002話 「テンパリな少年」
「……」
このカルラッタ旅団の団員となった私だが、木床の雑巾掛けでもしていればいいのだろうか。
長い廊下のような場所を歩きながら、辺りを見回す。
少し振動して揺れる床。
壁には左右対称になるように置かれているドアあった。
「なんで揺れてるか気になるでしょ? それはね、私たちが砂の上を走る砂上船って言う船に乗ってるからなんだよ?」
横に居る少女、クレアさんはそう言いながら人差し指を立てる。
砂漠の上で走る船。一体どんな原理で走っているのだろうか。
すると、それに続くようにアレクシアさんが口を開いた。
「この後団員達にユキの紹介をしようと思っているんだが、少しな……まあ、悪いやつらじゃないから仲良くしてほしい。」
私がアレクシアさんの言葉に戸惑っていると、気づけば階段を上っており、今までに見たことのないような大きさの甲板に来ていた。
すると前に立っていたアレクシアさんが、手で私を引き寄せると大きく息を吸った。
「みんな! 紹介しよう、我らが新たな団員。ユキだ!」
私の前にいる男たちは顔を見合わせ
「「「うぉおおおおお!!! 団長万歳っ!!」」」
「えっ!? えぇーっ!!??」
ざっと見ても、五十人は確実に居るのではないだろうか。
男たちは叫びだすと、腰から抜いた長剣を、太陽が昇る空に向かって高くあげていた。
私が驚き声を上げていると、先ほど上がった階段とは別の階段から一人のイケメンが出てくる。
(え、イケメン?)
「みんな、興奮するのは悪くないが、クレアちゃんが少し怖がってるし、ユキちゃんも固まってるから少し静かにしないか?」
流れるような金髪の髪に翡翠の瞳。純白のローブを着ており、背が高い。
私はどこかで見た配色に疑問を覚えたが、そんな事よりも今の状況に驚きすぐにその思考を頭から捨てた。
見た目からして魔導士、魔術師のような風貌。
少し私の認識と違うのは、剣だけ持ってて、杖は持ってないということだった。
すると謎のイケメンが私に近づいてきた。
思わず彼の事を見上げたが、照りつける太陽が眩しい。
「お嬢ちゃん、むさ苦しくてごめんね。本当は君の事を元居た場所に戻してあげたかったんだけど……、とこの話は良くないね。僕の名前はルーク・グランツだ。よろしくね。」
「先ほど紹介になりました、ユキです。よろしくお願いします」
その時だ、アレクシアさんがこの瞬間を待っていましたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。
「このカルラッタ旅団は、現在をもって遠征を終了し、王都に帰る。」
「え?」
「いや、なんであなたが驚くんですか。」
なぜイケメンは驚いているのだろう。
「そもそもの今回の旅の目的は覚えてるか、ルーク?」
その言葉を聞いた瞬間、イケメンことルークの顔が変わる。
それと同時に周りからも声が上がった。
「もしかして、竜の涙が見つかったのか!?」
「まさか私も奴隷商のやつらが同時に運んでいたとは思わなかったよ。冒険者組合には依頼達成の報酬として持ってて良い許可が出たしな。」
日本に居た頃には聞いたことのない単語、リュミリア。
目の前で行われている会話から予想するに、かなりの貴重なものではありそう。
「すいません。リュミリアってなんですか?」
私がそう言うと、アレクシアさんは一瞬無言になった後、話し始めてくれた。
「そうだな。どこから話すべきか……リュミリアは古代語で竜の涙と言う意味でな。伝承によればどんな願いでも石に願いを込めたら叶うとか言われているが、ただの迷信だよ。希少価値が高くて、収集家はいくらでも出すような代物だがな。」
どうやら、物好きな人からする喉から手が出るほど欲しいものらしい。
前世でも、私の兄が似たような事をしていた。
私にはどれも古びたコインぐらいにしか思えなかったけど。
アレクシアさんはそう言いながら手に持つ透明な結晶を少しの間見つめる。結晶が太陽の光を反射し、虹色に輝いていた。
やがてその結晶を豪華に小さい巾着袋のような物に入れる。
貴重なものなのに、その扱い方は大丈夫なのだろうか。
「この話はこれくらいにして、カイルとオルトいるか!」
アレクシアさんがカイルと言う人物を呼んだ。
すると目の前にいる人混みから少し若そうな青年と、屈強なスキンヘッドの男が出てきた。
青年の方が口を開く。
「どうしましたか団長?」
「カイルは王都の方に連絡を入れてくれ、それとオルト。この辺りの出身だと聞く、航路の相談をしたい。」
「「了解です!」」
「それじゃユキ、私は少し用事があるから聞きたいことがあればルークか、クレアに聞いてくれ。」
アレクシアさんにそう言われ、私は近くに居たルークのことを見た。
相変わらず笑みを浮かべているイケメンである。
「やあ可愛いお嬢ちゃん」
「どうも。あと、ユキです。」
「うんうん、そうだねお嬢ちゃん」
彼は本当に分かっているのだろうか。
私は強風に煽られながら、遠くの方で砂埃の舞う、特に変わり映えのしない景色を眺め始めた。
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あの後は遠くに見えるジャイアントワームと言う魔物を見つめたり、イルークさんから話を聞いたりして私はこの世界の情報を集めていた。
太陽が地平線へと沈み始め、少し日が傾いてきた頃、クレアさんに呼び出された私は甲板を降りて、厨房へと来ていた。
目の前には大量の食材が木箱に入れられ積み上げられている。
隣にいるクレアさんと、赤茶の髪の女性は妙に気合いが入っていた。
私が見つめているのに気付いたのか、女性が話しかけてくる。
「団長からは聞いたよ、私は料理長のテレシア・フォード。ご覧の通り今から夜ご飯の準備なんだけど、ユキちゃんに手伝ってもらおうと思ってね。」
赤茶の髪の女性はテレシア、と言うらしい。
赤茶の髪を一つに束ねていて、三十代前半ほどの快活な印象を受ける。
身長はクレアさんよりは高く、アレクシアさんよりは低い。
私が少し考えこんでいると、テレシアさんが何か思いつたような顔をした。
すると中腰になり、ゆっくりと口を動かす。
「あ、もしかして料理できなかったりする? でも大丈夫、初めはみんなそうだからあまり深く考えなくて大丈夫――」
「いえ、やります。」
この旅団に入れてもらった以上、私は今のところはただ何もせずに、ここにいるだけの子供だ。
重要なのは、私が使えるということを証明すること。
「じゃあ、まずはこの芋を剥いてもらおうかな。本当は皮も栄養あるから使いたいんだけど、この種類は毒が少しあってね……。あ、ちゃんと刃先に気をつけてね」
「分かりました」
私はテレシアさんからペティナイフを小さい手で握る。
料理は元々自炊をしていたので多少の自信がある。
だが、ここ一年ほどは会社の激務でほとんど自炊が出来ていなかった。
でも、現実はそうも言ってられない。
「ふぅ……」
私はゆっくりと息を吐き、ナイフを芋に当てた。
シャッ、シャシャ、シャ――!
「えっ?」
テレシアさんが素純狂な声を上げる。
手首のスナップを使い最小限の動きで、まるで芋の皮が宙を舞うように剥けていく。
一つ剥くのにおよそ十秒。
剥き終わるとすぐに私はボールへと放り込んでいく。
「ちょ、ちょっと早くないユキちゃん、あぶ――」
「クレアさんも鍋の準備をお願いします。」
「え、あ。……うん。」
するとクレアさんも鍋に水を入れて、火にかけ始めた。
長い戦いになりそうである。
大体の工程が終わり、後は煮詰めるだけである。
私たちが作ったのはビーフシチューならぬ、ワームシチューと言う料理名だった。
私がお肉を切っていた時に、『クレアさん、これってなんのお肉ですか?』と聞いたのだが、彼女の口から出て来た言葉はあまりにも予想外だった。
なんとワームの肉らしい。
そう、先ほどまで私が見ていたジャイアントワーム。
正直食べれるのか怪しいが、クレアさんがルンルン気分で鼻歌を歌っていたので大丈夫……なはず。
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そして現在、私はクレアさんの膝に座っていた。
「にしても本当に珍しい髪色。すごい綺麗。」
そう言いながら私の髪を弄るクレアさん。
私もそう思う。
先ほどからチラチラ視界に映る白い髪は前世でもあまり馴染みのない髪色だ。
強いて言うならば、アルビノとかだろうか。
それでもこんなに純白なのは見たことがない。
私はそんなことを思いながら、クレアさんの顔を思い出す。
間違いなく美少女だった。
くりくりで大きな瞳に、バランスよく存在する小さな鼻。
多分彼女が日本にいたら間違いなく人気アイドルになっただろう。
そう言えば、アレクシアさんも綺麗だった。
もしかしたら、この世界の顔面偏差値レベルは高いのかもしれない。
少し眠くなってきた頃、後ろでクレアさんが嬉しそうに『できた!』と言う。
私が後ろを振り向くと、その美少女フェイスでにこりとクレアさんは笑う。
「少し待ってて」
「分かりました……?」
一体何をするのだろうか。
疑問に思いつつ、別の部屋に行ったクレアさんを待っていると、扉がゆっくり開いた。
「クレ……アさんじゃない?」
クレアさんが帰ってきたと思い、振り返るとそこには――
「えっ、いや。あの、えと……あ、ぁぁ。」
そこには私と同じか、少し上くらいの年の少年が居た。
アレクシアさんと同じ赤色の髪に、琥珀色の瞳。
髪を短く整え、魔球の光を受けて柔らかく光っている。
身につけているのは、襟付きの白い麻のシャツに、深緑のベスト。
脚には灰茶のズボンを穿き、膝丈の革のブーツを履いている。
少し体を動かすと、腰には短いナイフの鞘が見えた。
少し笑って見せてみると、余計にテンパリだした。
大丈夫だろうか。
すると少年は口を開いた。
「ご、ごめんなさい!」
そう言って部屋から出ていった。
それと同時にクレアさんの悲驚いたような声が聞こえる。
「うわっ! どうしたのリアムくん?」
リアムらしき少年は、クレアさんと行き違いになったらしい。
もしかしてリアムくんはクレアさんに会いたかったのかもしれない。
「あ、そうだユキちゃん。はい、これ」
そう言いながら差し出してきたのは手鏡だった。
「ほら、可愛いでしょ?」
手鏡の中には私の髪が映し出されていた。
右側の髪が黒い細布と編み込まれており、白と黒だからか似合っている。
「凄い……」
私はそう言いながら編み込まれた髪を触った。
確かに綺麗だ。
私がそんなことを考えていると、すぐ横からテレシアさんの声が聞こえた。
どうやら、夕食の時間らしい。
クレアさんと私は、急いで厨房に向かうのだった。
十秒で芋の皮をむくなんて、一体どんなことをしてきたんだユキちゃんっ――!!




