>>>フェルディオ
イザベラ嬢と初めて会ったのは、2年ほど前。第1王子の婚約者として、私の国に挨拶に来た時だった。王太子妃に正式になる前に、各国のことを妃教育ではわからない部分を知りたいと、言っていた。
数日の滞在の間、国を案内し、他の王族とお茶会をし、この国の考え方、今の問題点など話をした。
イザベラ嬢はすぐに理解し、問題点に対して意見を述べた。他には考えつかないような提案だった。
そして帰国のときに、是非自分の国の学園に来てほしいと打診された。他国の意見や考え方を述べてほしいと。
1年後、3学年に留年生として行くことにした。
∷∷∷∷∷
新学期になって、イザベラ嬢もナナも見かけなくなった。時折、イザベラ嬢を遠くで見かけるが、ナナはいない。
その後もイザベラ嬢は見かけることはあっても、その近くにはいない、そんなことが続いた。
冬が近い頃、ほとんどの生徒が帰り、学園が静けさに包まれたときに、うめき声が聞こえた。声の方へ行くと、右肩を押さえ膝をついた、イザベラ嬢?
………いや、あれは…、
「!」
少し離れたところから魔法が放たれた。イザベラ嬢を狙っている?
咄嗟にイザベラ嬢の前に立ち、防護壁で防いだ。魔法を放った人物は逆光ではあったが、見覚えのある人物だった。私が来たことに、驚き、慌てて逃げていく。
イザベラ嬢に駆け寄り、倒れそうになったのを受け止める。肩を押さえた手の間から血が滴っている。イザベラ嬢の全身を纏っている魔力が弱くなっていく。
魔法が消えたイザベラ嬢は……
「ナナ…?」
しかし…髪の色が…
「ごめ…ん……秘密…に、してもらえる……と、助か…る」
「わかった」
「治癒…に……せん…ねん…、す……る…」
気絶したように、眠った。私はナナを抱え誰にも見られないように、移動した。
∷∷∷∷∷
ナナに会ったのは、留学生として学園に来て、イザベラ嬢と挨拶したときだった。クスリとも笑わないので、堅く真面目なのだろうと思っていた。
ナナはいつも魔力を纏っていた。常に魔力を纏う者などいない。私は魔力は見えても、どんな魔法かまではわからない。イザベラ嬢に聞いても『知らない』と教えてはくれなかった。
図書室で魔法を使っていることを言った時は、表情は変わらないが焦りが見えた。堅物っぽく感じていたが、ただ護衛騎士として取り繕っているのだろう。
殿下との手合わせの時も、表情を崩さない。それより剣捌きに驚いた。踊ってるような足の動かし方、素早い動き。殿下に勝つのではないかと思っていたら、殿下に打ち込んだ時に、自分を風魔法で後方に飛ばし、着地に魔法で衝撃を緩和させていた。
いつも何かの魔法を使いながら、別の魔法を使う。多重使用はなかなかできるものでもない。剣の腕もよく魔法が使える。選択の儀式をすると、どちらか一方寄りになる。
だが、イザベラ嬢が言った『平民は選択の儀式の資格がない』。自分の国では考えられない、国の考え方。王族・貴族至上主義。
ナナは一体どんな鍛錬をして剣も魔法も使えるようになったのか。気になった。
合同訓練の時には、意外と表情豊かと言うことに気づいた。落ち込んだとき、呆れたとき、ありがとうと言い照れたとき。真剣な表情、苛立っている表情。気づいたら面白くなっていた。
イザベラ嬢がナナの休みを教えてくれた。中間層地区の鍛冶屋。偶然を装い、ばったり会い、着いていった。身分で差別しない人も、この国にいるのだと初めて知ることができた。剣の打ち合いをすることになったが、ナナの動きについていくのがやっとだった。だから、親方からの申し出を断った。
リリアーナ嬢に絡んだ男達へ、今までにない殺気を感じた。いつだったか、イザベラ嬢から『暴走しそうになったら全力で止めて』と言われた。しかもイザベラの名を出した途端に殺気を放った。その後の尋問も……ほぼ脅しだった。
「前にもここにチンピラを連れてきたことがあってな。そん時に『ケツに熱した鉄の棒ぶっ刺して、奥歯ガタガタ言わずぞ』って。どこであんな言葉知ったんだか…。しばらくアイツに尻向けれなかったなー」と親方が言っていた。
案内してくれた貧困区では、その名に相応しくなく、清潔で綺麗な区域だった。『何もなかった』からここまで整えるのにどれだけ年月がかかったのだろ。
孤児院の子たちは、ナナに幸せになってほしいと願っている。別の子供が『名・無し』という意味だと教えてくれた。
井戸に向き合うナナは悲しげだった。井戸から出てきた時には、泣いた跡があった。誤魔化されたが、気づいてしまった。
悲しいことを乗り越え、厳しい鍛錬をし、貧困区の環境を整え、子供から幸せになってほしいと願われているナナが怪我を負い、ベッドに横たわっている。
こういうときに治癒魔法を使えれたらと、悔やまれる。意識がないなかでも、微弱な魔力で治癒を続けている。時々痛みで、顔が歪む。見守るしかできない自分がもどかしい。少しずつ、傷が塞がってきてはいるが、まだ時間がかかりそうだ。
この国に留学しなければ出会えなかったナナ……私は……
新学期からずっと、ナナはイザベラ嬢に扮していのか。魔法で姿を替えて。見かけていたイザベラ嬢にはいつも魔力を纏っていた。なぜか不思議だった。そういうことだったのか。
………イザベラ嬢に頼んで、治癒を!
と、思ったが意識朦朧のナナに止められた。
「だ、め……今……大事な…時………なの」
いつもイザベラ嬢を優先にし、守るに値する人物なのだろう。未来の王太子妃以外にも別の絆がある気がする。




