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3 春との約束

彼女は僕を見つけた瞬間、こっちに向かって歩いてきた。


僕の前に彼女が立った時、クラスはこっちにしか注目していなかった。


「えっと...誰ですか?もしかしてさっきの挨拶を見て何か気に障ることでもありましたか....?」


僕の言葉を聞いて、ちょっと驚いたような顔をして、急に笑いだした。この人大丈夫?


「れいる、変わりましたね笑。」


さっきまでお嬢様の雰囲気をまとっていた彼女は高校生らしい雰囲気になった。でも何か懐かしいものを感じた。


「...はる?」


僕が小さく呟いた瞬間、彼女の顔が瞬く間に笑顔へと変わった。


「...覚えててくれて良かったです。それでは約束通りお付あン゛ッッ!」


僕は今こいつが何を言おうとしたのか一瞬で分かった。だがここでは絶対に言ってはいけない事なのは間違いない。なので慌てて春の口を塞いだ


「待て待て待て!!」

「ン゛ッッ!」


このまま言わせてしまっていたら僕の平穏な高校生活は初日で強制終了だっただろう。


とりあえず手を引っ張って階段の踊り場まで連れていった。

首を傾げてこっちを不思議そうに見る彼女を見て不覚にも心臓がはねてしまった。


「急にどうしたの?れいる。」

「どうしたのじゃなくて!なんで春がここに?」

「...私は中学の時に付き合うということの意味を知りました。中学に入っていじめはなくなりましたがこの容姿ですから色んな人から告白されるようになりました。でもれいるが約束を忘れていないことを信じ続けて、彼氏はれいるじゃないと嫌だという一心で断り続けていました。そんな中、れいるが住んでいると言っていた神奈川に寮ぐらしが出来るこの高校を見つけました。寮に住める枠は少ないですから、私は一生懸命に勉強しました。そしてこの学校で奇跡が起こりました。入学式でれいるの名前が呼ばれました。ステージに立っている顔を見て確信しました。それでいてもたってもいられず、会いに来ました。でもさっき、なんで私の口を塞いだのですか。もしかして既に彼女がいるとかですか...?」


泣きそうな上目遣いでこちらを見てくる彼女は、昔より更に可愛くなっていた。


「彼女はいないから!そういうことじゃなくて、この学校は女子クラスの人と共学の人が付き合うのを禁止されているって聞いたよね??初日から退学になっちゃうて!」

「...そうなんですか!?」

「さっきのホームルームで言われなかったの?」

「さっきはれいるに会えることが嬉しすぎて、なんも聞いてませんでした!」


その笑顔でなんでも許されると思っていそうだ。

ここからどうしたものか。

平穏な学校生活を送りたいが、昔の約束でここまで頑張って来てくれた春の気持ちを無下にするのは絶対に嫌だ。それは変わらない。

俯いて悩んでいると、春が聞いてきた


「れいるは私の事好き?」


上目遣いで、すがるように僕の目を見てくる春。 

その瞳はどこまでも純粋で、7年前と変わらない輝きを放っていた。


…正直に言う。めちゃくちゃ可愛い。

心臓の鼓動がうるさいくらいに跳ね上がっている。

だけど、ここで安易に「好きだよ」なんて言えるわけがなかった。


7年という歳月は長い。僕の知っている春は、山奥で出会った小さな女の子だ。目の前にいるのは誰もが振り返るような美少女に成長し、僕のために猛勉強して田舎から神奈川の高校にまでやってきた、かなり行動力がありすぎる女子高生だ。


僕はふっと息を吐き、話し始めた。

「昔の約束を信じて、ここまで来てくれたのは本当に嬉しいし、感謝してる。…でも、今の僕は春のことをよく知らないし、春だって今の中身が自堕落なゲームオタク、アニメオタクになった僕を見たら、幻滅するかもしれないだろ?」

「そんなこと、、、」

「それに」


僕は言葉を遮り、彼女の制服の胸元にある青いリボンを見た。


「さっきも言った通り、校則で僕たちは付き合えない。付き合ってバレた瞬間に二人とも退学になる。春が必死に勉強してここに来た努力も、全部水の泡になっちゃう。」


春は自分の青いリボンを小さな手で握りしめた。みるみるうちにその大きな瞳に涙が溜まっていく。


「…じゃあ、私はどうすればいいの…? せっかくれいるに会えたのにお話しすることも、隣にいることもできないの…?」


目立ちたくないし平穏に過ごしたい。それは本音だ。だけど、自分を慕って泣いている女の子をそのまま放置できるほど、僕は冷徹な人間ではなかった。


「…方法はあるよ。」

「えっ…?」


春が涙を拭い、顔を上げる。


「この学校のルールで、学年末テスト上位者の女子クラスの生徒は共学クラスに移れる。共学クラスの女子と、共学クラスの男子なら…付き合っても文句は言われない。」


僕は春の目を真っ直ぐに見据えた。


「猶予は1年。次のクラス替えまでにたくさん勉強して、僕のいる共学クラスに上がってくる!…その1年の間に、僕も春のことをもう一度ちゃんと知る。そして春も僕のことを知る。それで、お互いがそれでも好きだったら―」


そこまで言って、少し恥ずかしくなり視線を逸らした。


「……その時は、ちゃんと付き合う。...でどうかな。」


春はポカンと口を開けて僕を見ていたが、やがてその言葉の意味を理解したのか、顔を一気に真っ赤に染めた。

そして、涙の跡が残る顔に笑顔を咲かせた。


「…うん! わかった! 私、絶対に学年トップになって、れいるのクラスに行く!」

「いや、トップじゃなくても入れると思うけど…まあ、気合いが入るならいいか。...僕も手伝うから一緒に頑張ろうな。」


苦笑する僕の耳に、授業開始を告げる無情なチャイムが鳴り響いた。二人で階段を走りながら


「またな、春。 廊下で会っても他人のフリだからな!」

「はーい! またね、れいる!」


大きく手を振りながら春は左へ僕は右へ曲がり教室へと走った。

ガラッとドアを開けて教室に滑り込む。担任の林先生の冷ややかな視線と、クラスメイトたちの「お前、女子クラスの美少女と何してたんだよ」というドロドロとした嫉妬の視線が突き刺さる。


席に戻り、僕は平穏な高校生活を絶対に守ってやると決意した。


こうして、校則に囲まれながらの礼琉と春、二人の変わった「2度目の恋」が始まった。

見てくれてありがとうございます

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