さいかい
突然に響いた大きな声に、やっぱりここでもか、と身構えたのも束の間
その、唱和された言葉に度肝を抜かれてしまった。
「せいじょさま」とはいったい……
なにがどうした……
今どういう状況なのか、皆目見当がつかない
白装束たちはなんだかすごくキラキラした目でわたしを見ているし
遠くの方からゆったりとした音楽まで流れてきている
わたしの服は、また、制服に戻っているし、髪だってあの頃の長さだ
小さく、四肢が震えている。
やっぱり、動いていいのかわからない
あんなループに入るのはもう、たくさんだ
これだけ違っていても
もしかして、が、ふりつもる
平伏していたうちの一人が、俯いたまま、半身を起こした
ひざまづいた体制になったのだろうか
真っ白な布をかぶっているので、顔は見えない
孫悟空の輪っかのついたてるてる坊主みたいだ
「発言を、お許しいただけますでしょうか、聖女様」
びくん、と、体が大きく反応してしまった。
どうしよう、もしかして……きのせいじゃないのかな
「……その、聖女というのはわたしのことなのですか?」
掠れた声で、問い返す。こないだよりはかなりマシな声だ、なんて小さく笑う
「間違いなく、あなた様のことです。女神より遣わされし尊きお方」
女神。
さっき見たあの人のことかな?
だとしても、訳がわからない。
ひざまづいたまま、その声は続けた
「神官騎士団長、ジョルジェ・オーランディー。お迎えにあがりました」
こしが
ぬけた。
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立ち上がった彼はすぐにうわごろもを脱ぎ去り
その懐かしい、顔、笑顔をみせてくれた。
あふれる涙とともに、込み上げてきたのは情けない嗚咽
なんだか、聞き慣れない肩書きがついていた気がするけれどどうでもいい
「失礼します、あかり様」
ああ、あなたも、覚えているのか。
そっと抱き寄せられた。
あなたからは、懐かしいにおい。
「じょるじぇ、さま……」
「はい、あかり様、はじめまして、ですね」
「はい…、はいっ」
そう、はじめまして。
今の、この世界では、初めまして。
やさしく、とんとんと背中を叩いてくれる彼の手に、涙がどんどん溢れ出る
会えたんだ。
もう、会えたんだ。
あなたの腕の中に、いまいるんだ。
落ち着くまで、根気良く待ってくれたジョルジェ様だったが
一段落ついた頃合いに
そっと、泉の傍らの寝台のようなソファーのようなところにわたしを乗せた
「あかり様、すみません、少々所用を済まさせていただけますか」
「は、はい……」
しゃくり上げながらも、なんとか息を整える。
ふわふわの、真っ白なソファ。
そして、ジョルジェ様はわたしに、一つのマグカップを手渡した
ほわりとただよう優しい、ムーンマーガレットの、におい
また、涙が溢れる。
あたたかい、このにおい。
ひとくち、口に含むとふんわりと、花の香り
ああ、救われていたんだ、もう、わたしは、あのときに。
ぽろり、ぽろり
こぼれる涙はとまらない、けれど
花の香りと同じような柔らかさで
涙とともに、何かが溶け落ちていくのを、感じていた。




