↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三者連続四球からの三者連続三振  作者: 和泉 きよ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/21

俺たちの夏

 夏の県大会二回戦


 試合前。

 俺たちはベンチで準備をしていた。


「工藤、今日も頼むぞ」


 阿部が声をかけてくる。


「任せろ」


「珍しく素直だな」


「……別に」


 阿部が笑う。

 俺は嫌な予感がした。


「何だよ」


「いや。今日は四球何個出すのかなと思って」


「知らねえよ」


「三つ?」


「多すぎる」


「五つ?」


「……」


「否定しろよ」


 俺は黙って阿部を睨んだ。

 そこへ野村監督が入ってくる。


「全員、聞け」


 ベンチが静かになる。


「今日勝てば、次は強豪校だ」


 部員たちの表情が引き締まった。


「だが、目の前の試合だけを考えろ。先のことを考えるな」


「はい!」


「一つずつ勝つ。それだけだ」


 俺は帽子をかぶった。

 グラウンドを見る。

 夏の日差しが強い。


 甲子園。

 その言葉は、まだ遠い。


 だけど

 俺たちは本気で目指している。


 試合開始。


 一回表。

 相手の一番打者。


 初球

 ストライク。


 二球目

 ボール。


 三球目

 ボール。


「また始まった」


 ベンチから吉村の声が聞こえる。

 俺は無視した。


 四球。

 ランナー一塁。


 二番打者。

 バントの構え。


 初球

 ストライク。


 二球目

 バント。

 打球は一塁方向。


 岡本が捕球。

 一塁へ送球。

 アウト。

 一死二塁。


 三番打者。

 俺はセットポジションに入る。


 阿部のサイン。

 外角。


 投げる。

 ストライク。


 二球目

 ファウル。


 三球目

 スライダー。

 空振り。


「ストライク、バッターアウト!」


 二死

 ランナー二塁。


 四番

 相手の主砲。


 球場が静かになる。


 俺は息を吐いた。


 初球

 ボール。


 二球目

 ストライク。


 三球目

 ファウル。


 四球目

 またボール。


 五球目

 外角低め。


 ――空振り


「ストライク! バッターアウト!」


 三振

 チェンジ。


 俺はベンチへ戻る。


「ナイスピッチ!」


 広瀬が笑う。


「四球一個だけだったな!」


「一個で済んだって言えよ」


「成長したじゃん!」


「うるさい」


 石川がタオルを差し出してくる。


「お疲れさま」


「ありがとう」


「今日調子よさそうだね」


「まあな」


「四球一個だったし」


「……それは言うな」


 石川が笑う。

 俺も少しだけ笑った。


 試合は進んだ。

 俺は四球を出す。


 だが、守備陣が守る。

 内野ゴロ。

 外野フライ。


 三振。

 また四球。

 そして三振。


 気がつけば、五回終了。


 スコアは二対〇。

 俺たちがリードしていた。


 六回。

 先頭打者に四球。

 続く打者にも四球。

 無死一、二塁。


「工藤!」


 阿部がマウンドへ来た。


「大丈夫か?」


「問題ない」


「なら、次から三人で終わらせよう」


「言うことが無茶だな」


「お前ならできる」


 阿部はそう言って戻っていった。


 俺は阿部を見る。

 そして投げる。


 ストライク。


 もう一球。

 ストライク。


 三球目

 空振り。


「ストライク! バッターアウト!」


 一人。


 続く打者


 初球

 ストライク。


 二球目

 ファウル。


 三球目

 スライダー。

 空振り。


 二人。


 次の打者。


 俺は大きく息を吐いた。

 投げる。

 ストレート。


 ――空振り


 三者連続三振。


「よっしゃあ!」


 ベンチが沸いた。


 俺はマウンドを降りる。


 その瞬間

 センターの広瀬が駆け寄ってきた。


「工藤!」


「なんだ」


「やっぱりすげえな!」


「普通だ」


「それ言うと思った!」


 広瀬が笑った。


 試合はそのまま二対〇で勝利。

 俺たちは三回戦へ進んだ。




 試合後


 ベンチの片付けをしていると、石川が近づいてきた。


「工藤くん」


「ん?」


「勝ったね」


「ああ」


「次も勝てるかな?」


 俺は少し考えた。


「勝つ」


「即答だね」


「当然だろ」


「じゃあ、甲子園も?」


 俺はグラウンドを見る。


 誰もいない。


 夕焼けに染まったグラウンド。

 俺たちが毎日練習してきた場所。

 ここから先、何試合勝てばいいのか。


 でも。


「……行く」


「え?」


「甲子園」


 石川が目を丸くする。


「俺たちは行く」


 俺はそう言った。


「みんなで」


 石川は笑った。


「うん!」


 その笑顔を見ていると、不思議と胸が熱くなった。

 この夏が終わるまで。

 俺たちは、このチームで戦う。


 甲子園を目指して。


 そして――


 俺自身も、まだ気づいていない。

 この夏、野球だけじゃなく

 俺の心にも、大きな変化が訪れることを。




 このときの俺は、まだ知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。