はじめてと、なんだこれ
「それでは、ご紹介も済みましたので」と、白装束の人々は退室をしていった
……あんなところに扉があったのか。
かわりに、白い服を着た女性たちがゾロゾロと何人もやってきた。
ティーセットを乗せたワゴンを押してきたようだ。
なにやら、テーブルや椅子なども運ばれてきている。
すごい手際。
あっという間に、白一色で何もなかった部屋の中にティータイムコーナーが出来上がった。
「侍女長のキャスリンでございます。以後、よろしくお願いいたします」
懐かしい声に初めまして、をもう一度。
これもきっと、ジョルジェさまの計らいだろう。
あの、懐かしいあのお家での穏やかな暮らしで、よりそってくれた侍女のキャスリンだ
「ひとまず、こちらでご休憩されてくださいまし」
と言って差し出してくれたケーキは、わたしの大好きだったナッツとりんごのもの
素朴な生地の中に、細かくキャラメル味のナッツが散りばめられているもので
キャスリンのお得意のレシピだったはずだ。
三日くらい前のお茶の時間にも出てきた、メニュー。
あんまりな違いに、つい「懐かしい」とおもってしまうけれど
実際の体感時間としては、あの馬車から数時間も経っていないのだ
「いつもの」と「懐かしい」の間のような不思議な気分。
よろよろと、ソファから立ち上がってテーブルに着くと、紅茶がサーブされた
これも、わたしが好きだった茶葉の香りだ。
「こちらのメニューは団長さまが選ばれました」
と言われて納得しかなかった。ジョルジェさまの細やかな心遣いを感じる。
キャスリンの柔らかい笑顔。
温かい紅茶と、優しい味のケーキ。
なんだろう。
また、涙が溢れてきてしまう。
「あらあら、どうなされましたか」
周囲にピリッとした空気が流れる。
ああ、迷惑をかけたい訳じゃないのに。
「大丈夫です。なんで涙が出るか自分でもよくわからないのです」
「……聖女さま……」
周りの女性たちも不安そうにしている
わたしが不安そうにしてはいけないのだろうけれど、涙は止まらない。
ああ、もうどうしよう
そんなとき、ジョルジェさまが戻ってきてくださった。
白装束を羽織っているとはいえ、見慣れたあの魔道士の服だ
「どうなされました? アカリ様」
「その、出立は……」
「この方がご安心されるかと思いまして、召し換えてきました」
ああ、この、姿と、笑顔。
また、涙が溢れてしまう。
だめ、とめたいのに。
そう思うともっと、もっと、涙が溢れて止まらなくなってしまう。
「大丈夫ですよ。ここは、大丈夫です。」
穏やかな低い声が強い強い説得力でわたしを撫でて宥めるように告げてくれた
「あなたが脅かされることはありません。あなたは今や、“女神様の使者”なのです」
「女神様の使者……?」
「はい。女神様が三月ほど前にこうお告げになられたのです。 “サンネスコの泉の元、我が手により護りをもたらす少女がおりたつ” と」
なにそれ。
……今までそんな話聞いたことないんだけど。
っていうか、そもそも王太子の部屋じゃなくてなんでここになってるんだろうとかいろいろあるんだけど……口を開きかけた途端、ジョルジェ様に遮られた。
「言いたいことや尋ねたいことはたくさんあると思いますが、何卒」
ああ。記憶を持っていることを悟られない方がいいのか。
「近いうち、必ず詳細をご学習いただける時間を作りますので」
そう言われてしまっては仕方ない。
あの後、彼がどうなったのか、国がどうなったのか、シェリスがどうなったのか
聞きたいことはたくさんあるけれども、それを今問うことは難しいということは、わかった
涙は、いつの間にかひいていた
とりあえずわかったことは
“なんだかわからないけれど、全く違うもう一巡目がはじまった” ということだ
そして “とりあえず、すぐころされてしまうことはなさそうだ” ということ
うん、それだけでとりあえずは大丈夫だ。
多分今日は、あの日と同じ日。
きっと、まだ時間もある
ふと、胸元のポケットに違和感を感じた
何か入ってる。
こんなところに、何か入れたことはないんだけどな……
と思いながら、それをとりだそうとしてみたら
指に触れるのは硬い感触。
カチリ、と無機質な響きが伝わってくる
つまみ上げてみると、乳白色に輝く、小さな石だった。
すかしてみると、中に七色に燃え上がるような小さな炎。
オパールのようにも見えるけれど、ああいう静かな光ではない。
中で、明らかに炎のように動き、ゆらめいている
ものすごきく綺麗だ。
でも、なんだこれ。こんなものはみたことがない。
ガタッと立ち上がったジョルジェさまが慌てた声を出した
「そ……それはなんですかアカリ殿」
この人がこんなに慌てているのはあんまり見たことがない
「何か、ポケットにはいっていました。全く覚えがないのですが」
「ものすごい神力を感じます……」
「え……、えぇー」
本当に全く、覚えがないのだ。
こんなに美しいもの、見たこともない
小指の先ほどの、球。
「見ます?」とジョルジェさまに差し出してみた
と
彼が触れた瞬間、バチンと音がして、七色の火花が飛んだ。
瞬間的に手を引くジョルジェさま
「なにこれー!」




