第七話 打ち上げはサイゼリヤ
六人分の原稿が読み終わった。
Kは満足そうに腕を組んだ。
『いやあ、素晴らしかった』
「そうか?」
『素晴らしかったとも! 実に素晴らしいメンバーだった!』
Kは一人ずつ名前を挙げた。
『文句の斉藤! 哲学の屑木! 百合の大谷! ざまあの榊! 高校生鈴木!』
「待て」
『何だね』
「吉田は?」
全員が吉田を見た。
吉田は少し目を逸らした。
『……吉田君の作品は』
Kが言いにくそうに間を置いた。
『完全なパクリだったので、見せられない』
「やっぱりかよ」
「へへっ」
吉田が照れた。
「照れるな」
「いや、そこまで言われると」
「褒められてないぞ」
『私も途中まではかなり期待したんだがね』
「何書いたんだよ」
『著作権的に説明も避けたい』
「そんなレベルなの?」
吉田は満更でもなさそうだった。
「かなり自信あったんだけどな」
「その自信を失え」
Kは咳払いした。
『さて』
声が少し改まった。
『せっかくだ。一つ聞いてみたい』
「何を?」
『諸君は、どの作品が一番好きだった?』
少し間があった。
最初に屑木が答えた。
「俺は自分の作品だな」
「即答だな」
「最も深い問いを残した」
「リンゴ食って死んだけどな」
大谷も言った。
「俺も自分の作品」
「理由聞くまでもないな」
「百合だから」
「やっぱり」
榊は静かに答えた。
「俺の作品だ」
「まあそうだろうな」
「他は断罪が足りない」
「評価基準がそこなんだ」
鈴木が少し考えた。
「俺も自分のが好きですね」
「お前も?」
「三人にモテるんで」
「一番素直だな」
吉田も手を挙げた。
「俺も自分のです」
「見せられないやつを挙げるな」
「でも面白かったんですよ」
「元がだろ」
最後に全員が俺を見た。
「……俺も自分のかな」
『おお!』
「何だよ」
『君まで!』
「だって一番設定ちゃんとしてたし」
「話始まってなかったじゃないですか」
鈴木が言った。
「それはそれだよ」
『なるほど……』
Kは深く考え込んだ。
『全員、自分の作品か』
「そりゃまあ」
『困ったな』
「何が?」
『私は一番優れた作品を選ぶつもりだった』
「まだ選ぶ気だったの?」
『だが、それぞれが自分の作品を一番好きだと言う』
「普通じゃない?」
『いや……しかし……』
Kは本気で悩んでいるようだった。
俺はふと思った。
「じゃあさ」
『何だね』
「お前も書けよ」
Kが止まった。
『……私が?』
「そう」
『悪役令嬢を?』
「好きなんだろ」
『好きだが……』
Kの声が急に小さくなった。
『そんな……』
「何で照れるんだよ」
『いや、私は読む側だから』
「散々俺に書かせといて?」
『自分で書くとなると話は別というか……』
「それ俺に言ったら駄目だろ」
鈴木が画面を見た。
「照れることないですよ」
『鈴木君……』
「みんな書いたんだし」
屑木も頷く。
「書くことでしか見えない問いもある」
「急に哲学にするな」
大谷が言った。
「ヒロインは二人とも女にしろ」
『それはまだ分からない』
榊が言った。
「裏切った奴には報いを与えろ」
『考えておこう』
吉田が言った。
「参考になる作品、いくつか教えましょうか?」
『君からはいい』
「何で?」
Kはしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑った。
『……そうだな』
そして、少し嬉しそうに言った。
『なら、私も書いてみよう』
その瞬間だった。
「というか」
鈴木が腹を押さえた。
「お腹減らないですか?」
全員が黙った。
「……減ったな」
俺も言われて気づいた。
「何時間ここにいるんだ」
「結構経ってますよ」
「じゃあ飯行くか」
俺は立ち上がった。
『え?』
Kが言った。
「サイゼでいい?」
「いいですね」
鈴木がすぐ答えた。
「俺もいい」
大谷も立つ。
「構わない」
榊も立った。
「食事とは、人間が生を継続するための――」
「屑木も来るんだろ」
「もちろん」
「俺ミラノ風ドリア」
吉田も立った。
「お前さっきから何で一番馴染んでるんだよ」
俺は鉄扉の前に立った。
ノブはない。
少し押してみた。
扉が開いた。
「……開くじゃん」
『えっ』
Kの声がした。
全員が扉を見る。
普通に廊下が続いている。
「最初から開いたんですか?」
鈴木が言った。
「たぶん」
『ちょ、ちょっと待ちたまえ!』
俺たちはそのまま廊下へ出た。
『待て! まだ私の総評が!』
「もういいだろ」
『表彰も考えていたんだぞ!』
「いらない」
『記念撮影も!』
「何の記念だよ」
五人がぞろぞろ歩いていく。
俺は最後にモニターを振り返った。
「K」
『……何だね』
「お前も来いよ」
画面の中のKが黙った。
「どうせ書くんだろ」
『……いいのか?』
「何が」
『私も一緒に行って』
「誘拐したのはまだ許してないけど」
『うっ』
「まあ、飯くらいなら」
Kは少し俯いた。
そして。
『……こんな友達、欲しかったんだ』
「重いよ」
鈴木が廊下の先から顔を出した。
「早くしてくださいよ。混みますよ」
『今行く!』
モニターが消えた。
数秒後。
廊下の奥の扉から、黒い服を着た普通の男が走ってきた。
「あ、お前そこにいたの?」
「近っ」
「顔普通だな」
「ミスターK感ないですね」
「うるさい!」
Kは少し照れながら、俺たちの列に加わった。
「で、何食べる?」
「辛味チキン」
「俺ドリア」
「ワインは?」
「高校生いるからやめとけ」
「百合っぽいメニューはあるか?」
「ない」
「空気椅子で食う奴はいないだろうな」
「榊、もうその話やめろ」
六人だったはずの列は、いつの間にか七人になっていた。
俺たちはそのまま、サイゼリヤへ向かった。




