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三者連続四球からの三者連続三振  作者: 和泉 きよ


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7/17

エースの休日

 準々決勝を勝ち抜いた翌日


 野球部には、久しぶりの休日が与えられた。

 大会期間中は練習と試合の繰り返し。

 まともに休める日はほとんどなかった。


「今日は絶対に野球のこと考えない!」


 朝から鈴木がそう宣言した。


「無理だろ」


 岡本が即座に返す。


「なんでだよ!」


「お前、昨日も寝ながら『ナイスバッティング!』って叫んでたぞ」


「マジかよ……」


 部室に笑い声が響く。


 俺はその様子を見ながら、荷物をまとめていた。


「工藤」


 阿部が声をかけてくる。


「今日暇か?」


「まあ」


「じゃあ、みんなでどこか行くか?」


「嫌だ」


「即答かよ」


「休みなんだから休む」


 阿部は呆れたように肩をすくめた。


「お前、本当に付き合い悪いな」


「別にいいだろ」


 そのとき。


「工藤くん」


 石川の声がした。


 振り返る。

 石川が立っている。


「今日って暇?」


「……まあ」


「じゃあ、買い物付き合ってくれない?」


「俺が?」


「うん」


「何を買うんだ?」


「部活で使うもの」


「それなら一人で行けばいいだろ」


「重いものもあるから」


「……」


 俺は少し考えた。


「分かった」


「本当?」


「ああ」


「ありがとう!」


 石川が笑った。


 その瞬間

 背後から岡本の声が聞こえた。


「おーい、工藤」


「何だ」


「休みの日に女子とデートか?」


「違う!」


 俺は即座に否定した。


 石川の顔を見る。

 なぜか少し赤くなっている。


「デ、デートじゃないよ」


「そうだよな!」


 俺は頷く。


「買い物だ」


 岡本がニヤニヤする。


「はいはい」


「何だよ」


「別に」


 阿部まで笑っている。

 俺は二人を睨んだ。


「……うるさい」




 昼前


 俺は駅前で石川を待っていた。

 私服で会うのは久しぶりだった。


 しばらくすると、石川がやってくる。


「工藤くん、お待たせ!」


「いや」


 俺は一瞬、言葉を失った。

 いつもの制服姿とは違う。

 髪も少しだけ整えている。


 別に。

 何でもない。

 ただ、少し違って見えただけだ。


「……何?」


「いや」


「さっきから見てるけど」


「何でもない」


「ふふっ」


 石川が笑った。


「工藤くん、今日ちょっと変だね」


「お前が変なだけだ」


「えー?」


「行くぞ」


「うん!」


 俺たちは歩き始めた。


 買い物を済ませる。

 野球部で使うテーピングやノートなどを買った。


「意外と重いな」


 俺が荷物を持つ。


「ごめんね」


「これくらい平気」


「ありがとう」


 しばらく歩く。


 石川が突然立ち止まった。


「工藤くん」


「何だ?」


「あそこ寄っていい?」


 指差した先には、小さなカフェがあった。


「……いいけど」


「やった!」


 店に入る。


 窓際の席に座る。


「何食べようかな」


 石川がメニューを眺めている。


「甘いものばっかりだな」


「好きだから」


「そうか」


「工藤くんは?」


「コーヒー」


「高校生なのに?」


「いいだろ」


「じゃあ私はケーキ!」


 石川は嬉しそうに注文した。


 しばらくすると、テーブルにケーキが運ばれてくる。


「おいしそう!」


 石川が目を輝かせる。


「そんなに嬉しいか?」


「うん!」


 一口食べる。


「おいしい!」


 石川が幸せそうな顔をする。


 俺は思わず笑った。


「……何?」


「いや」


「今、笑った?」


「笑ってない」


「笑ったよ」


「気のせいだ」


「工藤くんも食べる?」


「いらない」


「本当に?」


「ああ」


 石川が少し考えて。


「じゃあ、これなら?」


 小さく切ったケーキを差し出してくる。


「……」


「一口だけ」


「……」


 俺は少し迷った。


 そして


「……もらう」


「はい!」


 一口食べる。


「どう?」


「普通」


「もう!」


 石川が頬を膨らませる。


「おいしい?」


「……まあ」


「素直じゃないなあ」


 俺はコーヒーを飲んだ。


 心臓が少し速い。

 何なんだ。

 この感じ。


 野球の試合よりも緊張する。




 その帰り道


 石川が言った。


「今日は楽しかったね」


「ああ」


「また一緒に行こうね」


「……時間があればな」


「約束?」


「約束はしてない」


「じゃあ、半分約束」


「何だそれ」


 石川が笑う。

 俺も少しだけ笑った。




 その夜


 俺はベッドの上で今日のことを思い出していた。


 ケーキ。

 カフェ。

 石川の笑顔。


 そして

 また一緒に行こうと言われたこと。


「……何考えてるんだ、俺」


 俺は枕に顔を埋めた。


 明日は準決勝。

 野球に集中しなければならない。


 なのに




 なぜか頭から石川の笑顔が離れなかった。


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