Chapter2の続きから
朝食を終えればお出かけだ。ぽかぽか陽気でお散歩日和。だけど目的地は一つ通りが違うだけの赤坂くんの家のため、風景を眺める時間もさほどない。それは私の気が急いて早足になっているせいもあるだろう。
華麗に整えられた前庭のある家を通り過ぎ、ほとんど駆け足になって犬を飼っている家の前に差し掛かる。先週は視線を感じただけだったのに、今日は吠えられてしまった。威嚇しているようではなく、ただ呼びかけているような鳴き声のため、さほど怖くはない。少し驚いただけだ。
「あら、ごめんなさいね、羽衣ちゃん。お友達と約束かしら。」
「家でゲームして遊ぶんです。可愛いですね、この子。」
ふかふかの毛を撫でさせてもらう。くぅーん、という鳴き声が私を引き留めて来るけど、待たせているのだ。もっと戯れていたい誘惑を振り切って、隣の家を訪ねた。
家に上げてもらって、ゲームの起動を待ちつつ今週の事件を伝えていく。
「研究所跡にね、有瀬さんのお母さんの部屋があったの。あ、あと、鉄格子に入ってたの骨だって天羽くんは言ってたんだけど、本当だと思う?」
「本当だったら怖すぎるだろ。何研究してたんだって話だよ。つか、よく何回もあんなとこ入れるな。」
赤坂くんは研究所跡を調べていないようだ。京極先輩と探索した日の話も始めようとしたけど、すぐオープニングが始まってしまった。最初の親子は前回出会った。今日はどこまで進められるだろう。
前回終了した山の中の村から始まる。次は地図上の赤い点、一度戦った狼型の敵がいるという場所を目指すところからだ。地図のおかけで一週間空いても目的地の場所が分かる。山道を進み、敵を倒し、順調だ。
「いきなりボス戦になるのかな?」
「だいたいは何か仕掛け解くターンがあるよな。」
獣道をさらに奥に行けば、操作キャラクターが勝手に動き、話を始めた。少し広いこの空間に出たことがきっかけなのかもしれない。私の操作していた女性のミロワが都合良く配置されていた岩に腰かけ、その足元に赤坂くんの操作していた男性のアージュが座り込む。壮年の男性のグラスはその二人の前に立つが、幼いラースは大の字になって寝転んでしまった。
「一回休憩しましょう。ラースくんもお疲れのようだわ。」
「それなら昼食にしよう。簡単になら俺も作れる。」
パッと画面が切り替わり、装備品などを確認する画面に似たものになる。左上には料理と表示され、真ん中付近にはサンドイッチの文字とその必要食材と思しき食材の名が二種類ほど書かれていた。パン、キャベツ、と随分簡素な内容だ。サンドイッチの中身がキャベツのみは寂しい。卵やベーコンなど肉気のある物は入っていないのか。
矢印も表示されているが、私の操作は一切効かない。ここは操作の主導権を握る人のみが進められる箇所なのだろう。
どのような操作で料理を作り、その効果が得られるかという説明がされていく。複数の素材を消費して、体力の回復や追加効果を得られるようだ。その簡単な説明が終わると、四人でサンドイッチを食べている。寝転んでいたラースも座ってガツガツと頬張っている。
「美味しそうだね。」
「食べ応えなさそうだけどな、これ。このおっさん、干し肉くらい持ってねえの?」
「新鮮なお肉も持ってるのにね。」
先ほどまで倒していた敵は肉を落としていた。それを使用しないことが不思議だ。狼のような姿の敵だったけど、犬も食べる地域があるのだから狼も食べられるだろう。今所持しているだけで四個は超えているはずだ。それを食べればお腹は膨れるだろう。焼くだけでは臭みが強くて食べられないのだろうか。下処理をする必要があるのかもしれない。
画面には「サンドイッチのレシピを入手しました」と表示されている。これで料理が作れるようになったようだ。
「パンとキャベツ切って挟んだだけだろ。レシピっつうほどのもんじゃねえ。」
「何で切ったんだろうね。包丁持ってたのかな。それとも剣で豪快に切ったのかな。」
私たちの意思で動かせるようになったため、再び地図上の赤い点を目指す。その間も敵は出てくるけど、操作に慣れ、味方も一人増えた私たちでは苦戦もしない。
アージュは剣で大ぶりな攻撃をしている。攻撃範囲は広くないけど、敵に突き刺すような動きを見せ、怯ませている。この動きでパンを切ったと想像すると笑いが零れてしまった。
「どうしたんだ?羽衣。」
「いや、この動きでパン切ったのかなって思って。」
「作ったのはおっさんじゃねえの?」
「でも刃物はアージュしか持ってないよ。」
武器はアージュが剣、ミロワが帯、グラスが銃。ラースは戦わない。帯も銃も切れる物ではないため、剣一択になる。ラースの鞄は包丁を入れるくらいの大きさはあるけど、子どもに刃物なんて持たせるだろうか。
今もラースは敵から遠ざかるように動き回っている。よく躱し続けられるものだ。それとも、攻撃が当たることもあるのだろうか。
「斬るタイプの剣には見えねえけど。ゲームのキャラってだいたいどこにそんなに持ってんだって状況になるから、どこかに包丁くらい隠し持ってんじゃねえの?ほら、何種類もの瓶十二本ずつとかやるし。」
「そうだね。こういうのは現実的に考えるものじゃないか。」
後半になるにつれて装備品を山ほど抱えて旅をしていることになっていくのだ。服を何着も持ち歩くなんて、たくさんスーツケースを下げて歩くことになる。移動速度にも影響しそうだ。それにも関わらず何も持っていなかった初めと同じ速度で移動できるのだから、ここは深く考えないでおこう。
また山道を進めていく。どんどん視界が悪くなり、操作キャラクターが背の高い草の中を歩くと、透けて見える状態になった。敵から攻撃を受けて初めて、そこに敵がいたことに気付く。危険な場所だ。今はまだ倒せているけど、こんな場所を進み続ければ、戦闘不能になってしまいそうだ。
「まだ着かないのかな。」
「もう少し、あっ。」
また開けた空間に出た。大きな狼型の敵が出現した。一時的に操作できない状態になり、画面の中では緊迫した会話が始まる。立ち姿も敵を前にした時の戦闘態勢だ。三人とも武器を構えている。
「こいつだ。ラース、下がってろ。」
「アージュ、前後から攻めましょう。ラースのほうに近づけないで。」
強敵との戦いだ。そう気合を入れたのに、戦闘に関する説明画面のおかげでまだキャラクターを操作できない。通常の技より強力な技を出すことができるようだ。キャラクターの体力などが表示されている近くに、新しく細長い長方形が出現した。他にもどうすれば出すことができるかなどの説明が続く。
「普通に戦ってたら必殺技が出せるようになるんだな。」
今動かせるのは赤坂くん操作のアージュだけのようだ。スティックをいくら動かしてもミロワは反応せず、誰も操作していないグラスとラースも待機中の動きしかしていない。
ピキンという効果音と共にアージュが今までにない動きを見せた。何度も連続で敵を突き刺し、移動してまた突き刺し、という動作をしている。しかし、必殺技という名称に反して、この攻撃を受けた敵は動いている。
「必殺じゃなかったね。」
「普通の敵なら必殺なのかもな。あ、でも、大ダメージっぽい。」
操作説明が終わったようで、通常攻撃をし始めた。私も操作できるようになり、敵の背後に回り込んで叩かせる。敵の上に表示されている敵の体力の減り方を見るに、効果的な攻撃ではあるようだ。
グラスも勝手にパンパンと撃って攻撃してくれている。しかし、三人の攻撃の合間を縫って大きな狼が動き出した。その巨体に似合わない、狼らしい素早い動きで、アージュとミロワを攻撃する。
「結構痛い!」
「ヒットアンドアウェイだな!」
攻撃を回避することを意識して操作する。回避ばかりでも敵の動きを観察すると、尻尾で叩きつける攻撃や噛み付く攻撃、前足を振り下ろす攻撃など数種類しか攻撃の手段を持たないことが分かった。その上、それぞれの攻撃の前には決まった行動を取ることも見て取れる。その行動をしたら距離を取り、その行動が見られるまではこちらから攻撃を加える。
それを繰り返し、表示されている敵の体力を削り切ると、また操作できない状態になった。アージュが狼に吹き飛ばされている。ミロワもそれを見るが、向き直った狼の相手で精いっぱいの様子だ。しかし、ミロワが狼から距離を取ると、狼は再び倒れて動かないアージュに狙いを定めた。
狼の腹部を急に下から突き出した氷が貫いた。驚いた表情のラースが小さなペンダントを握り締めている。氷が消え、狼が倒れた。何かしたのだろうか。
「ラース、あなた鏡術が使えたのね。ありがとう、おかげで助かったわ。」
「僕、なんか分かんないけど、助けなきゃって思ったら出たんだ。」
ここからは戦闘要員が一人増えるのか。そういえば、今まで術を使うキャラクターは出ていなかった。銃も少し遠くから攻撃してくれていたけど、術での攻撃ならさらに離れた場所から攻撃してもらえる。前衛、後衛と出揃ったようだ。今まで以上に戦闘は楽になりそうだが、ここに来るまで通ったような見通しの効かない場所での戦闘の困難さは変わらなさそうだ。
アージュも呻いて立ち上がった。グラスも狼の死体に近寄り、小さなナイフを振り上げた。ぐちゃ、ぐちゃ、と気持ちの良くない音が響くが、画面は寄り添うミロワとラースの姿を映している。次にグラスの姿が映った時、その手には拳大のガラス玉が握られていた。
「こんな物が埋め込まれていた。最近の異常行動の原因はこれだろう。」
「明らかに人為的に組み込まれた物ね。鏡通器にも使われている鏡核だわ。周辺に漂うエアを吸収して、人間にも使いやすいアエルに変換するための物だけれど。ラースの持っているそれもそうよ。でも、生物に入れるなんて聞いたことがないわ。」
用語が四つも出てきた。ミロワにとっては当たり前の言葉のようだが、グラスやラースにとってはそうではない言葉のようで、ラースは首を傾げている。
「簡単に言うと、エアを吸収してエネルギーに変換する装置よ。ラースが使っているのは戦闘用ね。こんな風に利用するなんて許せないわ。」
「村を滅ぼした奴に関係しないならどうでもいい。」
珍しくアージュが口を開いたと思うと、やる気のない言葉だ。グラスのほうも映るが、その傍にあったはずの狼の死体は消えている。年齢制限に引っかかるからだろうか。
すーっとカメラが遠ざかり、「ラースがパーティに加入しました」という文字が表示された後、操作できる状態になる。山間の村レクトに戻ろう、と画面端に出た。いつの間にか入っていた肩の力を抜き、来た道を戻らせる。
「なんか色々出てきたね。」
「魔術っぽいのが鏡術って呼ばれてるみたいだな。何が使えるんだろ。」
術技の確認画面を開き、ラースの項目を確認する。「氷柱」という一種類のみが表示されていた。先ほどのもののみが使えるようだ。
確認画面が閉じられ、敵の攻撃を受ける。すると、ラースの特性についての説明が始まった。要約すると、一定時間動けなくなる詠唱時間というものを必要とするが、任意の場所に、近づかずとも攻撃などを行うことができる、というものだ。
戦闘中、激しく動いているはずなのに、ミロワが話し始めた。操作はできる状態のため、難なく倒していく。
「小さいのにもうそんなに強い鏡術が使えるのね。」
「うん。パパがくれた鏡通器だから。」
「……」
グラスの溜め息のような声が聞こえた。これ以降会話はなく、画面の傍に置かれた赤坂くんの家の時計を気にしながらの操作となる。時計はもうすぐ十二時だ。
「村まで戻んねえと。セーブポイント見かけなかったよな?」
「うん、ちょっと敵躱しつつ行かないと。」
その努力のおかげで、十二時前に村に着いた。しかし、また操作できない状態となってしまう。
村の住民たちがグラスたちに感謝の意を伝えている。一番の脅威が無くなり、村の狩人で身を守れそうだという内容を口々に話す。彼らが離れるのを見送り、グラスが口を開いた。
「ここでの仕事も終わりだな。感謝する。帝都に行くのなら、俺たちも同行して構わないだろうか。」
「ええ、心強いわ。」
画面が真っ暗になり、「Chapter2登り出す思い 完」という文字が表示されると、自由に操作できる状態になる。今後はこの四人で行動するようだ。しばらく人数が減ることはないだろう。また操作できる状態になったため、記録をして、ゲームを終了する。電源まで落とせば、一気に現実に引き戻された。明日からまた家に帰る方法を探さなくては。
「じゃ、栄先輩の家行くか。午後はまた七不思議の探索だな。」
「のんびりお散歩兼ねて探そうよ。」
研究所跡も禁域も気になるけど、世界を越える鏡がどこにあるかは分からない。精神が疲弊しすぎないよう、焦る気持ちを抑えられている時は手当たり次第歩いてみるのも良いだろう。
自宅までの短い道中もお散歩のつもりで楽しみつつ歩いて行った。午後はまたたくさん歩くことになるのだろう。




