第十三話 詰め込むのはやめたまえ
瞼の裏に陽の光が差し込むのを感じて、レイナはゆっくりと目を開けた。
どうやら、密林の枯葉の上で仰向けに寝転んでいる様だ。
視界がぼやけて上手く焦点が合わない。
うっすらとだが、少女が顔を覗き込んでいるのが見える。
何か話し掛けて来ている様だが、意識が朦朧として頭に入らない。
──徐々にだが意識が戻ってきた。
しかし、まだ意識と体が繋がっていない。
脳の命令が手足まで届いていない感覚だ。
(この娘は? ……ヒルデか。そうだ、私は毒蛇に噛まれて意識を失っていたんだ)
必死に起きた出来事を脳内で整理する。
(何だ……? ヒルデ、何をしている?)
ヒルデは、レイナの口に大量の草をねじ込んでいる。
(げ……苦っ! 何だこれ……)
──「ねぇ、これで足りるかな? もう『毒消し草』無いんだけど」
【いや、充分であろう。というより、入れすぎだ。詰め込みすぎてヒマワリの種を口に溜め込むハムスターの様ではないか……】
「え!? そうかなぁ……」
(毒消し草ですって? ふんっ、毒蛇の毒くらい自力で耐えれる。余計なお世話なのよ……)
レイナは仰向けのまま、ヒルデに罵声を浴びせる。
「あにいえうお!? おえいあおえわお……おっおいえおーあい!」
しかし、口にしこたま草を詰められているので上手く話す事が出来ない。
「あ、喋った! レイナさんが喋ったよヴェルちゃん!」
【うむ、しかし何と言っているのだ? 何かの呪文か? 】
「じゅおんああい! おっおいえっていっえるお!」
「オーイエー?」
ヒルデは理解できず、何故か親指を立ててグッドサインを出した。
「いあう!」
「え? なんて言ってるの、わかんないよー!」
ヒルデは頭を抱える。
【口に大量の草が詰め込まれているせいで喋れないのではないか? 】
魔剣がアドバイスする。
「あっ、そうか! じゃあ水で流し込もう!」
ヒルデは持参した水筒の蓋を外すと、逆さにしてレイナの口元に垂直に立てた。
「ゴ、ゴボォ! ゴボゴボォ!」
レイナが水をいくら吹き出しても、垂直に立てられた水筒からどんどん水が口内に流れ込む。
レイナは仕方なく、水を一旦ゴクリと飲み込んだ。
「グボォッ!」
大量の『毒消し草』のエキスが染み込んだ水は信じられない程に苦かった。
堪らずむせ返るレイナ。
「ゴボッ! ガボボボ! ゴボォ!」
それでも水はレイナの口内に流れ続ける。
(これ死ぬ! やばい……陸地で溺死する!)
レイナは、やっとの思いで動かした左手で水筒を払いのけると、勢い良く上半身を起こした。
同時に、丸まった草の塊を口から「ボッ!」と発射する。
「あ、起きたー!」
両手を合わせて喜ぶヒルデとは対照的に、レイナは殺気立った表情でゼイゼイと肩で呼吸をしている。
「こ……殺す気か!」
「え?」
意味も分からずヒルデはキョトンとした。
「はぁ、はぁ、くそ。まさか、こんな小娘に殺されかけるなんて……不覚だわ」
レイナは膝を付いてゆっくりと立ち上がる。
幸い、ヒルデの『毒消し草エキス』が効いたのか毒の症状は消え去っている様だ。
レイナはヒルデをビシッと指差す。
「ヒルデ、私と決闘しなさい!」
「え? なに? なんで?」
「私が勝ったら、その魔剣を頂くわ」
「えぇ……」
【命を救われておいて、何という女だ……】
魔剣は呆れた。
「ど、どうするヴェルちゃん? 決闘だって」
【うーむ……】
魔剣は考え込んでいる。
「どうしたの魔剣ちゃん。あなた、私が怖いの?」
【怖いだと? くっくっく……寝言をほざきよるわ】
レイナは腰に付けられた鞘から『呪剣ソウルイーター』を抜いた。
「呪剣と魔剣、果たしてどちらが勝つでしょうね?」
レイナは『呪剣ソウルイーター』の刃を指先でなぞりながら問いかけた。
【何……呪剣だと? まさか貴様のその剣は、『呪剣ソウルイーター』であるか? 】
「そうよ、それがどうしたの?」
魔剣とレイナの会話にヒルデが首を突っ込む。
「え? ヴェルちゃん、あの剣、知ってるの?」
【うむ……朧げではあるが、何故か記憶の奥底で知っているのだ。『呪剣ソウルイーター』そしてもう一つ、『魔封剣ネメシス』】
「へぇ、少しは詳しい様ね……」
レイナは妖しく微笑む。
【貴様、剣コレクターと言ったな? では知っているのか? 『魔封剣ネメシス』の在処を』
「ふふふ、それを知ってどうするつもり?」
【くっくっく……魔力を封じる剣、そして魔力で武器を破壊する我。どちらが勝つのか確かめてみたいと思うのが道理であろう。そして、それが我の最終目的なのだ】
ヒルデは『魔剣ヴェルサレス』の発言を、ポカーンと口を開けて聞いている。
「へぇー。ヴェルちゃん、そんな目的あったんだ、知らなかったなぁー」
「良いわ。こうしましょう、貴方たちが私に勝ったら、『魔封剣ネメシス』の在処を教えてあげる。その代わり、私が勝ったら貴方は私の物よ、いいわね? 魔剣ちゃん」
【面白い……ヒルデよ。我を抜きたまえ】
「え、あ、はい!」
ヒルデは鞘から魔剣を引き抜いた。
銀色の刃がキラリと輝く。
ヒルデとレイナはお互いに剣を構え、睨み合った。




