はなとひかりと
ムーンマーガレットの花の香りが、溶け込んだ温かいミルクが体に染みる
それとともにそのやわらかに華やかなやさしい香りもしみこんでくる
ムーンマーガレット
あの日とおなじ、優しい花の香り。
『小さい頃、わたしが泣くたびに、周囲のものがこれをつくってくれたのだ』
と、ジョルジェさまがてれくさそうに教えてくれた、その飲み物。
うん、今回も、違う。
うん、何もかも、違う
納得が訪れ、緊張感がゆらいでいく
……平伏しっぱなしの白装束さんは気になるけれど
周りを見る余力がでてきた。
ぽちゃぽちょ、さらさらと、ゆったりと流れる水の音
漂うムーンマーガレットの香り
それ以外にも何かグリーンの香りがするのはきっと、この空間の香りだろう
草原のような、微風のような香りがする
注がれているのは、柔らかいあかり。
日光のような気もするけれど、それよりも柔らかく降り注ぎ、あたためてくれる
座っているのはソファーと寝台が合わさったようなもの
白と落ち着いた木目とでつくられていて、ふわふわしている
そして、ジョルジェさまの、優しい目。
守られて、慈しまれていることを感じる
こわばっていた体が、ほどけてゆく
わたしが周囲を見回すのをまっていたように
ゆっくりと、離れていったジョルジェ様の声が、響く。
「あかりさま、このものたちは、この宮の神官と神官騎士たちです。ご紹介させていただきます」
「神官騎士…??」
「そうですね、最近作られた役職なのですが……その辺りは、また説明いたしますね。
あなたをお守りするための騎士団だとお考えください」
「え…」
「それでは、皆、面をあげよ」
ジョルジェさまはさすが、わかっている。
わたしがシノゴの言い始める前に、紹介を始めようという魂胆だ。
彼の説明によると平伏していたのは数名の高位の神官、そして“神官騎士”だった。
以前は引きこもりだったのもあるけれど、全く見たことのない衣装だ
……ひとりひとりの名前と役職を教えてもらったけれど、ひとつも覚えられなかった
……それを見ていたジョルジェさまはニヤニヤしながら、あーぁ、って顔、してた。
あとで、ちゃんと覚えられるような書付を手渡してくれたけど。
準備いいなぁ。ありがとう。
なんでも、数ヶ月前に女神さまからのお告げがあったらしい
何月何日頃にこの「サンネスコ神殿の泉の傍ら」に聖女が降臨するぞって。
それで組織されることになった神官騎士隊にジョルジェさまは名乗りを上げたんだって。
っていうかお告げとか今回まではなかったの?
サンネスコ神殿、っていうのは聞いたことがあった。
たしか、ジョルジェさまのおうちからもそこそこ近い、大きな神殿だったはず。
大きな儀式とかも行う女神さまの神殿で、私たちの結婚の時もそこから神官さまを呼んだはず。
いつか見に行きたいね、なんて言ってた場所でもある
こんなに綺麗なところだったのねえ、と思うとともに、たしかにすごい。
ここにいる神官さまのなかでも偉い人は、一番偉い神官さまだったし、
いわゆる「そろいぶみ」というやつだったらしいのも、納得の規模だ。
この人たちに聖女さま、とか言われたわたし。
ならばわたしの安全はもう保証されたようなものではなかろうか
ほっとした。
すぐに殺される、とか、付け狙われるとかいう流れはなくてすみそうに思える。
何よりも、ここにいる人々は皆、笑顔なのだ。
わたしを見る目が、笑っている。
刺すような、射るような、あんな目つきでは全くないのだ。
ぎゃくに、居た堪れない気分になってくる
なんなんだろう
どうしてこんなに違うのだろう。
いいことのはずなのに、もう、訳がわからない
ぽーっとしたあたまのままで、曖昧に笑ってその場をやり過ごすことになった。
ほんと、この状況の変化が劇的すぎてついていけない。




