おっさんの泣き顔って
息も絶え絶え、といった様相で号泣するジョルジェさま
ぶっちゃけ、でっかいおっさんなんだから、相当に暑苦しい。
あの日に見たみたいな、滝みたいな涙。
ほんと、涙脆いっていうか、なんというか。
わたしはどこにも行かないよ。
いけっていわれたって、いかない。
っていうか、どこにもいけない。
いくところなんて、ないんだよ。
あの、前回の死の間際にだって、望んだのはあなたのところに戻ることだった
あなたにあいたくて、あいたくてたまらなかったのだよ、と
そう、伝えてあるのに
女神が連れ去ろうとしたって、意地でも戻ってきてやるし
そういう問答無用に勝手にやられるのが一番腹立つんだってば
「わたしのいるところはここ、あなたのところだよ」
ちょっと腹立ちながら、伝える。
わかってもらってると思ってた、とても大切なことを。
わかってないなんてひどすぎる。
怒っている空気を感じたのか、怯んでしまったジョルジェさまの頬を撫でてみた。
とりあえず宥めておくけど、後でお説教してやるんだから
お、涙が加速した。
すごい、こんなふうにも出るんだ涙って。
ぶわってでたよ、ぶわって。
いや、そんなことに感動してる場合じゃなくて
嗚咽をもらすおっさんが必死になんとか紡ごうとしている言葉を拾ってあげないと
「アッ、あか、あかりは、もどり、たいのかと」
お、ようやく聞こえた、でもよくわからないことを言っている。
「もどる?」
「ええ、もど、って、しまうのかと、おもったんです」
ジョルジェさまはいきなりびびーっと、鼻をかんだ。
ムードも何もない。
ほんと、おっさんなんだから。
ああ、ダメダメ、鼻かんだハンカチで涙拭っちゃダメだよ。
もう一枚、ハンカチを手渡してあげる。
たくさんもってきておいてあげよう。
全くもう、手がかかるなぁ、なんて思ったら、こちらから抱きしめていた。
でっかい、くまさんみたいな、彼の身体のあたたかさ。
なんでわたしがいなくなるとか言い出してるんだか、ちょっと腹立つなあ……
えいっ。
ジョルジェさまの腕をとって、腹立ちまぎれにかみついてみた。
左手の、薬指。
あの金の指輪はもうないけれど、あの時の味は覚えているし、今の指輪も似た味だ
あの、じょるじぇさまの、肉、と、血。
冷たく、硬かった、あの、腕。
がぶがぶ。歯は立てないけれど、痛いでしょ、ガブガブ。
あったかくて、やわらかい。
冷たくないよ。
わたしも、あなたも、ここにいるよ。
痛いだろうなんか言え、ガブガブ
「痛いです……」
泣きべそ顔で、ジョルジェさまがやっという。
「いはいれひょ〜」口に指があるから、ちゃんと言えない
がっつりガジガジしてやるんだから。
今回のシンプルな結婚指輪もしっかりガジガジしちゃう。
あ、やばい。これ金だった。修理ってできたっけ。
跡が着いちゃった気がする。
「痛いですぅ なんでかじるんですカァ〜」
「いはいれひょ」
「いたいですぅー」
あ、血が出そう。やめとこ。
「痛かったでしょ?」
「痛かったです……」
「生きてるね。よかったね」
「えぇー?」
あ、不服そうだ。
えいっ!
また、指に齧り付いて指輪を奪ってやった。
「なにするんですかー!」
「とっひゃっひゃもんー」
くちの中に、カロン、と金属の気配。
こんなことも、懐かしいけど
痛いって逃げてくれるし、柔らかいから、怪我をさせたりしないで済んだ
ああ、そんなにも硬くなっていたのか
魔女と呼ばれた記憶に、シェリスの血
ジョルジェさまの、血と肉。
「ここに、いるでしょう、わたし。そして、あなたも」
もういちど、だきしめる。「わたしはどこにも、いきませんよ」
そう言いながら、もう一度はめてあげる
ベッタベタになってるけど、気にしないもんね
「帰りたく、ないんですか? 元の世界に」
まだ半ベソだけど、はっきりした声。真剣な目で尋ねられた。




