>>>>>騎士の休暇
あの騒動の輩は鉱山強制労働、警備兵数人が辺境地へ飛ばされたと聞いた。
イザベラにイベントのことを聞いたが、「偶然」と言われた。
剣ができたと知らせが来たので、取りに来た。前回よりも握りやすく力を込めやすくなった。満足の一品だ。
で、………なぜ、またフェルディオがいるのか……?
「暇なんですか?」
「暇といえば暇だねー」
さわやか笑顔のイケメンなのだが、目の前にいるのは残念イケメンに見える。
「あ、親方から」
自分の剣を受け取ったときに渡された、もう一つの剣。
「『試作だが、腕が上がるまでコレを使え』だそうです。お代は要らないと言ってました」
「いい親方だね」
「でしょ」
信頼する親方が褒められるのはうれしい。口元が緩む。では、これで……とフェルディオと別れようとしたが、やっぱりついてきた。
焼き菓子を買い、紙袋を両手に抱える。
「だいぶ歩きますけど、着いてきますか?」
「ええ、是非」
これから行くところは平民街の住宅地区の端っこ。
「ここは?」
「貧困区です。私が育った場所です」
「とても…貧困とは思えないな」
驚いた顔をするのは無理もない。平民住宅地区とほほ変わらないと言っていいほど。すきま風のない家、小さいが畑もある。樹木も花も植えている。
離れた所にいた子どもたちが気づき、走って近寄ってきた。
「あーナナシ!久しぶり!」
「ナナシ?」
「私の本当の名前」
フェルディオに菓子袋を押し付け、駆け寄ってきた子どもを順番に抱き上げる。
地区を区切る柵の中に入る。
「元気にしてた?」
「その男の人誰?」
「ああ…今護衛しているお嬢様の友達よ。さ、お菓子買ってきたから皆で食べよー」
お菓子と聞いて歓喜する。フェルディオを案内しつつ、他の住人に挨拶し、お菓子を配る。
この地区にも教会があり、その横には孤児院の建物がある。共同生活の中で字の読み書き、簡単な計算の勉強、お金を稼ぐために内職もできるようにした。子どもたちは孤児院でお菓子を食べる。
「…ふぅ……普段の口調になるけど、許してね」
「それは構わない」
「最初はほんとに何もなかったの。家は屋根があればいいって感じだし、草花もない、地面もボコボコ」
昔のことを思い出した。
「みんな生気がなかった。貧困区だからと職も就けないし、食べ物も買えない……ひどかった」
「ナナはどうして貧困区に?」
「今はいないけどシスターが言うには、柵の内側の…あの木の根元にいたんだって。まだ赤ちゃんで捨てられたんだろって」
同情される話だが、何度も話してきたので当たり前になっていた。捨て子もここでは当たり前、ケガして職を失ってたどりつくのも当たり前。
「よりよくする為に色んなことしたの。冒険者稼業もしたし、大変だった〜勿論私1人だけじゃないの。みんなが協力してくれたから」
ここに来ると気が緩むのか、しゃべりすぎる。最初の光景からここまで変えれた。大変だが、達成感もある。
「1番はイザベラが支援をしてくれたことかな」
だからイザベラは恩人でもある。
「でね、フェルディオ様に紹介したい人がいて…」
「えっ!?」
お菓子を配りたどりついたのは、この地区の出入り口近くの家。声をかけると杖をついた大柄の男が出てくる。
「こちら、鬼神のグォーブさん。私の師匠」
「どおも…、って鬼神てなんだ?」
「こちら、隣国から来てる方で、隣国ではグォーブさんのこと鬼神って呼んでるんですって」
強面だが気は優しい。足の怪我で騎士団を辞めて、ここに行きついた。杖をついてるが、それでも強い。地区入り口の近くに住んでいるのは、盗賊や暴力、奴隷にするための人攫いの悪い奴らが来ないように見張るため。門番としてとても助かっている。
「あ?剣を新調したのか…。剣筋見てやる。そっちの坊主とやれ」
ボウズって…王子なんだけど。また、フェルディオを相手に打ち込みをするハメになってしまった。
鍛冶屋の親方はグォーブさんから紹介してもらった。
踏み込みが甘いだの、脇をもっと締めろだの、夕暮れまでやらされた。
「だいぶ、よくなったな。おつかれさん、井戸で汗流してこい…、坊主ちょっとこい」
フェルディオだけ呼ばれ耳打ちされてる。
「アイツを怒らすなよ」
「先日も同じことを言われました。肝に命じます」
何を言ってるのかなんとなく分かった気がした。
この地区の中央に共同井戸がある。生活用水として、みんなで使っている。井戸水をくみ、顔を洗おうとしたが、桶には葉っぱなど入っていた。使わないときは蓋をしているが、開けている時にはどうしても入ってしまうので、塵積で溜まっていく。
「掃除、しないとな」
井戸には苦い思い出がある。思い出しては胸が締めつけられる。
日が沈むから、掃除は明日だな。護衛の仕事は長めに休みをもらっているから、大丈夫だ。
「フェルディオ様、私はここに泊まるから。帰り道がわからないなら、途中まで送るけど…」
「………、さっきの打ち込みで疲れたから、私も泊まる」
え?なんで?いやいやいや!だめでしょ?
「貴族の宿屋よりキレイじゃないし、食事も質素だし、やめたほうがいいって!」
「かまわないよ」
おぅぅーじぃぃー!私がかまう!勘弁してー
「寝る場所がないなら、野外でもいい」
「それはだめー!あっ!平民街に宿あるから、そこに行こっ!」
「やだ」
なんでーー。
フェルディオの笑顔の圧がすごい。もう…あきらめた。だめだ、この王子には勝てない。
「……孤児院の2段ベッドが一つ空いてたと思う」
渋々、孤児院のベッドに案内した。一通り施設内の説明をする。
台所では夕ご飯の支度をしていた。
「手伝うよ」
年上から包丁の使い方、料理の仕方を習う。幼くてもある程度、皮むきや食材を切ることができる。そんな仕組みを私が考えた。教えることも、教わることも経験になる。子どもたちだけでは解決できないことは、周りの大人に頼ることも教えている。
生活費はイザベラの支援と私の給料、平民街からは野菜など提供してもらっている。子どもたちがしている内職は内職した子のお小遣い。
食事ができあがり、大テーブルに並べる。ここで、みんなで食べる決まりにしている。
「これはフェルディオ様の分よ」
「ルディでいいよ」
このこだわりはなんなのか…。ちょっとイラつく。
「る、ルディ…毒見しよっか?」
「こんないい子たちがつくる料理を疑わないよ」
あっそ…。みんなが席に着き、手を合わせる。
「いただきます!」
「?そんな言葉初めて聞いた」
でしょうね。
「この食材をいろんな人から頂いたことに。動食物の命を頂き私たちの糧になってくれたことに。この料理を作ってくれたみんなに。感謝する意味を込めているの」
「なるほど。では、いただきます」
んーんおいしい。長く剣の打ち合いをしたせいもあってくたくただ。食べ終わった食器は自分たちで片付ける。フェルディオも率先して自分の食器を片付けた。
テーブルでくつろいでいるところで、フェルディオに聞きたいことがあった。
「国に帰省しないの?」
「ああ、隣国といっても往復で1カ月はかかるからな。夏季休暇後の授業に間に合わないんだ」
そうなんだ…。
「私もナナに聞きたいことがある。リリアーナは元孤児だと聞いているが、ここにいたのか?」
「いや、いなかった。平民街にも孤児院はあるから、そちらかもしれない」
洗い物をしている子供から呼ばれた。洗った後の食器を片付けているときに、フェルディオは別の子供と、話しているようだ。
「ナナシの恋人?」
「えーそうなの?そうなの?」
「ははは…、違うな」
苦笑いをするフェルディオの顔を子供たちはのぞきこむ。
「恋人になったらいいのに」
「どうして?」
「ナナシは私たちの為に、文字や計算も教えてくれた。この建物も建ててくれた……ナナシに幸せになってほしい」
「自分以外の人の為に、幸せを願えることは素晴らしいことだ」
頭を撫でてあげる。
ナナの築き上げたものが、ここにある。大変だったと言っていた。どんなことがあって『大変』だったのか、想像もできないが、きっと地道なことをしてきたのではないかと思う。いつか、ナナから話してくれるだろうか。
※読んでくれてありがとう。




