶレイナが、そばに置かれた魔剣に語りかける。


「ねぇ、魔剣ちゃん。あなたは何であんな弱っちい女の子を持ち主に選んだの?」


【さぁな、我にも解らん】


「何よそれ」


【貴様の方こそ、何故その様な厄介な呪剣を持っておるのだ? 】


レイナはしばらく沈黙した後に口を開いた。


「さぁね、私にも解らないわ」


レイナはそう言いながら静かに微笑んだ。


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