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第19話 単純作業はお嫌いですか

 拠点に帰った私たちは、まずケンジーを手当てしてもらうことにした。公園には周辺の避難者が何人も集まっているため、そういった心得のある人ももちろんいる。ジャクリーンはしっかりと人員を整理して、それぞれ適材適所に配っている。公園の一区画にできた怪我人用のテントに、私たちはケンジーを連れていく。


 テントは壊れた建物の建材や木の枝などを組み合わせて、その上から布をかぶせた簡素なものだが、これだけでも日の光を遮ってくれるので中は涼しい。ケンジーの怪我を見た医者は最初驚いたが、次の瞬間には真剣な顔になって手当てを始めてくれた。こんな時私は役に立たない。本人に「気にするな、報告を済ませてきてくれ」と言われてしまったので、ジャクリーンを探して歩くことにした。


 すれ違った人、何人かに居場所を聞けば、ジャクリーンは劇場にいるらしかった。会合があるわけでもないのにどうしてだろうと思いながら向かうと、彼女がいたのは劇場に併設されていたレストランの厨房だった。崩壊をかろうじて免れたらしいそこには、複数の人間が集まってジャクリーンと会話している。私がどのタイミングで話しかけようかな、と考え始めた時にはフリーダが戻ったよーと言って中に入っていった。


「お帰り。……ケンジーがいないね。何かあった?」


「私をかばって……。」


「うん。怪我しちゃったからいま治療してもらってるところだよ。」


「そうか。怪我の程度は?」


「医者の人も少しあとは残るだろうけど命に別状はないってさ。」


 ジャクリーン少し迷うようなそぶりをしてから私に向き直った。疲れているならあとにしてもらってもいいんだけれどね、という前置きから話を始める。


「ちょうど今、彼らが素材採取から帰ってきたんだ。公園内を探索して、『見たことない動植物』を見たら、危険がない範囲で捕まえてきてもらうようにお願いしてね。」


 そういって半身になったジャクリーンの奥、テーブルの上に所狭しと並べられたのは、どれも見たことのない――ゲームの中でしか見たことのない――素材たちだった。


 思わず身を乗り出すようにしてテーブルに駆け寄る。


「すごい、これだけあればほかのポーションもつくれるようになるかも。」


 イチャの木の実、アブラタケ、こっちはヨロイビルまで?アメハナクサもしっかりと根から採取してある。


「いろいろ試してみたい。」


 私がテーブルから顔をあげると、なぜかあきれ顔になったジャクリーン。素材を集めてくれた人たちまで苦笑いだった。あれ、私はしゃぎすぎた?……沈黙が重い。急に恥ずかしくなってくる。


「もー!そんなしゅんとしなくていいんだって!楽しいならせっかくなんだから楽しむべきだよ!」


 フリーダがテーブルまで来て、一緒に試してみようと誘ってくれる。私はそれに救われているなと思った。


「でも、イチャの実とアメハナクサの根があるなら、ポーションじゃなくてまずあれを造りたくない?」


 私の声に、フリーダが目を輝かせる。


「ほんとだ!これで建設できるじゃん。杖塔の初歩、下級木製杖塔が!」


「うん。本当は回復薬がつくれたらよかったんだけど、ヨロイビルでつくれるのは止血薬だし、ケンジーの怪我は医者に任せるしかない。今は戦力を強化してけが人を出さないようにしないと。」


 会話をじっと聞いていたジャクリーンが、ヨロイビル――血でできた赤い殻をまとったヒル――を手に取る。


「そういえば止血薬なんてのもあったね。それは私がつくってみるよ。レシピはたしか、アブラタケと合わせるんだっけ。」


「はい。あとイチャの実も使うはずです。」


「思い出した。これって高難易度素材だっけ。」


「はい。最初の高難易度ですね。小さなヨロイビルの解体をちゃんとやらないといけなかったはず。」


「まあ、一度やってみるよ。無理そうならまたシアンにお願いするから。」


 結局このヨロイビルの凝固線と呼ばれる素材を解体するのに失敗したジャクリーンは私に依頼しに来ることになるのだが、私たちはいったんそれを任せて杖塔の建設のために候補地を探しに行くことになるのだった。


・ ・ ・


「そういえばさ、威力出すぎじゃなかった?私の魔法。」


 私たちはどうせ固定砲台を造るならバリケードの近くがいいだろうということで、公園の外に向かって歩いている。


「たしかに、普通の初心者の魔法なら、もう少し規模が小さくなる気がする。少なくとも初代エリクシアの魔法なんか、こぶし大の水が出せたら万歳、みたいな。」


「そうそう。そのために塔を建てるんだしさ。」


 そう考えると不自然だ。何なら最初につくった筋力ポーションも、ありえないくらいあっさりと完成してしまった。何か世界に優しくされているような、――そうたとえばチュートリアルをプレイしているような、そんな感覚になる。


「まあでも、考えても仕方ないかー。現実にあんな燃えるネズミがいる時点で常識なんかあってないようなもんだしねー。」


 フリーダは勝手に自己解決して歩いて行ってしまう。私はおいていかれないように足を速めた。


 しばらくして、私たちはバリケードの前にたどり着く。ジャクリーンが伝令に人を出していたので、ここにもファイヤーラットの情報は伝わっているようで、何人か公園の池から水を汲んで運んできている人がいる。


「ハーイ!みんなー!ここに杖塔建てるんだけどどこがいいとか意見あるぅ?」


 フリーダのコミュ力頼もしすぎる。私は黙って隣に立っていよう。


「ジャクリーンには話しとおしてるから、現場で警備してた人の意見聞きたいんだよねー。」


 とはいえそんなに広大なスペースがあるわけでもないので、選択の余地なんかほとんどない。話し合いはすぐにまとまって、建設予定地が決定した。


「じゃあ、場所も決まったことだし始めますかー!」


「うん。杖の芯に使うアメハナクサの根を編む作業だよね。」


 ふたりで、少しだけ黙り込む。というのもアメハナクサの根を杖塔の芯に使うためには、その細い根を糸のように編み込んで、長いロープにする必要があるのだ。私たちは察している。ゲームだからあまり苦労せずに、時間経過で完了していたこの作業は、たぶんとても地味でとても時間がかかる。


 果たしてその予想は的中した。


「ねえ、まだ1メートル分もできてない気がするんだけど、これいつまでかかるんだろう。」


 フリーダの声に元気がない。異常事態である。私は単純作業もそんなに嫌いじゃないので黙々とこなす。


「ねえ、もう飽きたってーねえ!……あ!いっそこの状態で魔法が使えないか試してみるのはどう?」


 そのあとびしょびしょになった縄を乾かすためのいらない作業が生まれたのは、まあ、ご愛敬ということにする。

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