第21話 完成したものがこちらになります
それから二週間が経った。私は乾燥させたヨロイビルの凝固線とイチャの実を混合し、アブラタケと合わせて止血薬を完成させた。アブラタケはつぶすとペースト状になる。塗り薬に使える汎用素材なのだ。万が一けがをしたとき、これがあれば失血死のリスクをかなり低減できる。医者に見せたらとっっっても苦い顔をしたのち、使えるものは使うべきですね、自分で実験してみましょう。と言って受け取っていた。現代の医療倫理と一緒に生きてきた彼らには彼らの葛藤があるのだと思う。
この間に、炉は完成して、ケンジーの試行錯誤の末にベアリングも問題なく回るものが完成した。さすがに現代技術の精度には遠く及ばないそうだが、素人の私にはとてもよくできているとしか。フリーダは結局相談の末に木を一本伐採。それをそのまま使って塔を作るつもりでいる。
いよいよ、成果を組み合わせて建設を始める時だ。なんか私だけ違うことしてたけど、皆で頑張ったよね!みたいな顔でフリーダの隣に立っておく。
まずは編み合わせたアメハナクサの縄が内部を通るように木材を接ぐ。なるべく釘を使わない方がいいという設定を私が思い出してしまったので、フリーダは神経をすり減らしながら木組みを頑張っていた。完成した一本の塔――今作っているのは柱と言っていいほど簡素なものだが――には、ケンジーが作り上げた滑車がついていて、ロープがかかっている。その先、頂上には金属製の器とひもで下から動かせる機構が組まれている。これは魔法発動のために重要な構造だ。組み上げた塔を、事前に掘っておいた穴に突き刺し、土で埋めて固定。文章にすると簡単だが、もちろん塔はありえないくらい重い。筋力ポーションを飲んだ人10人がかりでなんとか持ち上げた。これで魔法を発射するための固定砲台が完成。そびえたつ塔は、この公園の守護の要として十分な威容を持っている。建設を成功させた達成感も相まって5割増しでかっこよく見えた。
「かんせー!!」
解放感に満ちた声で、フリーダが叫ぶ。それに合わせて周囲で見ていた人たちから拍手とが巻き起こる。実際に作業していた人の中には疲れ果てて座り込んだ人もいた。
「すこい!ほとんど原作どおりじゃない!?そう見えるよねシアン!」
「うん。完璧。」
「あとはこれがちゃんと機能するかの確認だな。さすがに横倒しの状態で使うわけにいかなかったから一発で決めなければ。」
不安を口にしながら、ケンジーの顔は晴れやかだった。私もそうだ。たとえこれが失敗しても、ここまでの建設を完成させたことに意味がある。
「じゃあさっそく試してみようか!」
フリーダが意気揚々と杖塔に近づいて、その手を触れようとした、その時だった。
「おい!大変だ!奴らやりやがったッ!」
公園の方から走ってきたのはよくフリーダに伝令役を頼まれている男。焦りを前面に出したその顔は、私たち全員を一瞬で不安の底に叩き落すのには十分だった。そしてその不安はもちろん私たちを逃がしてくれない。
「反乱だ。シアン、……じゃなくて、現体制に不満のあるやつらがまとまって暴れ始めやがった。」
わざわざ言い直した彼の気遣いがあまりにも痛い。現体制に不満があるというのは、きっと私に不満がある人たちのことだ。いつしか劇場で面と向かって私を罵倒してきた男の顔が思い出される。よりによって主要戦力がここ、バリケード付近にまとまるときを狙って行動を起こしたのか。
「鎮圧する。状況を詳しく話してくれ。」
一歩前に出たのはジャクリーンだ。その毅然とした態度を頼もしく思う反面、私は言いようのない嫌悪感を覚えた。その出所は一瞬で見つかる。ああ、そうだ。彼女がその気になってしまったのなら、もう武力衝突は避けられない。ジャクリーンは今、紛争の開始を宣言したのだ。
中には女性や子供まで含まれるその集団は、何のためらいもなく人々を拘束してはこちらに進んできている。彼らは全員が筋力ポーションを服用していないと考えられない膂力を持っていた。
ポーションはまだ安全と決まったわけじゃない。最初に作って自分で飲んだ私が言うのもなんだがどんな副作用があるか分かったものじゃない。それゆえ15歳以下の子供や、生活に必要としないものは飲むのを控えるようにと話していたのを覚えている。だけど、ジャクリーンの把握していないところでポーションを製造して服用するのは、そう難しいことではなかったのだろう。そこらへんに転がっている素材を集めて混ぜるだけであんなものがつくれる世界はやはりどこかいかれている。
ジャクリーンは暴動への対処として、杖塔の根元に集まって迎え撃つ構えをとった。今しがた完成したこの杖塔こそが一番の攻撃手段であり、つまり敵に占領されたときの被害が一番でかい。彼らもそれがわかっているはず。公園の中を制圧したなら、こちらに向かってくるはずだ。
その予想は、的中した。道の向こう、公園のゲートから現れたのは、粗末ながら殺傷力のある槍や鉄骨で武装した複数の人影だった。
「お前ら、これがラスボス戦だ!気合い入れていけよ!」
先頭に立つ男が手に持った鉄骨を地面にたたきつけて叫ぶ。それが、開戦の合図だった。
[アブラタケ]
沸点の高い可燃性の油を大量にその身に宿したキノコ。油は軟膏の素材として使うことができる。とある植物の習性を利用して燃えることができ、その時に生じる上昇気流で胞子を飛ばすという不思議な共生関係を持っている。胞子は胞子袋に入っていて、簡単には燃えないようになっている。




