楽しいお出掛けの準備
私の今まで過ごしてきた時間の中で触れ合う事があったのは、お父様といつも私を怖がり影で化け物だと呼ぶ使用人達しかいませんでした。
社交界でも幼い頃から私が化け物だという噂が流れていたとお父様から聞き、お父様はわざわざ私が外に出なくてもいいようにしてくださいました。だから外に出て人と関わる事もありません。
なのに突然家に取り調べしに来て私のことを化け物扱いせず心配してくれた殿下が来てから少し外の世界を知りたくなりました。
また、と言ってくださったのにここ一ヶ月音沙汰はありません。あれが社交辞令というものだったのでしょうか。
私が外の世界と触れ合うチャンスだったのにと思っていたら、バルコニーの方から変な音が聞こえてきました。
不審に思いましたのでアクセサリーケースからナイフを取り出してゆっくり近づいてみることにいたしました。
するとバルコニーにロープがかかっており、ロープを登る殿下を見つけたのです。
「何をされてるのですか?ここ5階ですよ。」
「ちゃんと…説明するから部屋に上がってからでいいか?」
「あ、はい」
殿下はロープを登り終えバルコニーから私の部屋へと入ってからふう、と一息ついています。
「それでだな、断じて不審者とかではねえ。マジで。」
「それは知ってますが、何故ここに?」
「言っただろ?またなって。」
そうです。言いました、殿下は。だから一ヶ月ずっと待っていました。
「何故、今更?」
私が問うと殿下は微妙そうな面持ちで答えてくださいました。
「実は何度か屋敷を訪ねたんだが公爵に追い返された。だから手紙を渡すよう頼んだんだがいくら待っても返事が来ないから強硬手段に出たんだよ。」
社交辞令ではなかったんですね。
お父様は私のことを心配してくださっているからあまり他の人を近づけて私が傷ついたりするのを恐れたのでしょう。
「あの…訪ねていただいたことですし何をしますか?私は人と関わらない為1人用の遊びのものしかないのですが…」
普通、人は友達と部屋でゲームしたりして遊ぶらしいです。ボードゲームなどはうちにはないのですが1人用のものだけで何とかなりますでしょうか。
私が頭を悩ませておりますと、殿下がにっと笑ってみせました。
「ルリア嬢、デートしねえか?」
デートってよく小説などでみる交際している男女が出かけることですよね。
「私と殿下は付き合っていませんよ?」
「はあ?…ああ、付き合ってなくてもデートって呼んだりもすんだよ。」
「ではデートではないのではないですか」
「名称なんて何でもいいだろうが!とりあえず外に出かけようって話だ。ルリア嬢は病弱でもないんだろう?なら問題ないよな」
「まあそうですが。わかりました、行きましょう。」
そうして私が外に出かけようとすると殿下から止められました。
「ちょっと待て!」
「なんでしょう?」
「突然来た俺が言うのもどうかと思うけどよ…寝間着で外歩くのはアレだろ。」
ということで殿下はバルコニーに出ていただいて、私は出かける準備をすることにしました。
私の部屋には沢山のドレスと沢山のアクセサリーがあります。どれもお父様がくれたり、私に選ばせて買ってくださったものです。
私は外には出ないのでずっと寝間着のままですがようやく着る機会が来たようです。
…ドレスが着れません。
私は一番最初にお父様がくれた白のふんわりとした透け感のあるドレスを選び着ようとしましたが頭が頭が引っかかります。チャック開けるの忘れてました。これどうするべきでしょう頭をブンブン振るというしばらくの格闘の末にドレスが取れました。良かったです。
再挑戦でチャックをちゃんと開けてたらしっかり着れました。
その後私はヘアアクセサリーをつけようとしましたが何故かつけようとすればするほど髪がボサボサになります。最初はサラサラストレートだった髪が今では嵐に見舞われた人になっちゃってます。
私がアワアワとしているとカーテンのかかったバルコニーからノックが聞こえました。
この惨状を伝えるべく私は殿下の元に向かい直接見せると殿下は目を見開き驚きました。
「何がどうしてどうなったらそんな髪の毛実験失敗しましたみたいなことになるんだよ!」
「私も不思議です。」
「とりあえず鏡の前に座れ、俺が整えてやるから。」
そのまま殿下は鏡台の前に私を座らせようとします。
「殿下は髪の毛を整えたりとかできるんですか?」
「まあ妹にいろいろせがまれたからお前よりは出来るな」
「そうですか…ではお願いします。」
そういえば現在の王室には王太子殿下と王女殿下がいるのでした。
椅子に座り髪に手入れが施されるのを待っていますと殿下は私の髪をゆっくり丁寧に梳かし始めました。
「ここらにある髪飾りとかは使っていいのか?」
「はい、問題ありません。」
「そうか」
心地よい髪の手入れの時間が終わったかと思えば、殿下は髪の束を少し手に取り編み始めました。
そっと白いリボンを混ぜて、やはり丁寧に私の腰まで伸びる髪を編み込んでいます。
この時間はどうしたらいいか分からないけれど落ち着かないなんてことはなく、ただ心地よい空気が流れています。私はこの時間に身を任せそっと目を閉じると気づいたときには肩を叩かれていました。
「ルリア嬢、寝てたのかよ。」
「寝てたとは少し違います。目を閉じていただけですよ。」
「そうかよ…ところでどうだ!この出来は!」
殿下が自信満々にしていましたので鏡に目を向けるとそこには銀の長くまっすぐ伸びた髪が編み込まれそこに白のリボンが混ざる素晴らしい出来でした。
「これは…素晴らしいですね。」
「だろう!これで出掛けられるな!」
言動だったり自分でも粗暴と評する殿下の歯を見せ愛嬌たっぷりに微笑む姿は少し見ていて気分のいいものでした。
とりあえず私は出掛けるために外へ向かいます。
「おい、待て待て待て待てぇ!!」
そしてバルコニーから飛び降りようとした瞬間止められました。
「なんですか?」
「なんですかじゃねぇよ!ここ5階だぞ!」
「ここが私の部屋なんですから知ってるに決まってるじゃないですか。」
「いや何平気で飛び降りようとしてんの!」
殿下がブチギレ気味に私に向かって叫んでいます。
「外に出掛けるためには降りなきゃいけないでしょう?」
「だからといってそこから降りるな!そこから登った俺が言うことじゃないけど!!」
「あ、殿下はグロいのが苦手でしたね。」
「うん、そう。覚えててくれてありがとう。じゃねぇよぉ!!やっぱり死ぬ覚悟で飛び降りるつもりだったよな!何してんだよ!」
「じゃあどう出かけるんですか。お父様が心配するから堂々と玄関からも行けないし。」
私が悩んでいると殿下がニヤリと悪そうな顔で笑ってあるものを取り出しました。
「それは?」
「瞬間移動ができるアーティファクトだ。」
「そんな物があるなら何故私の部屋に来る時使わなかったんですか。」
「いや、これ一回その場所に来て座標を記録させないと瞬間移動出来ねぇんだよ。」
「そうなんですか…」
「まあこれは外を記録させてるから外に出ることも容易だし、お前の部屋も記録したから次からこんなことしなくても自由に行き来できる。」
殿下がドヤ顔をしたあとに真面目そうな顔で静かに私に告げました。
「だから、お前は自分を無闇に傷つけるな。」
「何故ですか?私は確固たる理由がない限り出来るか分からない約束はしない主義なのです。」
「そうか。自分を大切にする理由とかは今のお前には理解できなそうだ。だから確固たる理由を言ってやる。俺はグロいのが苦手だ!だからグロいことをするな!」
この人は私がしょっちゅうやっていると影響を受けるほどにはそばにいるつもりなのかと不思議に思いましたが、まあいいかと流すことにしました。
「わかりました、約束です。癖とかはあんまり変えられないかもですが…」
「ああ、約束だからな」
殿下はそう言って笑顔で小指を切りました。
そしてそのあと出掛ける為に私は殿下の手を握り殿下はアーティファクトを起動させます。
「楽しい、楽しいお出掛けの時間だ!」




