あと一歩
十一回表
スコアは三対三。
タイブレークの緊張感が、グラウンド全体を包んでいた。
無死一、二塁。
一塁には一番鈴木。
二塁には九番俺。
打席には二番・遊撃の松井弟。
「松井、頼むぞ!」
岡本の声が飛ぶ。
松井弟は一度だけこちらを振り返ると、静かにバットを構えた。
相手投手が投げる。
松井弟は迷わずバントを決めた。
打球は投手の前へ転がる。
三塁へ送球――。
「アウト!」
俺は三塁で封殺された。
一死一、二塁。
走者は二塁に鈴木。
一塁に松井弟。
そして、打席には三番・広瀬。
「広瀬、頼む!」
ベンチから声が飛ぶ。
広瀬は思い切りバットを振った。
しかし――。
打球は高く上がり、センターの守備範囲へ。
「アウト!」
二死。
そして、打席には四番・岡本。
「ここで決める!」
岡本が力強くバットを構える。
初球
ストライク。
二球目
ファウル。
そして三球目
岡本が振り抜いた。
打球は外野へ高く舞い上がる。
「行け!」
鈴木が二塁から三塁へ走る。
そして――。
センターから返ってきた送球よりも早く、鈴木が三塁を蹴った。
ホームへ。
「セーフ!」
四対三。
勝ち越し。
岡本が拳を握る。
「よっしゃあ!」
ベンチも一気に沸いた。
鈴木はホームベースを踏んだあと、ベンチへ戻ってくる。
次打者村田は、レフトフライで攻撃終了した。
あと三つ。
あと三つアウトを取れば――。
甲子園への切符に手が届く。
十一回裏
俺たちは守備についた。
スコアは四対三。
相手もタイブレーク。
無死一、二塁から始まる。
そして、打席に入ったのは二番打者。
俺はマウンドから走者を確認する。
阿部がサインを出した。
「まず一つずつだ」
俺は小さくうなずいた。
初球
ストライク。
二球目
ファウル。
そして三球目
外角いっぱい。
「ストライク、バッターアウト!」
一つ目。
あと二つ。
次は三番打者。
相手は送りバントの構えを見せた。
俺は一塁と二塁の走者を警戒する。
バットに当たった。
打球は一塁側へ転がる。
阿部が素早く指示を出す。
「三塁!」
岡本が走ってくる。
岡本の送球を受け、松井弟が走者にタッチする。
「アウト!」
二塁走者を封殺。
二死一、二塁。
あと一つ。
相手ベンチから大きな声が飛ぶ。
俺はマウンドでボールを握り直した。
あと一人。
ただ、それだけだった。
しかし――。
野球は、最後の一球まで何が起こるか分からない。
十一回裏、二死一、二塁。
スコアは四対三。
俺たちは、あと一つのアウトを願っていた。




