再び日直当番(リレー小説の続き)
文化祭中は日直が居ない。しばらく日誌のリレー小説は止まっていたが、文化祭も終わり、日常が戻ると、再びリレー小説の続きに、頭を悩まされなければならない。
天野は、何でこんなにオレに嫌がらせばかりするんだろう…。と、悠真はため息をついた。
物語はちょうど、カラアゲ・アゲハとベーグル・ケンが協力し合いながら、ピチピチのギャルを殺した犯人の手がかりを得ようと、殺害現場であるホテルの一室に来ている場面だった。
"ベーグル・ケンは、アゲハとホテルの部屋に入ったので、したくなった。
ベーグルは、アゲハのスカートに手を入れた。
すると、あるはずのないものが、アゲハのパンツの中にあった!
アゲハは、実は男で、女装していたのだ!!"
最低だ…。ベーグル・ケンが、最低過ぎる…! と、悠真は思った。
そもそも、ベーグル・ケンは、カラアゲ・アゲハの相手役にと、創作好きの女子達が、こぞって自分たちの理想の男性像を詰め込んで誕生したキャラクターのはずだった。ホテルの部屋に入ったからと言って、相手に許可も得ずに、いきなり下着の中に手を入れるなど、あってはならない。こんなストーリー展開は、女子達の猛反対に合うに決まっている。
ここ最近は、ずっとミステリー風のストーリーになっていたはずなのに、アゲハが『実は男で、女装していた』などという設定を、なぜ天野は持ち出してきたのだろうか。
きっと、天野も女装体験が楽しかったんだろうな…。と、悠真は文化祭での夢のようなひと時を思い出した。
普段は、悠真はクラスメイト達から褒められない。それどころか何をやってもからかわれ、少しでも気を抜くと馬鹿にされてしまうので、出来るだけ存在感を消して目立たないように気を付けて過ごしてきた。しかし、女性の服を着て、メイクをしただけで「かわいい」「似合う」「素敵」と称賛された。いつもは悠真をからかう体育会系の男子達が、あの日だけは悠真の小柄な体型を羨ましがった。気分が良かった。生まれて初めて、自分の低い身長について、「悪くはないかも」と思えるような気がしたのだ。
天野は悠真ほどではないが、高校生男子の中では小柄な方だ。なので、もしかしたら悠真と同じように、女装体験をすることで周りから良い反応がもらえて楽しい思いをしたのかもしれない。そして、女装するのが楽しくなりすぎて、ついに日誌のリレー小説にまで、女装設定を持ち出したのではないだろうか…。
どうしよう。創作小説なんて、もう続けたくないのに…。と、悩んだが、ふと、以前に本田美恵がピチピチのギャルが殺害された時に言っていた設定を思い出した。
そうだ!囮の捜査官!
悠真は、もうどうにでもなれ!とばかり、少し乱暴に物語の続きを書いた。
"「やめて!」と、アゲハは叫んで、ベーグル・ケンを突き飛ばした。
アゲハは、バレてしまっては仕方がないと、覚悟を決めて、自分の正体を明かした。
「ぼくは、あやしい組織を追っている、潜入捜査官です!」"
あとは、まかせたよ、本田さん!
祈るような気持ちで、日誌を閉じ、悠真は職員室に日誌ファイルを提出しに行った。




