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24歳社畜OLの異世界旅団生活  作者: おこめ
第一章 拾われた少女とカルラッタ旅団
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001話 「カルラッタ旅団」

「……ん」


目が覚める。


気が付くと私は木の模様が良く見える天井を眺めていた。

白くてふかふかのベッド。ふんわりと香る爽やかな匂い。


ゆっくりと腕を上げると、切り傷などで痛々しかった皮膚はすべすべに治っており、薄汚れていた肌も本来の透明感と真っ白な色を取り戻していた。


服も不衛生なボロ布のような物から、清潔な白いワンピースに変わっている。


「ここは……?」


状況を確認しようと首を左に向けると、そこ広がっていたのは太陽の照り付ける灼熱の大地。

地平線の彼方まで目を凝らすが、映るのはどこまでも続く砂の海だけ。


すると奥にある扉の方から足音が聞こえてきた。

私はその事に気が付くと、体を起こし出来るだけ扉から遠い場所まで行き、布団を手繰り寄せた。


人の歩く音が少しずつ近づいてくる。


「……っ」


扉の取っ手がゆっくりと動いていく。

――そして


「目が覚めた? 今忙しくてちょっと待ってて!」

「……え?」


扉が開いたかと思えば、黒色の髪に黒眼の可愛い少女が部屋を少し覗いた後、忙しそうに出ていった。


こんな状況なのに、私が思ったのはまるで日本人みたい、と言う至ってシンプルな感想だった。


腰まで伸ばした艶のある髪に、大きくてまん丸い瞳。そして顔の真ん中にある小さな鼻。


「大丈夫、か。」


正直ここから逃げた方がいいのかも知れない。

でも、なんとなく、さっきの黒髪の女の子が言っていた『待ってて』が頭から離れなかった。


彼女の容姿が日本人に似ていたからだろうか。


私は窓の向こうにある砂漠の大地を見つめる。


「どのみち、ここからは逃げられないか……ん?」


私は窓に反射する自分の顔を眺めた。そこに映っていたのは、全く私と同じ動きをする、肩辺りまでの白い髪に碧色の瞳の女の子。


――そして何より驚いたのは


「耳が尖ってる……?」


窓に映る自分の姿を見ながら、私は両手で耳を触る。

馬車の時は気づかなかったが、よく触ると若干耳が尖っていた。


まるで物語の中だけでしか聞かない、長耳族(エルフ)のように。

この場合は若干なので、混血長耳族(ハーフエルフ)だろうか。 


そもそも、改めて今冷静になって考えると不思議な点がいくつもある事に私は気づく。


なぜ馬車の中以前の記憶が曖昧なのか、なぜ私は何者かに連れ去られ、あそこに居たのか。


あの時は自分が死んだと言うショックなどで混乱して信じてしまったが、あの女神は本当に私が想像する様な女神なのか。


そもそもの話、これまでの私の記憶は本当に存在するのか。


馬車の中で元の人格があの状況に耐えれなくなった結果、別世界で働いていた大人の女性の人格を作り出しただけかもしれない。


考え込んでいたから、気づかない内にドアが開かれた。


私が驚いて見ると、入ってきたのは先ほど見た黒髪の少女と、あの特徴的な赤い髪の女性。


――馬車で人を殺した人だった。


ここはもう、地球じゃない。だからこのアルカディアと言う世界で殺人が平気で行われても、この世界の人が何かを思うことはないかもしれない。


けど、私は元々地球の日本で生まれて、今でもその意識は消えてない。


だから――


「あ、貴方達は……誰ですか?」


私は怯えながらも、力強く声を発した。

予想とは裏腹に、二人はお互い困った様に顔を見合わせる。


「団長、この言葉分かりますか? 中央語ではない様ですが……」


すると黒髪の少女が赤い髪の女性を見上げながらゆっくりと口を開く。それに続く様に、団長と呼ばれた赤い髪の女性が手を口に当てながら話し始めた。


「この中央大陸で主に使われる三ヵ国の言語と他にも二つほど私は話せるが、どの言語にも似てないな。」

「これじゃ通訳をお願いしようにも、どうしようもありませんね。」


私は混乱していた。聞いたことも無いはずの言語なのに、頭が理解している事に。


英語でも、中国語でもない、全く聞いたことのない言語。だけど私の頭の中には元々その言語を知っていたかの様に染み付いている気がした。


記憶が曖昧なだけで、この言語を元々知っていたのか。それともこれが、女神が私にくれた筈のほどほどの才能なのか。


私はゆっくり確認するように喋り始めた。


「中央語、と言うのは、この言葉ですか……?」


その瞬間、二人が目を大きくして驚きながら私の方を見てきた。


一つ間を置いて、黒髪の少女が口を開く。


「そうです、今貴方と私達が話しているのが中央語と言われる、この大陸で最も使われていると言う言葉です。」


そう言葉を選びながら喋ると、団長と言われた赤い髪の女性へと目をやった。

すると口を尖らせながら少女は赤い髪の女性へと人差し指を指した。


「アレクシア団長、それで、どうするんですか?」

「ごめんってクレア、説明もせずに勝手にしたのは謝るけど、時間がなかったんだよ。」

「これだから団長は……」


そう言いながら少女はうなだれるように頭を抱えた。


今の状況から察するに、黒髪の少女がクレア。

赤い髪の、団長と呼ばれている女性がアレクシアで間違いなさそうだ。


するとクレアと言う少女が優しい顔になる。

自分の手で勢いよく顔を叩くと、こちらに向かって来た。


無意識に後ずさろうとする私に対して、クレアと言う少女は目線を合わせるように中腰になると少し微笑みながら口を開けた。


「私達と、一緒に暮らす?」

「一緒に……?」


私が反応に困っていると、横で静かに立っていたアレクシアと言う女性が口を開いた。


「要は私達の旅団と一緒に来るか?」

「ちょっと団長今……」

「まあまあ、そう言わずに見とけって」


目の前に居る女性はそう言うと、私の目をその琥珀色の瞳で私を見つめる。


「馬車に乗っていた他の子供たちは、名簿と照らし合わせてそれぞれの身元に帰す手配をした。だが……貴女の情報は、奴隷商のリストのどこにもなかった。」


ドクン、と心臓が跳ねる。


「お前は名もないただの子供だ。元の場所に戻すこともできない。……分かるか? お前の居場所はもう、どこにもない」

「団長!  目覚めたばかりの子供にそんな言い方……!」


クレアが慌てて制止しようとするが、アレクシアはそれを手で制し、まっすぐに私の目を見据えた。


「この世界で、子供が一人で生きるのは余りに残酷だ。言っておくが、これは慈悲でも同情でもない。私にとって利益になると判断したからだ。」


女性はもう、私一度の目を見つめ直す。


「そこで改めて聞く。生きたいか?」


目の前に居る赤髪の、団長と呼ばれる女性。

でも、私は彼女が人を殺すの見た。


当然、良い事ではないと思う。しかし、この世界で生きるのには必要な事なのかもしれない。


この世界についての記憶はほとんどなく、孤児院の場所もわからない。

居場所がない。


今の私は十歳程度の子供だ。

なら、選択肢は一つしかない。


「生きたいです……もう死ぬのは嫌です! お願いします、掃除でも料理でもなんでもします! だから、だから、私を連れて行ってください! お願いします……っ。」


もう死ぬのはごめんだ。


――だって私は今、もう一度人生を生きると決めたのだから。


私が喉の力を振り絞って言葉を言い終えると、彼女は口を開いた。


「それでこそだ。ようこそ、カルラッタ旅団へ。私の名前はアレクシア。アレクシア・オズウェルドだ。貴女の名前は?」


記憶がない。名前がわからない。

なら、名前は一つ。


「名前は……ユキです。苗字はありません、ただの、ユキです。」

「ただのユキ、か。良い名だ。ユキ、団員になったからにはしっかり働いて貰うからな。」

「お願いします、アレクシア団長っ!!」


私は、精いっぱい力を込めて返事をした。

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