宝探しイベント
月曜日だが授業はない。それどころから校舎に向かう必要もない。先週説明された範囲、寮までの鏡界内に複数の宝が設置されているため、それを見つける行事だからだ。私は柊木先輩に頼み、葉月くんと零ちゃんも一緒に鏡界内を探索する。ついでに世界を越える鏡も見つからないだろうか。本気で宝がありそうな場所を探すと他の生徒に遭遇するかもしれない。そんな場所には世界を越える鏡があるはずもないため、人のいなさそうな、先生たちも宝を設置しなさそうな場所を探そう。
Sクラスの談話室で私と柊木先輩は待ち合わせ、零ちゃんの秘密基地へ向かう。あんなに仲が良さそうなのに、なんと柊木先輩は零ちゃんの秘密基地を知らないという。
「今までは誘われなかったんですか?」
「余計なことに首を突っ込みすぎるのも危険を招くという話だ。今回は、仕方ないだろう。」
四人で待ち合わせられる場所は他の生徒も出入りする。葉月くんと零ちゃんが他の生徒の集まる場所での待ち合わせを拒んだため、人の近寄らない零ちゃんの秘密基地を待ち合わせ場所に設定したのだ。そこなら他の生徒に鉢合わせる心配もない。
私は案内してもらったため、その場所を知っている。今度は私が案内できる。舗装されていない道を進み、後ろに誰もついて来ていないことを確認する。有瀬さんが研究所跡に来てしまったように、零ちゃんの秘密基地に誰かが来てしまっては困る。
「零ちゃんの秘密基地を知ったって何も危ないことはありませんよ。そこで待ち合わせようって言い出したのは零ちゃんなんですから。」
「得体の知れない相手の秘密基地だ。適切な距離を保つことも必要だろう。古賀からも説明されたから、多少は協力するけどな。」
古賀さんは柊木先輩にも話を通していたのか。しかし教室に馴染むための力にはなってもらえないだろう。クラスどころか階が異なるのだ。自分たちの力で教室の中の問題は解決する必要がある。
寮に近いここはまだ生徒たちの声が聞こえている。見える範囲に人はいないけど、細心の注意を払うべきだ。みんな、宝を探しているのだろう。しかし、禁域の方向には行かないはず。自分の命が危うくなるのだから。
「ありがとうございます。おかけで今日も葉月くんと一緒に参加できます。他クラスや他学年で同じ寮の知り合いが私には少ないので。」
「そうか。葉月も教室に戻りたいならいいリハビリになるだろう。班として提出はできないが、他寮の人とも一緒に行動するくらいはできるしな。」
途中で会えば赤坂くんや古賀さんとも一緒に探索できるかもしれない。二人が誰と一緒にいるかどうかも重要だ。葉月くんや零ちゃんも一緒に回りたいと思える相手でなければ、一緒には探索できない。
今日は禁域について聞き出せないだろう。行くことを強く止める柊木先輩も一緒にいるため、詳しい話もできないように思える。しかし、葉月くんの目標を達成する手助けができたなら親しくなれて、秘密の話も聞かせてもらいやすくなるはずだ。
「自分に優しくない人たちのいる教室でも戻りたくなるものなんですね。」
「支援してくれている人への後ろめたさもあるんだろう。亡き両親の期待を今でも気にしてるんだろうな。」
「亡き両親?」
以前、家族の話を少ししたことがあるけど、そんなことは一切言っていなかった。親戚も含めて無適性者ばかりとだけだ。あえて両親の話には触れないようにしていたのだろうか。これは興味本位で確かめて良い話ではないのに、思わず聞き返してしまった。他人から聞き出すのも褒められた行動ではない。
私が葉月くんからその事実を聞いていなかったことを反応から柊木先輩も読み取り、ばつが悪そうな表情を浮かべた。他人の秘密を話してしまったような状態だからだろう。
「悪い、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
「そうします。仲良くなったら自分から話してくれるかもしれませんね。」
私も両親の話はできないため、葉月くんにも触れてはいけない話題と思われる可能性はある。家族や親戚の話題の時、私は栄お兄ちゃんのことしか話せていない。入寮日の桃園さんとの会話を葉月くんも聞いていた。その時、私は栄お兄ちゃんを遠縁の人と説明してしまっている。他に身寄りがないと察することは難しくないだろう。
自分の両親が亡くなっていることを話せるほど親しいと思ってもらえても、私に両親の話題を振ってはいけないと判断する材料は揃っている。しかし、禁域について知りたいだけなら、その話は教えてもらえずとも問題ない。
周囲に人の声が聞こえなくなった頃、零ちゃんの秘密基地に到着する。そこでは落ち着かない様子で二人が内緒話をしていた。
「葉月くん、零ちゃん、お待たせ。」
「あっ、羽衣!宝探し行こ!」
飛び出して来た零ちゃんが柊木先輩の手を引いて走ろうとする。秘密基地から這い出す葉月くんを待つ柊木先輩に引き戻されたため、その場で足踏みし始めた。よほど楽しみにしてくれていたのだろう。
零ちゃんのように動きには反映されていないけど、葉月くんもそわそわと最初の探索範囲を提案してくれた。
「海のほう行ってみよう。禁域に近い側はみんな探したがらないんじゃないかな。」
「寮までの範囲にしか宝は置かれてないよ?」
校舎を中心に四つの寮までのほぼ円形の範囲。それが宝の設置される場所だ。海は杜鵑寮を越えた南側のため、設置範囲から外れている。他の生徒たちが恐れる禁域に近い場所もその円形の範囲外であるため、私たちだから調べやすい、なんて場所はないだろう。
「部室棟は普段出入りしない人は入り辛いみたいだからな。」
「部室に設置はされませんでしたよね?」
「廊下や公演室、体育倉庫には設置される。特に公演室は体育倉庫と逆側にあるからな。入ったことがない奴も多いだろう。」
私も入ったことがない。そんなに大きな部屋があったのか。何か公演をしているという話も聞いていない。前を通ったことくらいはあるのだろうか。葉月くんは心当たりがあるようで、嫌そうな表情を浮かべた。
「ギタマンのすぐ横だろ?木葉も行きやすいし、別の所探しましょうよ。」
「ギタマン?」
「ギター・マンドリン部。中等部と変わってないなら木葉もそこに入ってるだろうし、俺たちが行く必要はないよ。」
会いたくないようだ。部活中でないとはいえ、探しに来る人は一定数いるだろう。いきなり大人数に会うようなことは避けてあげたほうが良いかもしれない。そうするとあまり人の来なさそうな場所を探すことになるが、みんなが宝探しのため今日に限って様々な場所を探索している。限られた範囲内で人のいない場所を特定することは難しいだろう。
目的地を決めないまま、ひとまず宝がある可能性のある範囲を目指す。零ちゃんの秘密基地は範囲外だ。
「朱鷺寮のほうなら探索しやすいかな?」
「そうだね。あっちは斜面も多いし、隠されやすいかも。花房さんは木登り得意?」
幼い頃はお姉ちゃんやお兄ちゃん、その友達に支えられつつ登っていた。しかし中学校に上がる頃にはもうしなくなった。そのため、今も登れるかどうかは私にも分からない。服装は動きやすいものにしているため、試してみることは可能だ。
「小さい時は登れたけど、今も登れるかは分かんないよ。頑張ってみるね。」
「斜面の木の上なんて危険な場所に隠しているはずがないだろう。怪我をしないような場所にしているはずだ。」
「朱鷺寮の周りなら危ない人にも会いにくいね!零も朱鷺寮探したい。」
その辺りには部活の施設もない。古賀さんの「朱鷺は他人事」という言葉が正しいなら、遭遇しても零ちゃんが心配するようなことも起きないだろう。目的地を決め、宝の設置範囲限界と思しき辺りを歩いて行く。線も紐もないため、地図と歩いた感覚だけが頼りだ。
地図の中央に校舎、上に朱鷺寮、右に豹寮、下に杜鵑寮、左に狼寮。各寮を繋ぐように大きく歪な円が描かれ、その中にいくつも部活の施設が記されている。ソフトボール練習場や野球練習場、温室、弓道練習場、陸上練習場、テニス練習場など部活関連施設も充実しているようだ。ここに書かれていない部活は授業でも使う運動場や体育館を使用するのだろうか。
「花房さん、何見てるの?」
「屋外の地図。色々あるんだなって。」
ちらりと覗き込まれるけど、すぐに興味を失ったように顔を引っ込めた。鏡界に来て四年目の葉月くんはもう地図など見なくても覚えているのだろう。しかし零ちゃんには馴染みがないのか、下から腕を引っ張られる。見せてあげると弓道練習場を指差した。
「お化けが出るんだよね、ここ。千尋から聞いた。」
「ああ。自分が死んだことにも気付かず、夜な夜な弓を引く幽霊が出る。うっかり近くを通ろうものなら的から大きく外れた矢が……」
「え!?ちょっとやめてください、そういう話は。昼間でも駄目ですから。」
杜鵑寮から最も近い部活の施設が弓道練習場だ。古賀さんの秘密基地から戻って来る時に近くを通る場所でもある。そこを避けるとすれば非常に大回りすることになる。ただの怪談であるため本当に殺されることはないだろうけど、より一人での通過が恐ろしくなる。昔は弓を戦いに使用していた。当たれば無事では済まないだろう。抜けにくいよう加工されていたと聞いたこともある。いや、幽霊が射っているならその矢にも当たらないだろうか。試してみる勇気はない。
一人であの場所の近くを歩けなくなったら柊木先輩に毎回ついて来てもらうことにしよう。柊木先輩が教えたせいなのだから構わないだろう。しかし柊木先輩は訴えかけた私を見て笑っていた。
「ちょっと、なんですか?」
「いや、信じるんだなと思ってな。万が一にも矢が外に出ないような囲いはされてる。そう心配することはないさ。」
ただ脅されただけのようだ。非難の意を込めて睨みつけるが、全く堪えた様子はない。からかっていたのだろうか。そんな行動は零ちゃんのお手本にならないということを盾に取ろう。
「零ちゃんの前でそんな嘘吐いていいんですか?真似しちゃいますよ。」
「これも嘘に入るのか。羽衣は怪談が苦手なんだな。」
「零とは仲良くお話してくれるのにね。」
怪談が苦手なことと零ちゃんと話すことに何の関係があるのだろう。七不思議関係だろうか。しかし、零ちゃんは全く透けておらず、両足もしっかり付いている。幽霊の類ではないはずだ。
「零ちゃんは零ちゃんだからね。それよりお宝探そう?何が入ってるだろうね。」
「きっと綺麗な貝殻だよ!」
宝と書かれた紙かもしれない。点数が書かれているのだろうか。他の物と区別が付くようになっているはずだ。
話している間に朱鷺寮付近に着いた。零ちゃんも一緒にいるため、赤坂くんと探索している時のような油断はできない。自分が行けそうでも零ちゃんが行けそうかどうかを考えてから進まなくては。
「足元に気を付けてね、零ちゃん。」
「零はこう見えて斜面でも砂浜でも走れるから大丈夫だと思うよ。」
「木の上だって任せて!」
「登るなら平地にしとこうな。」
零ちゃんはやる気満々だ。人数分用意されている類の物があれば零ちゃんは恩恵に与れないが、探索自体が楽しいのだろうか。私もご馳走とは聞いているものの、どんなものなのかは知らない。わざわざ暴力沙汰や犯罪行為に関する注意事項が書かれていたほどだ。よほど良いものなのだろう。
「ご馳走ってどんなのなんだろうね。」
「俺も知りたい。一回も勝ってないんだよ。」
杜鵑寮にはこの行事に積極的な人が少ないのだろうか。零ちゃんは長く鏡界にいるそうだが寮には所属していないため、尋ねるには適任ではない。柊木先輩が中等部一年生だった頃はどの寮が勝ったのだろう。
「朱鷺寮の知り合いから聞いただけだが、いつもよりいい肉や野菜が使われているらしい。味が全然違うと。一人一個に制限されるケーキ類もあるそうだ。」
「零、食べれない……」
自分が食べられないことに気付いていなかっただけのようだ。今までは参加していなかったのかもしれない。今日も一緒に行動してはいるが、生徒ではないため提出した紙に零ちゃんの名前は書かなかった。少しくらい分けてあげたほうが良いだろうか。しかし私もケーキは食べたい。
「そんな顔するな。俺の分を食べればいいだろう?」
「いいの?やった!頑張る。」
再びやる気に満ち溢れた零ちゃんが茂みの中をガサガサと探し始めた。せめてどのような形状で置かれているのか分かれば、探しやすくなるのだが。去年まではどんな風に設置されていたのだろうか。
「ああいう所にあるんですか?」
「あることもある。袋や段ボール箱に入っているからな。それごと持って生徒会室に行けばいい。」
手で示してくれた大きさは人の頭くらいだ。三、四人で探索しているなら幾つかまとめて持つことも可能だろう。私もそろそろ気合を入れて探そう。
今夜のご馳走を楽しみに、会話を楽しみながらの捜索が始まった。




