第十二話 探検!イグール密林
──ここは『イグール密林』
グネグネとした幹の木々が生い茂っている。
葉のほとんどが枯葉となって落ちているため、地面には絨毯の様に枯葉が敷き詰められていた。
密林の中の切り株に座り、ヒルデはコッペからもらった『爆弾の作り方』の紙を眺めている。
「バクレツヒキガエルと閃光虫……このモンスターを探さなきゃね」
ヒルデの背中に背負われた『魔剣ヴェルサレス』が不満を漏らす。
【下らぬ……また、ザコモンスター狩りか】
「んもう! そんなこと言わないでよヴェルちゃん。密林だよ? ちゃんと冒険っぽいじゃん!」
【貴様……それが冒険者の格好と言えるか? 】
ヒルデは『虫取り網』、『虫取りかご』、『麦わら帽子』を装備している。
【まるで昆虫採集ではないか……】
「これでいいの! カエルと虫を捕まえるにはこの装備が一番いいでしょ!」
──足元に積もった落ち葉をザックザックと踏みしめながら、密林の中を進むヒルデ。
木々の隙間からは柔らかな木漏れ日が差し込んでいる。
「あっ!」
ヒルデは何かを見つけてしゃがみ込んだ。
【何だ? モンスターか? 】
「えへへー、見て! 大っきな松ぼっくり!」
【………………】
──池のほとりで何かを発見するヒルデ。
「あっ、ほら! カメが日向ぼっこしてるよ、かわいいねー」
ヒルデは、石の上で気持ち良さそうに甲羅干しをしているカメの甲羅をつんつんと指で突ついた。
「あはは! 顔引っ込めちゃった!」
【………………】
──ヒルデは、大木の幹にじわりじわりと近づく。
「やぁっ!」
虫取り網を素早く振って大木に当てると、網に捕獲された何かがモゾモゾと動く。
ヒルデは網に手を突っ込み、おもむろにそれを掴んで取り出した。
「やったー! ヒラタクワガタ〜!」
【少年の夏休みか! 】
耐え切れなくなった魔剣が大声を上げる。
【ヒルデよ、貴様はモンスターを狩りに来たのではないのか? 何だこの夏休みの絵日記の様な無駄な時間は……】
「あ、そうだった、忘れてた……」
【忘れるとは情けない! 】
「はい、ごめんね……」
魔剣に叱られて、ヒルデはしゅんとなった。
ヒラタクワガタをそっと木に帰してやる。
その時、ヒルデの横をすぅーっと光の球が横切った。
「え? 何?」
光の球を目で追うヒルデ。
見上げると、空中に沢山の光の球がフワフワと漂っていた。
「わぁ! 綺麗……! これ光ってるのって『閃光虫』だよね。すごい! いっぱいいるよ!」
虫取り網をギュッと握るヒルデ。
「よーし、捕まえるぞぉ……」
ヒルデは虫取り網を空中に向けてブンッ! と振った。
しかし、閃光虫は器用に網をひらりと避けてしまう。
「あぁ! こ、このー!」
閃光虫の大群が密林の奥へと移動する。
「待てー!」
ヒルデは、虫取り網を構えながら密林の中をドタドタと追い掛ける。
黄色い枯葉が足元から跳ね上がり、宙を舞う。
ばいーん!
突然、何かに弾力のある物にぶつかり、ヒルデは尻餅を付いた。
「いたた……なに?」
ヒルデはぶつかった物の正体を確認するように頭上を見上げる。
「ぎゃー!」
そこには、巨大なカエルが腰を落としていた。
ぷくーっと大きく喉元を膨らましている。
どうやた、ヒルデは膨らんだカエルの喉元に衝突した様だ。
カエルは口の周りを舌で舐め回すと、「ゲコォー」と低い声で鳴いた。
「う、うわー!」
ヒルデは慌てて逃げ出すと、大きな木の影にサッと身を隠した。
コッペさんから貰った紙を再度確認する。
(バクレツヒキガエルの特徴……深緑色の身体に、赤い斑点模様……)
ヒルデは木の影からカエルを観察する。
「あるっ! 赤い斑点模様!」
さらに特徴を確認する。
(ゲコォーと低い声で鳴く)
「うん、さっき鳴いた! ゲコォーって鳴いたよ、それから?」
しかし、特徴はそれ以外書かれていなかった。
「大きさ書いてよぉ!」
ヒルデは落胆する。
『バクレツヒキガエル』はヒルデの想像よりも遥かに大きく、例えるならヒルデが背中に乗れる程の大きさだった。
「ねぇ、ヴェルちゃん! あれが『バクレツヒキガエル』みたいなんだけど、ヴェルちゃんあれ斬ってくれる?」
【……断る】
「えぇっ、何で!? ザコモンスターじゃないよ! あんなに大きいんだよ?」
【大きさの問題ではない……カエルを斬ったら気持ち悪いではないか……】
「そこ!?」
ヒルデは頭を抱える。
「どうしよう……どうやって倒せばいいの……」
その時、別方向から足音が聞こえた。
「やっと見つけたわよ、魔剣ちゃん」
「え?」
声のした方を見ると、盗賊の様な格好をした女がヒルデの方に歩いて近づいて来ていた。
「だ、だれ?」
「私はレイナ。剣コレクターであり、女盗賊でもある、レイナよ」
「レ、レイナさん?」
「ねぇ、ヒルデちゃん。その魔剣は貴方には勿体無いわ。私に寄越しなさい」
「え? 私のこと知ってるの?」
レイナは無視するかのように徐々にヒルデに近づく。
ヒルデは魔剣を隠すように両手を背中に回して後退りする。
【あの女、我を狙っているのか? 】
背中から『魔剣ヴェルサレス』がヒルデに問い掛ける。
「そうみたい……大丈夫だよ。アタシ渡さないからね」
レイナを睨みつけながら、後退を続けるヒルデ。
それを見ながらレイナは妖しく微笑む。
「ふふ……逃げても無駄よ、ヒルデちゃん。諦めてその魔剣を──
カプッ!
突然、木の上から振ってきた蛇がレイナの首元に噛み付いた。
「痛っ! 何よコイツ」
レイナは蛇の尻尾を掴んで首元から引っこ抜くと、地面に投げ捨てた。
レイナは再びヒルデの元に歩み寄る。
「さぁ、早く寄越しなさい」
そう言った直後、レイナの顔面はたちまち紫色に変色していった。
「ね、ねぇ、大丈夫? その蛇、毒蛇だったんじゃない?」
ヒルデが心配そうに声を掛ける。
「何言ってんの? そんな脅しが私に通用するとでゴボボォ」
レイナは口から泡を吹いてドサッ! とその場に倒れた。
「………………」
しばし、呆然とするヒルデ。
「た、大変! 助けなきゃ!」




