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三者連続四球からの三者連続三振  作者: 和泉 きよ


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9/17

嫉妬

 決勝前日


 俺たちは軽めの調整練習を行っていた。

 体を休めることを優先し、いつもの練習より短い。

 それでも全員、集中している。


 明日は決勝。

 勝てば甲子園。

 俺たちがずっと目指してきた場所だ。


 練習が終わったあと

 俺はグラウンドの端で一人、キャッチボールをしていた。


 そこへ石川がやってくる。


「工藤くん」


「ん?」


「まだ練習するの?」


「少しだけ」


「無理しないでね」


「ああ」


 そのとき。


「石川!」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 見知らぬ男子が立っていた。


 他校のユニフォーム。

 どうやら今日の試合を見に来ていたらしい。


「久しぶり」


「えっ……」


 石川が驚く。


「高津くん?」


 俺は少し眉をひそめた。

 昨日の相手投手。


 高津。


「昨日はすごかったな」


「高津くんこそ……」


 二人が話している。


 俺はキャッチボールを続けた。


 だが

 なぜか気になる。


 ボールを投げる。


 阿部が声をかけてくる。


「工藤」


「何だ」


「さっきから球が荒れてるぞ」


「……」


 また投げる。


 大きく外れる。


「悪い」


「どうした?」


「何でもない」


 視線を石川たちへ向ける。


 高津が笑っている。

 石川も笑っている。


 胸の奥が、妙にざわつく。


 何なんだ。

 この感じ。


「工藤」


 阿部が言った。


「もしかして」


「何だ」


「嫉妬してる?」


「は?」


「高津に」


「してない」


「じゃあ、何でさっきからそっち見てんだ?」


「……」


 答えられない。


「違う」


「何が?」


「別に、何でもない」


 俺はボールを投げる。


 今度は真っ直ぐ。


 阿部が捕る。


「……図星だな」


「うるさい」


 しばらくして、高津が帰っていった。


 石川がこちらへ戻ってくる。


「工藤くん」


「何だ」


「高津くんね、中学の頃の知り合いなんだ」


「そう」


「昨日の相手だったから、挨拶してくれたの」


「……そうか」


「どうしたの?」


「別に」


「何か怒ってる?」


「怒ってない」


「ほんと?」


「ああ」


 石川は俺の顔をじっと見る。


「工藤くん」


「何だ」


「もしかして……」


 俺は少し身構えた。


「嫉妬した?」


「……!」


「顔に出てるよ」


「出てない!」


 石川が笑い出す。


「ふふっ」


「笑うな!」


「ごめんね」


「……」


 俺はそっぽを向いた。


 すると石川が小さな声で言った。


「でも、ちょっと嬉しいかも」


「……え?」


「なんでもない」


 今度は石川が顔を逸らした。


 俺は何も言えなかった。

 心臓が速い。


 明日は決勝。

 甲子園を懸けた試合。


 なのに

 今、俺の頭の中にあるのは


 石川の最後の言葉だけだった。




 翌朝


 決勝戦。


 球場へ向かうバスの中。

 誰も口数が多くない。

 全員が集中している。


 俺は窓の外を見る。

 夏の空。

 雲一つない。


 甲子園まで、あと一勝。

 ここまで来た。

 このチームで。

 みんなと一緒に。


 絶対に勝つ。

 そう思った。


 そして

 バスが球場に到着する。


 グラウンドへ向かう途中

 石川が俺に声をかけた。


「工藤くん」


「ん?」


「昨日のこと、気にしてる?」


「……してない」


「そっか」


 石川が笑う。


「じゃあ、今日勝ってね」


「ああ」


「約束だよ」


 俺は少しだけ笑った。


「分かった」


 俺は帽子をかぶる。


 グラウンドを見る。


 決勝戦。


 勝てば甲子園。

 負ければ、夏が終わる。


 俺は拳を握った。


 ――絶対に勝つ。




 その気持ちだけを胸に、マウンドへ向かった。


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