とある町の宿にて
「やっと…、ついた…」
出発してから何か所目の町だろうか。国まで地図でいうと、もう半分くらいだろう。
ナナの馬車酔いはずっと続いている。今回は町と町の距離が長かったため、もうフラフラだった。体を支えてないとまっすぐ歩けない。
「また外を見るから…」
「今回は…見てませーん……うぅ……ちょっと見ました」
部屋の前まで連れていき、中まではさすがに入るのはやめている。
「こっちの部屋がナナ」
「私は隣だ」
黙って頷き、
「少し…横に…、なりま…す」
フラフラと中に入った。大丈夫だろうか。今回の酔いは1番酷そうだ。自分の部屋へ入ろうとすると、隣から
ガタガタ……ドスン
と音がして慌ててナナの部屋へ行く。ドアの前で、声をかけるが返事はない。
横になるまでついていればよかった。もっと気遣っていれば…後悔ばかりが、駆け巡る。
「ナナ!」
ドアを開けると、布団をつかんだまま、うつ伏せで床に倒れていた。
すぐに近寄り、仰向けにする。
「〜〜揺れてる〜グルグルする〜」
やはり限界だったようだ。そっと抱え、ベッドに降ろす。
宿の人に、嘔吐用の桶と、食事は胃に優しいスープをお願いする。馬車酔いのことを伝えると、いい飲み物があると用意してくれた。
「気がついた?」
薄っすら目を開け、私を見上げる。まだ顔は青い。
「ル…ディ?…私……」
「ベッド手前で生き倒れてたよ」
ベッドの傍らでナナを見つめていると、あの学園での出来事を思い出す。あの時は見守るだけで何もできず情けなくなった。
「ご迷惑…おかけ……しました」
迷惑でもなんでもない。そうしたいからしているだけ。あの時の事で、自分にできることを見つけれた。
治癒ができないなら、他のことで手伝えばいい。
「ちょっと待ってね」
宿にお願いしたものを取りに行き、部屋に運んだ。
「この匂い…」
「宿の人に馬車酔いのことを話したら、これがいいって。私も飲んだけどスゥっとしておいしかった」
「ミントティですね」
カップを受け取り、ゆっくり飲んだ。
辛そうな顔が和らいだ。
「スッキリしておいしい。ミントって、あるんだぁ」
「あちらこちらに生えてるそうだよ」
何やら考えこんでいるな。
「葉っぱだけでも、もらえないかな。気持ち悪くなったら匂いを嗅ぐとか、できたらいいのに」
「気に入ったのなら、一株持って帰ってはどうだろ?」
「株?」
また考えている。だめだろうか…
「ルディ…、ミントって繁殖力がすごいの。例えば…王城の庭に一株植えただけで、あっという間に庭を埋め尽くすほどに広がるの。そんなことになったらミント王国になっちゃう」
「ミント王国か…ふふ、いいね」
よくないです!と怒る。ミントってそんな植物なのか。
ナナ、元気になって、よかった。
「詳しいんだね」
「あ、ぃや〜…学園のときに…そんな、こと聞いた…かなって」
「もっと教えてほしいけど、スープ食べようか」
元気がないと、あの日のことを思い出してしまう。ナナは元気な方がいい。無表情の顔もよかったけど、コロコロと変わる表情の方がいい。
翌日、宿の人にミントティを作ってもらい、瓶で持っていくことにした。もちろん、ミントの葉も貰った。
「抽出液を作れば、飲み物の他にいろいろ使えるんですよ」
ナナが宿の人に、作り方、使用法、効果を伝えた。たくさんミントが自生しているなら、特産にしたらと提案していた。
「まずは近くの町から広めて、ダイタナ様の商会やルディの国の商会におすすめしてもいいかもしれません」
馬車の中がミントの香りに包まれている。
「このミントで馬車酔いが楽になりそう」
手にしているミントを匂いながら、笑う。
「私にも匂わせて」
少し戸惑いながら、私の方に手を差しだす。その手を握り、手の甲に口づけを落とす。
「本当だ。いい香りだ」
「〜〜!!」
顔を赤らめて、手からミントを落とした。
あの町は、ミントの商品が人気になり、自生のミントだけでは間に合わず、栽培するようになった。商会を通じて、各国にも広まりつつある。
のちに、『ミントの町』と呼ばれるようになった。
次のエピソードで完結します。




