表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡の世界  作者: 現野翔子
第一章:葉月実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/277

部活紹介

 たくさん、本当にたくさん、午後も話して、鏡界に戻った。少し気を充実させて、また新しい一週間の始まりだ。今日なら桃園さんの言葉だって苦なく聞き流せる。


「――でね、拓海たくみくんったら、私一人応援した程度で結果は変わりません、とか言うんだよ?こんなに可愛い女の子が応援するんだから、やる気が出ていつもより勉強が捗りそうくらい言ってくれてもいいのに!」

「まあ、そういうこと言う性格じゃないよね。」


 木葉くんも知っている相手のようだ。私も聞き覚えがある気がするけど、思い出せない。クラスの子だろうか、杜鵑寮の人だろうか。

 思い出そうとしている間に、教室に辿り着く。


「おはよう!拓海くん。何読んでるの?」

「『鏡の力』という本だ。鏡操の力を鍛える上で、非常に役立つよ。馬鹿な君たちには理解が難しいかもしれないね。」


 同じクラスの、それも私の前の席の人だったか。


「ああ、失礼。そちらのお嬢さんは馬鹿ではないかもしれない。もっとも、迂闊な発言をするくらい頭より先に口が動くようではあるが。」

「羽衣ちゃんは馬鹿でも可愛いよ!それに、拓海くんは馬鹿馬鹿言いながらきちんと教えてくれるから大丈夫。口癖みたいなものだと思ってれば気にもならないよ。勉強も丁寧に教えてくれるんだよ。テスト前なんかは頼りになるね。」


 学校の試験なんて授業を受けていれば解ける問題ばかりだ。同じ授業を受けているクラスメイトから教わることなどそう多くない。一緒に勉強をすることで互いに得るものはあるけど、頼りにするというほどではないだろう。

 桃園さんは馬鹿でも可愛いと慰めているつもりだろうか。相手の発言で私が傷つかないように配慮してくれているとも受け取れるけど、あまり素直に受け取れない言葉だ。返事を濁してすぐ後ろの自席に行こうとすれば、別の女子生徒に引き留められた。


「おはよう、お三方。杜鵑寮は仲がよろしくて結構ね。」

「そんなことないと思うけど。」


 私のことを気にかけてくれているけど、まだそれほど仲良くはない。今も話しているのは私と桃園さんで、木葉くんはさっさと自席に向かっている。葉月くんもここにはいない。私も桃園さんの話の大半を聞き流しており、積極的に話そうとは思わないため、仲が良さそうには見えないだろう。

 それより、この女子生徒の名前は何だったか。高校になればもう名札を付けることもないため、話している自然な目線の高さでは名前が確認できない。上履きには名前が書かれているはずだけど、目線が明らかに下がってしまう。


「女子のほうは文殊、本名は有瀬智慧。男子のほうは塩湖、本名は水島(みずしま)拓海。」

「えっ、古賀さん?」

「天女が困ってたから。」


 わざわざ教えに来てくれたようだ。本人には聞きづらいけど、目の前で言えば同じことのような気がする。あとでこっそり、という手段は封じられてしまった。


「古賀さんは素敵な呼び名を付けてくれるのよ。花房羽衣さん、既に一人でもクラスメイトの名前が覚えられているなら大したものだわ。」


 一人くらいは一度聞けば覚えられるだろう。馬鹿にされているのだろうか。それとも、覚えていなくとも仕方ないと擁護してくれているのだろうか。


「ああ、本当に失礼な呼び名を考えてくれたよ。なぜ僕が塩湖なんだい?」

「器が小さいから。海じゃなくて湖。大丈夫、淡水には変わってないから生きられる。」


 魚などなら問題だけど、水島くんは名前に海が入っているだけで、海の生き物ではない。何が大丈夫なのか。規模が小さくなっていることを問題としているのではないだろうか。


「静ちゃんはよく難しいことを言うよねー。文殊もなんでって聞いたら、智慧だから、とか、一人で三人分だから、とか言ってくれたんだけど、私には理解できなかったよ。私の果樹園は可愛いから嬉しいよ!」

「貴女はいつも楽しそうね。何もなくても上機嫌だわ。」

「それが梨々花ちゃんのいいところ!智慧ちゃんももっと笑ってよ?そのほうが絶対可愛いから。羽衣ちゃんも智慧ちゃんも私みたいにニコニコしてないんだもん。二人とも可愛いのに勿体ない!あ、でも、智慧ちゃんはどっちかって言うと美人系かも。」


 物は言い様だ。私には少し辛い上機嫌続きだけど、ずっと不機嫌でいられるよりは傍にいても辛くないかもしれない。できれば、もっと落ち着いて話してほしい。


「有瀬さん、杜鵑と話すのは疲れるだろう?何せ、言葉が通じないのだからな。」

「いいえ、私たちが合わせるべきなのよ。私たちにはそれができるのだから。」

「彼らにはできないようだが。おっとこれまた失礼、花房さんに関してはまだ分からないね。他の杜鵑と一緒にしては失礼だ。」


 言葉は通じているだろう。それか、桃園さんは行間を読めていないのだろうか。彼らも寮ごとで何か特色があると思っているような発言ではあると分かるけれど、私にもそれ以上のことは分からない。

 予鈴と同時に男子生徒が一人、教室に入って来た。それと同時に天羽くんも扉の上の窓に乗る。今日は飛び降りる瞬間が見られるだろうか。


「今日の一限は部活紹介だね!羽衣ちゃんは何部に入ろうと思ってるの?私はもちろん吹奏楽部!中学の時も入ってたしね。ファンファーレの花形、トランペットだよ!たった三つのピストンであらゆる音程を操っちゃうんだから。」

「そうなんだ。私は、うーん、考え中。七不思議について調べたいから、それの邪魔にならない程度に軽く活動できるものって考えてるんだけど。」


 週三日以内なら問題ないだろうと栄お兄ちゃんには言ってもらえている。情報が集まりそうな部活と考えても良いけど、純粋に部活動を楽しみたい気持ちもある。部活紹介を見てから決めよう。

 ガラリと教室の扉が開けられた。開ききると、天羽くんがその前に飛び降りる。ドスンと着地し、満面の笑みで先生に抱き着いた。


「おはよう!今日は一人で来たんだよ!」

「ああ、えらいな。扉の上に登らなかったらもっとえらいよ。」

「それは無理〜!だって楽しいもん。」


 人懐っこい子なのだろうか。それとも高等部の先生とも中等部で接点を得られたのだろうか。今日も明るい水色のシャツが見えているけど、そのことには言及されていない。装飾品の類は着けていないため、見逃されているのかもしれない。


「羽衣ちゃんは瑞希くんのことが気になるの?毎日元気なんだよ。いつもあのテンションで、千尋先輩にもあんな感じで、もっと激しく抱き着いたりしてるの。何にも気にしてなさそうなのに、髪のキューティクルも可愛いも維持する天才だよ!」

「つまり天使。」


 古賀さんの一言はやはりよく分からないけど、あんな天使がいたら問題しか起きなさそうだ。このクラスの中では癒しの存在なのだろうか。規則を守らせたい側からすれば胃痛の種になりそうだけど、生徒同士では関係ないため、そういう扱いなのかもしれない。


「単なる知識では得られない情報を教えてもらえて良かったわね、花房さん。」

「ああ、重要な情報以外が豊富になったよ。あれでいて特級適性者かつ、鏡操の成績では最優秀だ。」

「五教科を除けば全体的に成績も優秀ね。さすが朱鷺一の天才といったところかしら。」


 それは成績が悪いと言われる部類のものではないだろうか。有瀬さんと水島くんの発言には注意して聞く必要があるかもしれない。

 天羽くんが大谷先生に絡んでいるのを眺めているうちにもう五分経ってしまったのか、本鈴が鳴った。


「みんな、体育館に行くぞー。」

「はーい!」


 一番近くにいる天羽くんが一番元気よく手まで挙げて返事をする。先ほどまで抱き着いていた距離なのだから、そんなことせずとも聞いていることは伝わるだろう。

 並んで行くような面倒なことはしないようだ。それぞれ好き勝手に体育館に向かっている。廊下に他のクラスの生徒が出ていることもなく、隣の教室からの騒めきも聞こえない。本鈴が鳴った時点で体育館に揃っていなければならなかったのではないか。


「天女、心配事がありそう。」

「え?ああ、うん。なんで他のクラスはいないのかなって。」

「先に行ってるから。去年までは予鈴で担任が迎えに来た。たぶん、今日は先生が間違えた。」


 そんなことあるのか。いや、分かっているなら先生が来た時点で提案してあげても良いと思う。古賀さんも私たちと雑談に興じていた。

 体育館には既に一年生が並んで座り、待機している。舞台に近い側が空いているのは、そこで先輩方が紹介などを行ってくれるためだろう。




 おおよそ何曜日に活動か、どんな練習をするかという面白くない説明と、是非来てねというやはり何の面白みもない紹介が大半であった。本当に人を寄せる気があるのだろうか。それとも、その部活に興味のある人だけが来るように、あえてああいった紹介にしているのだろうか。

 中高一貫でも部活紹介を行うのか、という疑問もある。中学と同じではないのか。


「ねえ、古賀さん。中等部と高等部で何か違った?」

「活動日、活動時間が長くなってた。練習の仕方もたぶん変わってるところはあると思う。中学までは体の成長を妨げないことも大事だから。」


 歩きながらの質問にも、丁寧に答えてくれる。中等部とは違うということを知らせるための紹介だったのかもしれない。印象的な紹介になっていたのはごく一部だ。弓を射って見せた弓道部と、短い劇をしつつ説明を行った演劇部だ。どちらにも入る気はないけど、私の想像していた部活紹介を行っていた。

 今日と明日の放課後、部活見学を行うという。明後日から一週間は仮入部の期間で、随時本入部届を提出することになっている。私も何か部活をしたい。調査の妨げとならない程度で部活の知り合いも増えることは、情報の入手にも繋がることだろう。


「天女は部活紹介、集中して聞いてた。どれかには興味ありそう。」

「うん、何かに入りたいなとは思ってるんだ。」

「演劇部がお勧め。面白い先輩がいる。放課後一緒に行こう。きっと歓迎の用意が整ってる。」


 急に積極的だ。古賀さんは興味があるのだろうと推測していると、教室に着いた。


「静ちゃんずるいよね。聞かれたのをいいことに自分の部活をお勧めするなんて!それなら梨々花ちゃんは吹奏楽部をお勧めするよ!みんなで楽しく一つの曲を作り上げる!大半が中等部からやってる子だけど、高等部から始める子もゼロではないから大丈夫。各パートの先輩も同級生も丁寧に教えてくれるはずだよ。」


 桃園さんは吹奏楽部を全力で推しているけど、説明では毎日部活があると言っていた。休みは日曜日だけ。調査に差し支えそうだ。


「ごめんね、自分の時間を確保したいから。週に三日以内で考えてるの。」

「かなり限られる。演劇部も平日は毎日あるから。三日以内でも大丈夫なのは、書道、美術、華道、茶道、写真、将棋、園芸くらい。あとは部活じゃないから紹介はされなかったけど、調理同好会とか英会話同好会とか。」


 料理は家で栄お兄ちゃんに教えてもらえるから、部活でしたいとは思わない。食事よりお菓子中心になりそうな予感もする。英語も好きではない。

 華道はお母さんがやっていたと聞いていたため、他より興味がある。茶道には触れてこなかったけど、一度覗いてみるくらいなら良いかもしれない。将棋もお父さんに相手をしてもらって、楽しかった記憶がある。園芸は花や野菜を育てるのだろうか。土いじりは嫌いではない。

 他はさほど心が惹かれない。写真もお父さんとお姉ちゃんがよく撮っていたけど、私は教えてもらっても自分で撮りたいと感じたことはない。


「興味があるところは全部回れば良い。時間はある。私にも、天女にも。」

「梨々花ちゃんにも時間はあるよー。だけど、将棋部とか写真部の見学にも行くなら私は退散!怖〜い先輩たちがいるからね。梨々花ちゃんには厳しい先輩がたくさんいるのです!なんでだろうね?」


 静かにしてほしい時も賑やかなのだろう。桃園さんは自分で自分の興味の所に行けば良い。私も一人で色々回ってみよう。

 チャイムを合図に、ほとんどの子が席に着く。天羽くんは扉横に屈んで待機した。先生にぶつかりに行くように抱き着き、また驚かせている。


「元気が有り余ってるところ悪いが、この後はひたすら身体測定や視力、聴力などの検査だ。頼むから検査する教室の近くでは大人しくしててくれ。」


 どの教室でどの検査を行うかが黒板に書かれていく。もう身長も伸びていないため、楽しみにする部分のない時間の始まりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ