終わらない試合
十二回裏。
スコアは六対四。
俺たちは二点をリードしている。
だが、タイブレークでは何が起こるか分からない。
無死一、二塁。
二塁には五番打者。
一塁には四番打者。
そして、打席に入ったのは――。
六番打者。
俺はマウンドの上でボールを握りしめた。
あと三つ。
それだけ取ればいい。
阿部がサインを出す。
俺は小さくうなずいた。
初球
外角へのストレート。
「ストライク!」
二球目
低めへのスライダー。
「ボール!」
三球目
もう一度ストレート。
――カキン!
打球はセンターへ飛んだ。
広瀬が懸命に追う。
だが、打球はその頭上を越えていった。
「抜けた!」
二塁走者が三塁を蹴る。
一塁走者も二塁へ進む。
広瀬が急いでボールを拾う。
ホームへ送球するが――。
間に合わない。
「セーフ!」
六対五。
一点差。
なお無死一、三塁。
俺はマウンドの上で息を吐いた。
一気に一点差になった。
次の打者は七番。
相手はスクイズの構えを見せる。
俺は一瞬、三塁走者を確認する。
そして投げた。
打球は三塁側へ転がった。
村田が素早く前へ出る。
「ホーム!」
村田は三塁走者を警戒しながら、一塁へ送球する。
「アウト!」
一死一、二塁。
次の打者は八番。
ここを抑えれば、あと一人。
阿部がミットを構える。
初球
ストレート。
「ストライク!」
二球目
スライダー。
「ボール!」
三球目
ストレート。
――ファウル。
追い込んだ。
俺は帽子のつばに触れた。
あと一球。
四球目
外角低め。
――空振り。
「ストライク、バッターアウト!」
二つ目。
あと一人。
だが一本打たれれば同点の可能性もある。
俺はマウンドでボールを握り直した。
打席には九番打者。
相手ベンチから大きな声が飛ぶ。
俺は阿部を見る。
阿部がミットを構えた。
初球
ストレート。
「ストライク!」
二球目
スライダー。
「ボール!」
三球目
ストレート。
――ファウル。
追い込んだ。
あと一球。
俺は大きく息を吐いた。
ここで決める。
四球目
腕を振った。
――カキン!
打球はセンター前へ。
「しまった!」
二塁走者がスタートする。
広瀬が前へ出てホームへ送球する。
しかし――。
間に合わない。
「セーフ!」
同点。
六対六。
相手ベンチが大きく沸いた。
俺はマウンドの上で、ただスコアボードを見つめた。
また追いつかれた。
二点差が、一点差になって。
そして――同点。
阿部がマウンドへ駆け寄ってくる。
「工藤」
「……悪い」
「何が?」
「また追いつかれた」
阿部は首を横に振った。
「まだ終わってない」
「……ああ」
「ここからだ」
阿部が戻っていく。
次の打者は一番。
相手は打席へ入る。
俺はマウンドの上で、もう一度ボールを握り直した。
初球
外角スライダー。
「ストライク!」
二球目
内角ストレート。
「ファウル!」
追い込んだ。
三球目
外角スライダー。
――空振り!
「ストライク、バッターアウト!」
三振。
十二回裏、終了。
スコアは六対六。
また同点。
俺は大きく息を吐いた。
あと一人だった。
それでも、相手は追いついてきた。
野球は最後まで分からない。
ベンチへ戻ると、岡本が俺の肩を叩いた。
「工藤、まだ終わってねえぞ」
「……分かってる」
「次、取り返そうぜ」
「ああ」
俺は短く答えた。
十三回表。
俺たちの攻撃。
スコアは六対六。
先頭打者は二番・遊撃の松井弟。
無死一、二塁。
松井弟が打席へ向かう。
俺は松井弟を見つめた。
「松井、頼むぞ!」
鈴木が声を飛ばす。
松井弟は片手を上げて応える。
相手投手がセットポジションに入る。
初球
ストライク。
二球目
ファウル。
三球目
松井がバットを振り抜いた。
――カキン!
打球はレフト前へ飛んでいく。
俺が三塁へ進む。
鈴木も二塁へ。
そして松井は一塁へ到達した。
無死満塁。
一気にチャンスが広がった。
ベンチから大きな声が飛ぶ。
「行けるぞ!」
打席には三番・広瀬。
広瀬はバットを構える。
相手投手が投げる。
初球
ストライク。
二球目
ファウル。
そして三球目――。
広瀬はバットを振り抜いた。
打球は高く上がった。
センターへ。
タッチアップの準備をする。
試合はまだ終わらない。
甲子園への道も――。
まだ、終わっていなかった。




