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鏡の世界  作者: 現野翔子
第一章:葉月実

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Chapter2 登り出す思い

 日曜日は赤坂くんの家でゲームができる日。楽しみ過ぎて、駆け足で家に上がれば、早速電源を入れてくれるのを待つ。ワクワクする気持ちを高めるオープニングを眺めて、先週終了した街の前から始まった。


「どこへ行くんだっけ。」

「あらすじないかな。」


 所持品確認画面を開き、その中から「あらすじ」の項目を探し出す。所持品や装備品、術技設定、作戦、地図などの文字を通り過ぎると、その文字はあった。開けば前回の話の要約が載っている。

「故郷を燃やされた。母も父も友人もみな逝ってしまった。これからどうすればいいのだろう。とりあえずミロワの言う通り、近くの街へ向かおう。

 領主から帝都への紹介状をもらった。ここから帝都に向かうには、山を一つ越えて、オウメン港で船に乗る必要がある。こんな遠出なんて初めてだ。」

 次の目的地も分かった。赤坂くんが「あらすじ」の画面を閉じカメラを回して、周囲の確認を行う。背の低い草の中に薄茶色の地面が見えているため、その道に沿って歩けば辿り着けるのだろう。一つは最初にいたほうだけど、もう一つは山道に向かっている。


「こっちにオウメン港ってのがあるみたいだな。」

「よし、じゃあ行ってみよう。」


 敵と戦いつつ、坂になっている所を走らせる。平地と同じ速度で走り、同じ動作で戦闘をする。息切れ一つない。ゲームの中の生き物はみなこうだけど、体力が無尽蔵だ。私なら走って移動するだけで疲れ切ってしまうだろう。

 山道に差し掛かり、敵の見た目も少々変わったところで、少し戦闘で手間取ってしまう。先ほどまでと敵の攻撃様式が変わったため、攻撃の予備動作などを判別できなくなってしまったのだ。しかしまだ手強くはないため、攻撃を受けつつも勝ててしまう。


「ごり押しだね。」

「勝てばいいんだよ、勝てば。」


 敵の様子も碌に観察しないまま、強引に倒していく。道から外れるとさらに強い敵が出てきたため、ずっと道なりだ。そうして進んでいくと、ムービーが入った。

 私たちが操作していた時とは違い、ゆっくり歩いている赤坂くんの操作していたアージュと、私の操作していたミロワ。二人ともどこに荷物を持っているのかというような身軽さだ。アージュが剣を腰に下げている程度で、ミロワに至っては武器の帯もどこにあるのか分からない。


「アージュ、何かいるわ。」

「……」


 ガサガサという音が聞こえると、ミロワが走り出す。その後ろ姿を見送るようにカメラは動き、黒い背景に変わった。「Chapter2登り出す思い」という文字が表示され、画面が山の中に戻ると、幼い少年を守るように壮年の男性が銃のような物を構えていた。


「加勢します!」


 走り込んだミロワが大きな狼型の敵と対峙した。遅れてアージュも横に並ぶ。しかし、動かすことはできず、まだミロワが話していく。


「強そうね。鏡技きょうぎを使いましょう!」


 解説画面が入る。通常攻撃とは異なり、一定の攻撃が組み合わされた技のようだ。今まで使っていなかったボタンを押すと発動させられる、少し強い技。

 自由に動かせるようになると、私も赤坂くんも早速それを使用する。キャラクター同士の声が被ってしまったせいで何と言ったのかは分からないけど、ミロワが使った鏡技は帯を強く地面に打ち付けるものだ。しかし、通常攻撃と比べると隙が大きく、狼型の敵から攻撃を受ける。


「痛っ。え、体力一気に持ってかれたよ!?」

「負けイベだったりすんのかな。」


 自分が痛いわけはないのに、狼型の敵に激しく打ち据えられ、思わず声が出る。慎重に距離を取りつつ、一撃攻撃を入れては離れて、を繰り返した。そうやって距離を取っていると、壮年の男性も銃らしき武器で撃っている姿が目に入る。


「オープニングにいた人だね。この後仲間になってくれるのかな。」

「結構すんなりパーティインするんだな。」


 少しずつ敵の体力を削っていくと、半分ほどに減った頃、大きな狼がミロワたちから離れて行った。壮年の男性が膝をつく姿も画面に入っている。そちらに近づけ、話しかけると、会話が始まった。


「子どもを連れて、こんな所で何をしているの。」

「仕事だ。助力、感謝する。良ければ俺たちが世話になっている村で話を聞いてくれないだろうか。」


 唐突な頼みだ。その上、選択肢が出現した。「聞く」「聞かない」の二択だけど、ゲームなら「聞く」を選ぶところだ。現実でも聞くだけなら、と了承するだろうか。

 赤坂くんは何か迷っている。自分の好きにしてくれたら良いけど、私に選ばせてくれるつもりだろうか。


「これ、聞かないって言ったらどうなるんだろう。」

「仲間にならないか、同じことを聞かれるかだろうね。やってみる?」

「パーティメンバーが減るのはちょっと辛そうだな。やめとくか。」


 試すのは二週目以降にお預けだ。「聞く」が選択されると、「グラスがパーティに加入しました。」と表示された。この壮年の男性か幼い少年のどちらかがグラスという名のようだ。

 地図のような物が画面いっぱいに表示される。上におおよそ楕円形の大陸と、下に三日月のような形の大陸だ。下の大陸の上には赤い点と青い点がそれぞれ一つずつ、緑の点が二つ付いている。緑の点の片方が点滅し始めると、それと同時に壮年の男性が話し始めた。


「今いるのがここ、シャンハ山道だ。行きたいのはレクト、ここだな。」


 新たに青い点が追加される。点滅している緑の点のすぐ近くだ。右端には「タウン」「ダンジョン」「フィールド」という項目があり、それぞれが赤坂くんによって選択されると対応する色の点のみが表示された。


「タウンが青、ダンジョンが赤、フィールドが緑っぽいな。」

「じゃあ、この赤い点が最初にいた村で、こっちの青い点がリフレってことだね。」


 これを見れば、レクトという村に向かえそうだ。拡大や縮小はできないようだけど、大雑把でも方向が分かれば辿り着けるだろう。

 地図が閉じられ、移動が可能になる。おおよそレクトの方向に進ませると、壮年の男性と幼い少年も走ってついてきた。一人で操作している時はミロワも同じようにアージュについて行くのだろう。幼い少年は当然背も低く足も短いが、大人三人と同じ速度で走り続けている。


「こいつら、地図も見ずに山越えようとしてたのか。」

「無謀だね。すぐ遭難しちゃうよ。」


 先ほど見た時はまだ地図の文字が灰色になっていたため、これでようやく使えるようになったのだろう。そう考えると地図を持っていたのは壮年の男性で、アージュとミロワは地図もなく移動していたと想像できる。家から地図を持ち出せるような状況ではなかったからだろうが、街で調達できなかったのか。

 獣道を進めば、先ほどまでの山道で出現する敵より少々手強い。しかし、壮年の男性が後ろから射撃を行ってくれるため、二人の時よりも攻撃を受けずに済んでいる。戦っている間、幼い少年は壮年の男性の傍で小さくなっているだけのため、非戦闘要員なのだろう。

 木々の隙間から小さな集落が覗いた。低い柵の内側に入れば、「山間の村レクト」と装飾された文字が表示される。その表示中、村の中をカメラが自動で移動した。数件の小さな家に小さな畑、数人の男女と子どもが映る。


「探索だね!」

「何かゲットできんのかな。」


 一つ一つ家を回っていくが、食事を作っていると思しき人がいる家といない家があるだけで、特に何も入手することはない。しかし、誰もいない家の一つに入ると画面の中のキャラクターたちは椅子に座って話を始めた。


「俺はグラス、こっちは息子のラースだ。」

「ミロワよ。彼はアージュ。どうしてあんな魔物と戦っていたのかしら。」

「傭兵をしていて、この村の護衛を請け負ったんだ。あれが村に近づこうとしていたため、迎撃していた。いつもある程度怪我をすると去って行くんだが、何度も来るから埒が明かなくてな。」


 地図の画面が開かれ、レクトのすぐ近くに赤い点が追加された。


「この辺りに魔物の巣がある。だが、ラースを連れて向かうのは危険すぎる。」

「僕はお留守番なんてしないからね!パパと一緒に行くんだ!」


 床に足の付いていないラースが机にバンと手を突き、主張している。これは四人で戦いに行く流れだろう。守りながら戦うことになるのだろうか。


「村の人たちも困っているのよね。アージュ、放っておけないわ、一緒に行きましょう。帝都に行くのはその後でも構わないわ。」

「……」


 机に肘をついて、聞いているのかいないのか分からない態度のアージュ。しかし、行くことに決まったのか、キャラクターたちは立ち上がった。

 自由に動かせる状態になっても、少しだけ会話は続く。


「ここは俺たちが借りている家なんだ。疲れたら休むといい。」


 寝台の数が明らかに足りないけど、誰かが床で寝るのだろうか。それでも体力は回復するであろうため、積極的に活用しよう。このまま先ほどの狼型の敵と戦うのは辛そうだ。


「赤坂くん、一回休んどこう。何かあるかもしれないし。」

「イベントとか?必須ではなさそうだけどな。」


 寝台を調べると画面が暗転する。再び明るくなると、それぞれの寝台にミロワとグラスが座っていた。グラスの膝の上にはラースが乗っている。アージュは床だ。全員真剣な表情で見合っている。


「連携を考えよう。俺は銃で遠・中距離からの攻撃するのが基本だ。気付かれないよう射殺を試みたことはあるが、あの魔物は皮が厚いようでな。かなり近づかないと貫通させられない。」

「気付かれた状態での戦闘になるということね。私は帯で近距離が得意よ。アージュも剣で近距離のみね。」


 戦っている感覚ではアージュが最も敵の体力を削れていた。グラスはいつ攻撃していたか分からないためはっきりしないけど、ミロワよりは攻撃力が高いのだろう。剣と帯という部分を考えても納得の差だ。


「周辺には配下か子どもと思しき魔物もいる。それらは先ほどの魔物より弱いが、油断できる相手ではない。」

「配下を一層して、その一体に集中できる環境を整えたほうが良さそうね。一層している間も誰かが気を引いている必要があるわ。」


 これは戦闘の助言だろうか。一度その敵と戦い、苦戦した人がここで戦いの練習をしている間に傷つき、この家を利用するということが想定されていたのかもしれない。

 ここで配下と呼ばれている敵がどんなものなのか気になる。小さいものならミロワによる小範囲の攻撃を利用すれば倒しやすいだろう。しかし、気を引く必要があるなら、多少戦いごたえのある相手の可能性が高そうだ。


「それならばアージュ君が――」


 声が徐々に小さくなり、同時に画面も徐々に暗くなる。字幕も途中で途切れているため、会話の内容を最後まで聞くことはできないようだ。完全に画面が暗くなったところで、前回宿に泊まった時と同じ、短い音楽が流れた。


「休んだ時の音楽はこれなんだな。」

「そうみたいだね。今の話はボス戦のヒントかな。」

「かもな。切りもいいし、今日はこの辺でやめとくか。」


 時計も十二時少し前を指している。このまま進めば一時までに終われないかもしれない。遅くともその時間には昼食を取りたいため、先を知りたい気持ちは来週に持ち越しだ。


「セーブポイントあったっけ。」

「村の奥のほうにあったよね。」


 家から出しカメラを回すと、山の静かな村には不釣り合いな大きな鏡が置かれていた。先ほどの探索中に調べたため、もう黒い光は消えている。それを調べ、次回はここから始められるようにした。


「よし、セーブ完了。今日の昼飯なんだろうな。」

「何が残ってるかによるよ。赤坂くんも来ることを計算に入れて、食材買ってくれてるんだって。」


 帰り支度をしつつ、昼食に思いを馳せる。昨晩の夕食はエビフライとカキフライだった。今朝はその残りでサンドイッチを作ってくれて、それで使い切ったはずだ。残っている他の食材は何だろう。他には何を買っていただろうか。


「へえ、意外だな。いつ来んなって言われるかと思ってた。」

「昨日の晩ご飯がエビフライだったの、赤坂くんも好きだからって言ってたよ。帰ってからね、今週は大変だったのに私にはついててあげられたけど赤坂くんのことは一人にしちゃったからって言ってたの。」


 埋め合わせのようなつもりだったのだろうか。行方不明から見つけてくれた後は一緒にいてくれて、昨日もなるべく傍にいてくれようとしていた。それが赤坂くんにはできなかったから、代わりに好物を夕食に用意したのだろう。


「ふーん。煮物系も好きだけどな、栄先輩が作るやつは。ばあちゃんの味に似てるんだ。」

「同じレシピなのかな。赤坂くんのおばあちゃんと栄お兄ちゃんって知り合いなの?」


 友達や先輩の両親程度なら会ったことがあっても、祖父母にはなかなか会わない。料理を教えてもらう関係性になることもあるのだろうか。たまたま味が似ている可能性もある。私のお母さんと栄お兄ちゃんに接点はないはずだけど、味は似ているから。


「んー、あんまり言うと栄先輩が嫌がるから。そうだ、羽衣は何の料理が好きなんだ?」

「私はね――」


 家に帰りつつ、好きな料理や食材の話を続けた。


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