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第16話 大工は魔法使いだし魔法使いは大工

 パーティーの結成後、私たちは公園のベンチで会議をすることになった。今後の方針の共有をしないといけないし、何よりまだ自己紹介もできていない。


「改めて、私は余海あみかっていいます。ゲームではシアンって名乗ってたから、呼びやすかったらそっちで呼んでほしい。」


「初めまして。私はケンジーだ。会合ではああいったが、もちろん中途半端に抜けたりはしないから安心してくれ。いろいろと手探りにはなると思うがね。」


「はい!私フリーダ!よろしくねー。シアンは日本人だったよね。」


「うん。」


「私はドイツ人だよー。ケンジーは?」


「私はイギリス出身だよ。こちらに家族もいる。先の災害では大事なかったから安心してくれ。」


 分かってはいたがやたらグローバルなチームが出来上がってしまったらしい。それにしてもフリーダがドイツ人なのは初めて知った。私が意外そうな顔をしていたのかフリーダは、よくドイツ人っぽくないって言われるけどね、なんて言って笑った。


「それでは、まず方針を決めようか。ジャクリーンに頼まれたのは魔法の検証だったな。」


「うん。ポーションの知識とかゲームの世界になってる現状を広く知らせるのはジャクリーンが別で人を手配するって。私たちには新しい手札の開拓に集中してほしいって言ってた。」


「魔法ってことは!私の出番だよね!」


 ケンジーの言葉にフリーダが名乗りを上げる。魔法、というのはエリクシアシリーズにもあった概念だ。というかエリクシアシリーズの生産職の一つである大工は、ほとんど魔法使いと同じ意味だと思っていい。ゲームを知らない人が聞いたら頭でも打ったのかと疑われそうな話だが、あの世界ではそれが常識なのだ。大工とは建物を建てる生産職で、それは魔法を行使するための巨大な杖――杖塔じょうとうをつくる職人を兼ねている。逆に魔法使いは魔法を使うためにその建物を造る技術が必要なため、たいていの大工は魔法使いだし、魔法使いは大工である。


 ともかく。このパーティにおいて魔法使いは誰ですか、とエリクシアシリーズを知らない人に聞かれたら、私たちはフリーダを指さすことになる。


「でも、いきなり魔法使えって言われても困るよね。確かエリクシアの建築って魔法効果を高めるためのものであって、威力の小さい魔法なら生身でも使えるっていう設定だったよね?」


 フリーダの問いに、私はこくりと頷く。


「だが、魔法を補助する道具ならほかにもあったはずだ。」


「ああ!魔石の耳飾りだ!初心者魔法使い専用アイテム!」


 たしかに、それがあった。ゲーム序盤でだけ特に時間がかかる魔法の発動を速めてくれるちょっとしたアイテム。


「魔石があれば、ちょっとした加工で作れると思うが。」


 ケンジーは軽い彫金程度ならできるらしい。あの耳飾りはショップで購入するのが基本なのでほとんどだれもわざわざ作ったりしないのだが、特別な素材が使われているのは魔石の部分だけだったはず。なら、


「とりあえず魔石の調達から始めてみよう。」


「え、ゴーレムの魔石使えないの??」


「ゴーレムは魔石を砕いて倒してるから、ばらばらになった欠片しか手に入っていないだろう。まず欠片出試してみてもいいが、魔石の用途は他にもある。新しく狩りに行くべきだな。周辺の調査とここにない素材の調達を兼ねて遠征としゃれこもうじゃないか。」


 まだ日は高い。早速このまま周囲の調査と魔石持ちの生き物を探そうということになって、私たちは公園の外へ歩き出した。しばらくすると、凸凹になった道を通行止めするように人の手で築かれたバリケードが見えてくる。


「シアンはあれ初めて見るんじゃない!?」


「そうだな。我々があの防壁を築いている間、シアンは眠っていたはずだ。」


 ……寝ててすみません。みんな頑張ってたのに。


「ごめん、役に立たなくて――」


 そう言いかけた私を遮ってケンジーが言葉をかぶせる。


「君の守った者たちが働いたのだ。君が労働力を生産したようなものなのだから、あとでジャクリーンにその分の費用を請求するといい。」


「えーそれを言うなら私もポーションつくるの協力したし、分け前があってもいいはずじゃない?」


 能天気なやり取りに思わず笑ってしまう。やけに機嫌のよさそうな――いたずらが成功した子供のような顔でこちらをうかがうケンジーと、ニコニコのフリーダをみて、すこし心が軽くなる。ソロゲーをやりこんできた私だが、こういうのもありなのかもしれない。世界が元に戻ったらMMOでも遊んでみようか。そんなことを考えた。


 そのバリケードを見守っている人に挨拶をして、隙間を開けてもらう。そしてその先、ロンドンの街並みの続く方へと抜け出した。この先はかつての大都市ではない。いつ何に襲われるかわからない魔境だ。


 かといって何もわからないわけじゃない。現に外から情報を集めるために、何人かバリケードの中と外を行き来している。彼らの報告によれば、ロンドンには現在いくつかの避難先が設営され、街中にはほとんど人が残っていないのだとか。目の前にある古く偉大な街並みは、しかしその中身を丸ごと失ってがらんどうだった。その代わりに我が物顔で街を闊歩する影がある。ゴーレムだ。


 防衛戦である程度倒したが、全滅させたわけではない。念のためバリケードの近くで見つけたこのゴーレムは倒しておくべきだろう。

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