第十話 この店はやめたまえ
「うーん……これはどうかなぁ?」
骨董品屋にて頭を悩ませるヒルデ。
見つめる先には、木の棒の先端に布が巻かれていてパタパタと埃を払う『塵払い棒』が商品として壁に掛かっていた。
「ねぇ、ヴェルちゃん。これは掃除道具だから、武器じゃないってことで良いよね?」
【くっくっくっ……】
『魔剣ヴェルサレス』は不敵に笑う。
「何笑ってるのよ……」
【残念だがヒルデよ。その『塵払い棒』を使って貴様がモンスターを引っ叩いたとしたら、それはもう『武器破壊』の対象となるぞ】
「えっ、なんで? 『お掃除ローラー』は大丈夫だったじゃん! 掃除道具なら良いんじゃないの?」
【甘い! あれから我もよく考えたのだ。掃除道具とは、掃除をする為に使う物である。それでモンスターを叩くという事は、それはもうその時点で立派な武器に該当するという事なのだ】
「げっ……なんかヴェルちゃん、頭柔らかくなってない?」
【ふふふ……残念だったな。我の思考の向上と共に究極魔法『ジャッジメント・ウェポン』も日進月歩で進化を遂げているということだ】
「人参やっほー?」
【日進月歩だ……】
「えー、条件が変わるなんて聞いてないよ……めんどくさいなぁ……」
二人のやり取りを聞いていた骨董品屋の店主がコーヒーを啜りながら笑う。
「ふぉっふぉっふぉ、ヒルデよ。厄介な相棒が出来たもんじゃな」
「ほんとだよマスター! なんか良いアイデアないかなぁ? 武器が使えないから素材集めがすっごい大変なんだよ」
「うーむ、なかなか難儀じゃのう、それなら『コッペ』に一度相談してみたらどうじゃ?」
コッペとは、アルデリタ王国の市場で道具屋を営む女性店主の事である。
「あ、そっか! コッペさんなら色々教えてくれるかも!」
「じゃろう。何か使える道具も売っているかもしれんしな」
「そうだね! ありがとうマスター! ばいばーい!」
そう言うと、ヒルデは嬉しそうに骨董品屋を飛び出した。
──カランカランと言う小気味よい鈴の音と共に、『つちのこ商店』の扉が勢いよく開いた。
「いらっしゃい……あら、ヒルデちゃん!」
「えへへー! コッペさん、こんにちわ!」
コッペは、大きな眼鏡とそばかすが可愛らしい道具屋の看板娘だ。
いつも優しくヒルデに接してくれるので、ヒルデはコッペの事が大好きだった。
「あらぁ! 立派な剣を持ってるじゃない。どうしたのそれ」
「あのね、聞いてよ! この子ったらさぁ……」
道具屋のカウンター横の丸いテーブル席に腰掛けながら、ヒルデは『魔剣ヴェルサレス』の事を愚痴混じりにひたすらコッペに説明する。
終始、微笑みながら話を聞くコッペ。
ヒルデが話し終えると、コッペは人差し指を顎に当て、上を向きながらしばし考え込んだ。
「うーん、それは大変ねぇ。じゃあ……こういうのはどうかしら?」
「なになに?」
「鍛冶屋でひたすらぶっ叩いてもらって、魔剣の根性を叩き直してもらう」
【……は? 】
魔剣は驚愕した。
「なーんて冗談よ。ふふっ」
「あはは! コッペさんおもしろーい!」
【ヒルデよ……この女は危険だ。笑顔の裏に狂気を隠し持っている……】
魔剣は直感した。
この女は苦手なタイプかもしれないと。
「そうねぇ……でも今の条件なら、例え掃除道具だとしても、武器破壊を回避出来る可能性はあると思うわ」
「え? ほんと?」
「ええ。恐らく、その魔剣の武器破壊の対象となる条件はね。『一般的に武器に該当する物』または『物理的に打撃を与えた物』なのよ」
「うん? ほへぇー」
ヒルデは理解していない様だ。
「例えばね、スリングショットは武器破壊の対象だったのよね?」
「ぷりんぐ、しょーと?」
「えーと、パチンコは武器破壊の対象だったのよね?」
「あ、そうそう! パチンコは壊されちゃった!」
「それは『一般的に武器に該当する物』だから駄目だったの。だから、次にヒルデちゃんは掃除道具を使ったわよね?」
「うん、お掃除ローラー!」
「それは武器に該当しないから、武器破壊の対象から免れたって訳。でもね、魔剣さんはそれを見て条件を追加したのよ」
コッペは店の隅に置かれた『塵払い棒』を手に取った。
「例えば、さっきヒルデちゃんが話してくれたこの掃除道具だけど……」
バシィッ!
コッペは店のカウンターに向けて『塵払い棒』を振り下ろした。
「こうして物理的な打撃を与えた時に『武器として認識し直す』という条件を加えたのよ。これは木製で、棒状のものだから……『木剣』辺りに無理矢理カテゴライズするんじゃないかしら」
「ほ、ほぇー……」
ヒルデは口をあんぐりと空けてコッペの話に聞き入っている。
「例えばね、この掃除道具にちょっと一工夫……」
コッペはカウンター席から出ると、商品の中から『フラッシュパウダー』を少量手に取ると、塵払い棒』の先端の布に振り掛けた。
「これを振り回して……」
パァン!
コッペの一振りによって、空中で光の胞子が弾け、剣筋をなぞる様に横一文字に白い煙幕が漂った。
「モンスターの目を眩ませる……とかね。これなら合法、武器破壊の対象にはならないと思うわ」
「す、すごい! コッペさんすごい!」
ヒルデは感動している。
「要は、直接的な攻撃をしなければ良いのよ。こんな攻撃方法だったら、どの武器にもカテゴライズ出来ない、だから壊すことが出来ない。
──でしょ? 魔剣さん」
コッペは丸テーブルに置かれた『魔剣ヴェルサレス』に向けてニッコリと微笑んだ。
【ぐぬぬ……生意気な……】
「あははー! ヴェルちゃん、すっごい悔しそう!」
楽しそうなヒルデをよそに、魔剣は心から思った。
「この女は苦手だ」と。
「だからね、ヒルデちゃんに提案。その魔剣さんでも恐らく壊せなくて、尚且つモンスターに強力なダメージを与える道具を作ったらどうかしら?」
「え? そんなのあるの? なになに?」
コッペはニヤリと笑う。
「爆弾よ」




