文化祭
文化祭の楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった。
1年B組のカフェには、他クラスや他校の友人、家族が訪れ、暇な時間があまりなかった。来訪者は、みな映えスポットパネルの前で、女装(もしくは男装)した生徒と一緒に写真を撮って送り合っていた。
悠真も、休憩時間には他クラスの催しを見に行った。化粧を落とすのも面倒なので、女装姿のまま見に行き、行く先々で「かわいい!」「似合う!」「きれい!」「素敵!」と、褒められ、写真を一緒に撮りたいという者達まで現れた。
最初は恥ずかしいと感じていた悠真だったが、段々と慣れていき、写真を撮られることにも抵抗を感じなくなっていた。
シフトの都合上、一緒に見てまわることになった高山愛良が、いつも悠真の事を気遣ってくれるのも、安心して楽しめた要因だったのかもしれない。
「足は痛くない?」「少し休む?」「次は何が見たい?」と、紳士のような完璧なエスコートだ。
おやつとして買ったクレープを食べる為に、校庭のベンチに腰掛ける際は、ハンカチを取り出し、ベンチに敷いてくれたし、食べる前と後にウェットティッシュを差し出してくれた。
「高山さん、執事みたい。」と、クリームをティッシュで拭きながら、悠真は思わず言った。
「まあ、今日の服は、完璧な執事がコンセプトだからね。」と高山は言う。
「でも、オレはメイドっぽい服着ているけど、メイドに尽くす執事って、変じゃない?」
「そうかな…?」と、高山は楽しそうに笑って、チョコレートバナナの最後の一口を頬張る。
少しの沈黙の後、
「桃木は、大丈夫かな…。」と、高山は心配そうな顔でつぶやいた。
今朝、お気に入りの衣装が引き裂かれているのを発見した後、桃木は自分が提案した男装女装カフェに参加する気になれなかったのか、森雪音と一緒に他クラスの催し物を見て回るだけにしたらしい。
先日の脅迫状めいた手紙の事もある。1年B組の教室に居たくないという気持ちも理解できる。
無惨に切り裂かれた衣装を持ち、森に付き添われて職員室に向かう桃木は、教室を出る時、悠真の方を見て、睨んだように見えた。まだ、先日の手紙を書いたのは悠真だと思われているのかもしれない。
悠真は、楽しかった気分がシュルシュルとしぼんでいくのを感じた。




