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祟り神と俺  作者: 神たん
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【第一部】18話


「奥さん。息子さんの事ですが・・・水子の霊が取り憑いております。分かる範囲で宜しいのですが、息子さんは以前女性を妊娠させた事はありますか?」


「え?そんな話聞いた事ないですわ!何かの間違いでは・・」


「いいえ。息子さんには3体の水子が取り憑いています。それに多分その水子の母親の霊も見えます。霊を慰める上で、どのようにしてこうなったか真実が知りたいのです。」


奥様は何かを思い出そうと考えているが「わからない」と言うだけだった。


「奥さん。とりあえず、やるだけの事はやってみますが、息子さんが助かるかは保証できません。」


「御願い・・・息子を助けて・・・大事な1人息子なの・・・・」


熊さんは大きな鞄から


蝋燭、数珠、日本酒、日本酒を注ぐのであろう器、塩、お札、そして最後に布にくるまった何かを取り出す。


俺はその布にくるまった何かを見た時、実家にあるオキツネ様の銅像を思い出した。


熊さんはその布を広げて床に敷く。


その布の中から出てきたのは、白い牙のようなモノだった。


布の上に火の点いた蝋燭、日本酒を注いだ器、その目の前に白い牙のようなモノを置いた。


そして息子さんに塩を一つまみ振り掛けて胸の辺りにお札を貼り付ける。


塩が掛かった瞬間息子さんの表情が一瞬苦悶の表情になった気がした。


「よし。これで霊は息子さんから離れられなくなったので、除霊中に我々に危害が及ぶ事はないでしょう。では、始めますので奥さんは別室でお待ちになっていて下さい。」


「え?なぜですか?」


「これから息子さんが苦しんだり、叫んだりするかもしれないので、それを見て奥さんが万が一取り乱したりすると、こちらも危なくなりますのでどうぞ別室でお待ち下さい。」


熊さんにそう言われ渋々奥様は2階へと登っていった。


「翔。うちの神様が何か知ってるんだっけか?」


「いえ。ただ境内の所々に犬の置物があったのでそっち系かと・・」


「そうだ。うちは代々犬神様を祭る神社だからの。まぁ犬というか実際は狼じゃけれど。じゃぁ早速始めるぞ。」


熊さんは先程の布の上に蝋燭や酒の器を置いて作った簡易的な祭壇の前に正座しお経を読み上げ始めた。


俺も熊さんの後ろに正座し、目を瞑り精神を落ち着かせる。


すると、瞼の裏に光が差し込んできたのでゆっくり目を開けた。


目の前にはお経を読み上げる熊さんと、祭壇の横に黒い大きな狼が佇んでいる。


狼の口には鋭い牙が見え隠れし、凛々しくも見える。


すると熊さんのお経が終わった。


「犬神様。お呼び出し致して申し訳ない。」


犬神様は日本酒をペロペロ飲んでいる。


その後脳内に直接語り掛けてきた。


「こやつはもう無理じゃな。水子共の悲しみはもう癒えんじゃろう。それに母親の恨みも強いのぅ」


「どうにかする方法はございませんか?」


「母親がこの者を許し成仏すれば自ずと子供達も連れて行ってくれるじゃろうが・・難しいのう。」


犬神様は外見の凜々しさから想像出来ない程お腹を出しながらゴロゴロしている。


「む?その若いのは誰ぞ?」


「紹介が遅れました。こちら翔と言う者で祟り神の所のせがれです。」


「ほぅ。また数奇な運命をお持ちのようだ。どれどれ御主の中身を見てみるかの。」


犬神様は口元をハァハァ言わせてこちらを見つめている。


「犬神様はその人の深い所まで見通す力がおありだからお前の眠っているモノがなにかわかるかもしれんな。」


と、熊さんが言った。


しばらくするとまた脳内に声が聞こえた。


「なんと・・・神産巣日神様の面影が見える。まさか・・・この世に生まれる前に愛されたとでもいうのか」


「神産巣日神様?」


俺は初めて聞いた名前だった。すると熊さんが声を荒げながら言った。


「神産巣日神様ですと!??それは本当ですか?」


「ワシには面影が見える。御主は神産巣日神様を知らんのか。我々日本の神の最初の女神様じゃ。熊よ。後で説明してやれい。」


「わ、わかりました。」


俺にはさっぱり意味が分からなかった。


「さぁてどうしたものかのぉ」


犬神様も困っているようだ。


「犬神様からこの霊達に語りかけて貰えませぬか?」


「うむ。熊よ。お経を読み続けよ。」


熊さんは「はい。」と言うとまたお経を読み始めた。


なにか先程とは違うように聞こえる。


やはり神様を呼び出す為のモノと別れているようだ。


俺は特にやれる事がないので息子さんを見つめていた。


息子さんの身体にのし掛かるように3体の顔の無い赤ん坊がいる。


首には細い腕が巻き付き、未だに母親の霊は姿を現さない。


俺は何も出来ないながらも目を瞑り心から赤ん坊達が成仏出来るように祈った。





・・・。




どれくらい経っただろうか。


俺はゆっくり目を開けてみた。


するとそこには息子の身体から赤ん坊達が離れて俺の目の前までやってきていた。


俺は咄嗟に「うわっ」と声を上げてしまったら熊さんもお経を止めこちらに振り返った。


なぜか先程までいた犬神様の姿が見当たらない。


熊さんが叫んでいる。


「このお札で出れんようにした筈だが、この水子共どうやって出やがった!?翔!離れろ!!」


俺は熊さんにそう言われたが何故か離れなかった。


いや・・離れられなかったというべきか。


なぜならその赤ん坊達に悪い気が感じられなかったからである。


それに先程までとは違い3体の赤ん坊には顔があった。


目は閉じていてお母さんを必死に探しているようにゆっくりとこちらへ近づいてくる。


俺はなぜか涙が出てきた。


日頃から余程の事がないと泣かない俺が泣いているんだ。


俺はそっと一体の赤ん坊を抱きあげる。


すると赤ん坊は先程までとは違い、安らかな表情をした後に消えていってしまった。


残りの2体も同様に俺が抱きかかえると皆落ち着いた優しい表情になり消えていった。


まさに成仏とはこのような事をいうのだろうか・・



「どういう事だ・・赤ん坊に悪い気が無くなったから出れたのか?だが何故そうなったんだ?」



熊さんが問いかけると突然また脳内に声が響いた。



そう。犬神様だ。


「翔よ。御主は心から子供達の成仏を願う事により子供達がそれに反応したのだろう。だがそれも、神産巣日神様のお力があってだの。熊に説明させるつもりじゃったがワシが話してやろう。神産巣日神様(カミムスビガミ)とは日本最古の3神の1人。神産巣日神様は簡単に説明すると創造の神じゃ。男女のムスビを象徴する神でもある。とても慈悲深く、ワシらもそういった神から生まれた存在なんじゃ。多分お前のうちに秘めるその暖かい力が子供達にとっては母親の愛情のように思えたのだろう。あの子らは愛に飢えていたんじゃろうな。」



犬神様の言葉を聞いた後俺は心から子供達に冥福を祈った。


「なんだか予想外だが、後は母親の霊だけだな。もしかしたら息子さんも救えるかもしれん」


熊さんはそう言うとまたお経を唱え出す。


息子さんを見ると先程まで首に巻かれていた腕が離れ、肩の上辺りに母親の顔が覗いていた。


その顔は憎悪に満ち溢れているが如く凄まじい表情をしている。


例えるなら般若のお面をかぶった女といった所か。


女は俺にその視線を向けたまま子供を返せと言わんばかりに睨み付けてくる。


すると、息子さんの口が開き、その表情から想像も出来ないくらい低い声が響いた。


「貴様ぁぁぁぁあああああああ!!私の子供を何処へやったぁぁあぁ!!!」


尚も熊さんはお経を読み続けている。その度に苦しそうに呻き声を放つ。


熊さんはお経を読む事により霊に語り掛けているようだった。


すると、犬神様が突然母親の霊の側に現れ、母親に語り掛けた。


「御主の気持ちはようわかる。辛かったろうに・・・、この者に無理矢理身籠もらせられ、そして、御主がどんな最期を迎えたかワシには分かる。悔しかったろう。憎かったろう。だが、御主のその手をこの者の為に汚す事はあるまい。」


「動物如きが知ったような口を聞くなぁあぁあ!!」


「なっ!!このお方は・・」


俺が咄嗟に口を挟もうとすると犬神様がこちらに振り返り「よい!!」と制止した。


「ワシはこの坊さんの寺に祭られておる神じゃ。先に天界へと旅立った赤ん坊の事を考えてみぃ。母親を必死に探しておるぞ。御主以外にあの子達の母親はおらんのだ。迎えに行っておやりなさい。この者には現世にて裁きを受けてもらう。また、この世に御主らが再び降り立った時はワシがそなたらを見守ってやろう。」


犬神様の話しを聞き終わると、息子の顔も先程までの憎悪に満ちた表情では無くなっていた。


「私は・・・私は・・・・う・・うぅ・・赤ちゃんに会いたい・・・・。」


もう彼女から憎しみや怒りといった感情は消え去り、今の彼女はただただ子供を思う母親となっていた。


「熊よ。この者が道に迷わぬように導いてやりなさい。」


犬神様がそう言うと熊さんのお経を読む声に一層力が籠もったように聞こえる。


すると、息子の身体から「すぅっ」と抜け出し光の粒のようになって消えていった。


息子さんはその場に倒れてはいるが先程までとは違い、目に生気が戻ってきているように思える。


俺は除霊が無事終わり心底ほっとした。


多分熊さんも同じだろう。


それに、犬神様の姿もいつの間にか消えていた。



「アキラ!!」



突然奥さんの声が聞こえた。


奥さんは息子さんに駆け寄り必死に抱きしめながら問いかけている。


「アキラ!しっかりして!!ねぇアキラ!!」


「奥様。除霊は無事終わりました。すぐに救急車を呼びしょう。」


奥さんは熊さんの話を聞き部屋に置いてある固定電話で救急車を呼んだ。




5分もしないうちに救急車はサイレンを鳴らしながらやってきた。




俺達は救急車が来る前に祭具等を全て片付けた。熊さんによると、救急隊員がこの部屋に入った時に祭具等があると何かいかがわしい儀式と勘違いされて、警察沙汰になるらしい。というか、前にそういった勘違いをされて大騒ぎになったみたいだ。まぁ熊さんの人相からして警察は怪しむだろうな・・


救急隊員には鬱病の息子が最近食事も取らずに引き籠もって居た為、引きづり出したらこうなっていたと説明したがちょっと無理があったようにも思える。



そして救急車へ息子さんは入れられ、奥さんも一緒に乗り込もうとした時に奥さんが熊さんに茶封筒を渡してきた。


熊さんはそれを無言で受け取り、俺達は救急車が見えなくなるまで見送った。


「その封筒ってなんですか?」


俺が問いかけると熊さんは封筒をポケットにしまい呟いた。


「金だ。」


「あー。そっか。これも仕事ですもんね。ちなみにいくらなんですか?」


「最初に俺が提示した額が入っていれば50万だな。」


「まじすか!?1回50万ならおいしいっすね。」


「おいしい・・か?こっちも命懸けでやってるんだこれくらい当然だ。だが、こんな汚い親子の金などはいらん。」



俺にはこの時、熊さんの言う汚い親子の意味が全く分からなかった。


「汚いってどういう事です?」


熊さんの表情が険しく思えた。


「俺の除霊の方法は母親の霊の無念・怨念といったモノを感じ取った上で語り掛け、成仏させるという方法でいつもやっているが、これほど胸糞悪くなったのは久しぶりだ。」


「何かそんなにあの親子は酷い事をしたという事ですか?」


「あぁ。あの母親の霊はあの親子に殺されたんだよ。」


「え!?」


俺は正直予想していなかった言葉に声が裏返ってしまった。


「息子はあの母親の霊と付き合っていたみたいだ。まぁどういう経緯でそうなったかまでは知らんがな。だが彼女はその時28歳。歳の差があった故にお互い親には付き合っている事を言っていなかったみたいだ。そしていつの日か彼女のお腹には新しい魂が宿ってしまった。それを息子に伝えると息子は突然別れ話を切り出したらしい。そして半ば強引に別れてしまった。勿論彼女からしたら納得がいかなかっただろうな。女性で30歳を目前としてお腹に赤ん坊を宿しちまったら、事の重大さが若い時とは違うからな。だから彼女は意を決して息子の自宅へと無断で出向いた。奥さんは初めて付き合っていた事、お腹に子供がいる事、そして息子と1周り近い歳の差の事を知った。奥さんは息子を呼び出し相当3人で揉めたらしい。結局結論がでないままその日は彼女は帰る事になった。だが後日奥さんから連絡があり再び息子の自宅へ呼ばれた。出向いてみると息子はおらずに母親だけ出迎えたらしい。そして母親はリビングへ促すとそこで彼女の首を絞めて殺しちまったんだよ。」


「・・・・まじかよ・・。」


俺はあまりの内容に言葉が見つからなかった。


「彼女の遺体はまだ見つかっていない。だけどな、もう俺にはわかる。彼女が教えてくれたからな。」


「え・・じゃぁ警察に連絡したほうがいいんじゃないですか?」


「勿論するさ。あの霊と約束しちまったからな・・・現世で裁きを受けさせると。」


そう熊さんは最後に言うと車へと歩きだした。


俺もその後ろ姿を見ながら付いていく。


黒く鈍い光を放つインパラに乗り、エンジンを掛けるとラジオからクリスマスソングが流れている事で

今日がクリスマスだという事を思い出した。




帰りの車内では熊さんとくだらない話を楽しみつつこの地を後にした。




そして2日後に、あの自宅の床下から行方不明になっていた彼女の遺体が見つかったとのニュースが報道された。息子の容体は回復に向かっていっていた為、退院と同時にいろいろと尋問を受ける事だろう。母親の方は既に身柄を確保されていて、旦那さんは単身赴任中で知らなかったとの事。遺体には三つ子のへその緒のついた小さ過ぎる未熟児の赤ん坊が居たらしい。警察の話では埋められる時にはまだ生きていて、首を絞められた時のショックで流れてしまったのだろうとの事だ。



なんとも後味の悪い初めての除霊体験となった。


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