私を連れ出した理由
光りに包まれてしばらく目を瞑っていましたが、目が眩む程の光を感じなくなったので目を開くとそこでは沢山の人が楽しそうに歩いています。
「ここは…?」
生まれてから一度も外に出たことのない私はここが何処だかなんて検討もつきません。
「ここは城下町だな。王宮のそばの歴史ある大都市だ。今ここでは祭りをやってる、だからお出掛けに最適だろ。」
「お祭りですか…」
そういうのはどのようなものかは知っているけれど体験したことはないから楽しみです。
「この祭りは笛吹きだった初代国王が最強の騎士になり王国が設立した記念日を前日と当日と翌日の3日間祝い続けるもんだ。」
説明しながら殿下は近くにいた人から何かを受け取り私の頭に乗せました。
「これは?」
「花冠だ。この祭りは花冠つけてバカ騒ぎするもんなんだよ。だからこれ乗っけとけ。」
そう言って楽しそうな顔で笑いながら私の頭を撫でました。
その笑顔が少し眩しく感じます。
私が今までの人生で誰かの笑顔を見た事があるとすればそれはお父様だけでしたが殿下と会ってからしょっちゅう眩しく感じる笑顔を見ています。
お父様の笑顔を眩しく感じることはなかったのですが。
「殿下は花冠をつけないのですか?」
私が問うと殿下は少し頬を赤らめながらモゴモゴと口ごもっていました。
「いや、こんなでかい男が花冠なんて…似合わないだろ。」
「そんなことないですよ殿下は客観的言いますと美少年という括りに入ると思いますが。」
「とりあえず!こういうのはお前みたいな美人がつけてればいいんだよ!」
顔中真っ赤にして殿下は拗ねてしまいました。
それにしてもストレートの黒い髪に青い瞳が似合い、少しキツめな美人ですが笑うと眩しい顔はまさしく美少年だと思いますが。
でも、殿下もまた私のことを美人だと思ってくださってたんですね。
私はお母様に似ているらしいので美人であることは自覚しております。
今まで使用人から影で、見た目だけは傾国の美女の母親にそっくりのだけどあの化け物じゃ宝の持ち腐れだと言われてきました。
私の容姿を褒める声は皆私を通してお母様を見ています。お父様も恐らくそうでしょう。
でも殿下の言葉は初めての私への言葉に聞こえて少し驚いてしまいました。
「道に出ている屋台、色々見てみたいのですがいきませんか?」
私が手を差し出すと殿下はさっきまで拗ねていたのにすっかり調子を取り戻したようすで私の手を握りました。
「あっちに俺のおすすめの美味えスープがあるんだ!」
「殿下!?」
私の手を握ったまま走っていく殿下の後ろを私も急いでついていきました。
少し走った先では小さな屋台が出ておりそこからはとても良い香りがしていました。
「ここだよ!毎年すげえ美味えスープがあんだ!」
「殿下、こういうのって毒見しなくてもいいんですか?」
「フッ、その必要はねぇよ。対策してるからな!」
殿下はカッコつけた後、意気揚々と屋台へ向かい屋台のおじさんに話しかけます。
「よお!久しぶりだな」
「おお、ほんと毎年これ飲みに来てくれてありがとうな」
「これいくらだ?」
「去年と変わらずの値段だよ」
「相変わらず安すぎるなぁ。こんなに安くて美味いだなんて毒でも入ってねえと説明つかねぇだろ。」
「毒なんざ入っちゃいねぇさ。入ってるのは愛情かな。」
「照れんなら言うんじゃねえやい。」
「うるせぇ!はい、これが注文のお品だよ。今日は別嬪さん連れてデートか…上手くやれよ!」
そうして殿下は両手にスープを持って戻ってきました。
「ほらな!」
「…何がですか?」
自慢気にしていた殿下に意味がわからず言葉を返すと殿下はガーンと衝撃を受けながら私に説明しだしました。
「俺、嘘が見抜けるから会話に毒の話とか混ぜ込むとおじさんが知ってようが知ってなかろうが毒が入ってたら俺が気づくってことだ!」
「そうですか。」
「反応薄っ!まあいいや、スープ冷めるし飲もうぜ。」
殿下は私にスープを差し出してくれたので受け取りそれを口に含むとオニオンとクルトンの食感を感じました。これはオニオンスープですね。
優しいタマネギの甘さと少し感じるスパイスの風味でじんわりと体が温かくなります。
外で飲むからでしょうかいつも公爵家で食べる物とは違った美味しさがありますね。
私がチミチミ飲み進めているとふと殿下がニヤニヤと笑いながらこちらを眺めていることに気が付きました。
「なんでしょうか。」
「美味しいだろ!自分が美味しいって思ったものを人と共有するのはやっぱり嬉しいな。」
そうして楽しそうにしている殿下を見て私は疑問が一つ浮かびました。
「殿下は何故私を外へ連れ出そうと思ったのですか?」
私の疑問をぶつけると殿下は微妙そうな顔で私にひとこと聞きました。
「怒らねぇ?」
「怒らないです」
「そうか…正直に言うと同情だ。初めは不老不死というものへの興味だった。その後何度かルリア嬢への訪問を公爵に断られてるうちに少しお前、というか公爵家について調べたんだ。」
「そうしたらルリア嬢は生まれてから一歩も公爵家から出ていないと話を聞いて、何も知らないしお前がどう思ってるかも分からないけれど可哀想だと思った。外に出ないと決めるのは外を知ってからでもいいと思ってルリア嬢を連れ出した。俺のわがままだ。」
私は可哀想なのでしょうか。考えたこともありませんでした。一般的な令嬢は外に出て友達と遊び、色んな場所へ行って色んなものを見ます。私はそのうちどれくらいできているかと問われたら全くできていないと答えざるおえないでしょう。
でも私は外の世界を知識でしか知らなかったから何も感じることはなかったです。
「殿下は本当に正直ですね。」
「悪い…」
「いえ、はっきり言っていただける方がずっと好印象ですね。」
事実です。影でコソコソ化け物だのなんだの言われるより全然いいです。
「私のことを可哀想だなんて思うんだったら時々今回みたいに私を外に連れ出してください。今までそんなに興味もなかったのに殿下のおかげで外の世界が知りたくなってしまいました。」
私がそう伝えると殿下は少し驚いた顔をした後、笑顔で返事をしました。
「分かった!」
嬉しそうにしている殿下に私は少し尋ねます。
「それにしてもこういう時、人間は普通誤魔化したりするものだと思っていたのですが…何故そんなに正直に話したのですか?」
「それは俺が嘘が苦手だから。ずっと人の嘘を見続けて俺はそれが嫌になって俺自身嘘をつくのが怖くなった。だから気を使って誤魔化すであろう場面でも嘘をつくと、平気で嘘をつくような人間になってしまうようでゾッとして怖くて嘘がつけなかった。悪い…」
「いえ、先ほども言った通り私は殿下が正直に言っていただけて助かりました。理由のわからない好意は裏があると感じてしまいますから。」
「そうか…」
殿下はホッと安心したように息を吐きました。嘘がつくのが怖いとはいえ正直に言って私を傷つけたのではと考えていたのでしょうか。
ですが私は傷ついたりはしませんし、殿下の不安を否定する言葉を出すことでそれに嘘がないことを殿下の能力で知れて殿下も安心したでしょう。
殿下は人が平気で嘘をつく姿を沢山見てきたから少しでも嘘をつくだけで自分ももしかしたら嘘に染まってしまうかもしれないと恐ろしく感じる、言うならば嘘に忌避感を抱いているのでしょう。
「では気を取り直して、もっと祭りを案内してください。」
「分かった。じゃああっちに不思議なものを取りそろえた店が出店してるから行くぞ!」
殿下はまた私に手を差し出し、私はそれを握り二人で走り出しました。




